カナガキ隊長のナビ's発見トーク No.1宮西達也さん

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絵本作家と夜の蝶の二足のワラジを履いて耐えた10年間
金柿 どうもお久しぶりです。以前、宮西さんの著書「おとうさんはウルトラマン/おとうさんの育自書―DADDY AND CHILD CARE BOOK ウルトラマンえほん」の対談でお会いしたのが今年の3月ですから、もう半年以上ぶりですね。今日は再会できることを楽しみにしていました。よろしくお願いします。
宮西 こちらこそ。このところ全国各地で講演が続いて疲れ気味なんですよ。
金柿 どうかご無理なさらずに。宮西さんのホームページで日記を拝見する限り、かなりご多忙のご様子ですものね。絵本作家でありながらこれだけ講演活動もしてらして、作品も創れる方ってあまりいませんよ。宮西さんの絵本作家デビューはいつ頃だったんですか?
宮西 ちょっと遅めで28歳。絵を描くのが好きで大学の美術系学部を卒業して、広告のグラフィックデザインの会社に勤めていました。仕事自体は嫌いじゃなかったけれど、どうしても絵を描く仕事に就きたかったんです。妻は大学時代からの仲間なので、ある日「会社を辞めたい」と言うと「あなたの人生なんだから」と理解してくれまして。
金柿 ああ、僕も同じような経験があって今があるので、よくわかります。パートナーに感謝ですよね。
宮西 うん、本当に。でも、一人目の娘が産まれた頃でしたし、それからが大変でした(笑)。「亭主元気で留守がいい」という広告コピーが流行った時代でね。好景気で皆忙しすぎるせいか、普通の家庭でお父さんの影が薄かったの。そんなことを反映してか、絵本は旧くからのロングセラー作品か、お父さんなんてチョイ役程度にしか使われていないストーリーが主流でした。
金柿 ああ、21年前というと80年代前半で時代はバブルでしたよね。僕は高校生でしたが…。その時代から絵本も変遷しているわけですね。
宮西 そう。僕が創る絵本には「お父さんの存在」、父親のキャラクターをちゃんと出していきたいと思いましてね。当時、妻からの勧めもあって、彼女が絵本のストーリーを考えて、僕が絵を描いた共同作品を片っ端から出版社へ持ち込みで回りました。で、ひとつの出版社で「おもしろいね」と言ってくれた所(フレーベル館)があって、めでたく作品として世に出せることになりました。本屋さんに初の作品が平積みされた時は、そりゃあうれしかったです。
金柿 それは宮西さんの実力もさることながら、やっぱり奥さんのお力もあってのデビューで。いいお話ですね。
宮西 でもね、続きがあってそれからがもっと大変で(笑)。デビュー後、約10年間は絵本の創作と夜の蝶の二足のワラジ。まあ、夜の…といっても、僕の場合は肉体労働がメインでしたけれど。ガードマン、工事現場、工場など転々としながら、日中は仕事の電話があるかもしれませんから家にいました。
金柿 僕は地元が国立市で宮西さんとお近くですよね。
宮西 そうですね。当時、あの界隈のほとんどの水道管や下水道管を僕は掘ってました(笑)。10年間は経済的に不安定な生活でしたが、その間に二女二男に恵まれて。今は、上から大学3年、大学1年、高校1年、中学1年となって皆大きくなりました。
金柿 すごいなぁ。僕なんかまだ娘一人ですけど。奥さんと4人のお子さんが心の糧になって頑張れたっていうのもあるのかな。
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絵本作家としてブレイクしたキッカケは「おっぱい」
金柿 デビューから苦節10年と一言でいってもなかなかできることではないですよね。38歳の時、何がキッカケで絵本作家として軌道に乗られたんですか?
宮西 おっぱい」(鈴木出版)という作品をある偉い先生が取り上げてくれたことが大きかったですね。そのうち、『この「おっぱい」を描いたのは誰なんだ?』ということになって。下の子ができた上の子の心の葛藤みたいなのを描いた作品なのですが、その作品が売れるようになって「にゃーご」「おとうさんはウルトラマン」「はらぺこおおかみとぶたのまち」と次々と続くようになりました。
金柿 宮西さんの作品には、お父さんの悲哀というか子どもに対する男親の気持ちが込められていて、多くのお父さんが共感できるものですよね。僕はどの作品を読んでも感動します。
宮西 僕ね、「おまえうまそうだな」だけでなくナンセンス絵本とかでもそうなんですけれど、根底にやさしさとか思いやりがあるものを創りたいんです。それを軸にして親子や友情を描きたいなと。
金柿 おおかみとかティラノサウルスとか強くて怖い存在でも、宮西さんの作品では、ちょっとマヌケでやさしさを秘めたキャラクターとして描かれているのは人生哲学なんでしょうか。
宮西 それは僕の母が読んでくれた絵本から影響を受けているのかも。僕が小さい頃は、今ほど絵本の種類もなかったので、母は「三匹の子ブタ」を海外の原書で読んでくれていたんです。でも怖いんですよ。日本の絵本だと子ブタのレンガの家にオオカミが煙突から入ってヤケドして逃げていく…で終わるけれど、オリジナルだと釜茹でにされて子ブタたちに食べられてしまうんですよ。その子ブタたちの意地悪な表情もリアルでね。"そこまですることないだろ!かわいそうなオオカミ"…という気持ちが僕の心にずっとあって。だから今の作品で描くと、猫とネズミ、ティラノサウルスとアンキロサウルス、オオカミと子ブタ…のように強いのと弱いのを登場させつつ、強いモノでも心温かな存在として描いています。
金柿 なるほど。「おまえうまそうだな」に出てくるティラノサウルスも、そういうテーマから生まれたキャラクターなんですね。
宮西 そう。父親って母親と違って「親の自覚」って段々にしか芽生えてこないでしょ。ある意味で「育ての親」なんですよ。実際、僕でなくっても親子関係は築けると思うの。「育児は育自だ」と僕が言うのは、子どもと向き合うことで、そういう自分自身の学びになることだから。
金柿 今でこそ色々な識者の方も同様に語っていますけれど、宮西さんの場合、4人のお子さんを育ててらした経緯と時間の濃さから、その意味合いの重みを感じますよ。「おまえ…」を創っている時はお子さんに「こんなお話を創っているんだよ」とか話しました?
宮西 ええ、ラフ画とか見せていましたよ。「ねえ、これおもしろいでしょ?」とか言って。子どもは正直ですから、結構ちゃんと笑いをとれたものが作品として残るんですよ。
金柿 素晴らしいですね。子どもに自分の仕事を語れる上、その作品が世の中に出るというのは。
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絵本はお芝居、DVD絵本は映画のように楽しめる
金柿 さきほど「おまえうまそうだな」を「うごく絵本」で拝見しましたが、ご覧になっていかがでしたか。
宮西 完成するまで制作スタッフと一緒にじっくり創りこんできました。音や声、動きなどすべて想像以上にとてもよくできているのでうれしく思っています。
金柿 僕は初めて拝見したのですが、オリジナルが大好きで「パパ’s絵本プロジェクト」のお話し会でも、よく読む作品なんです。映像化された作品を見て、ストーリーの素晴らしさがもっと理解できました。
宮西 僕は元々映画が好きで、学生時代は一年に365本以上は観ていたんです。ですから絵本が映像化されることに少し不安でしたけれど抵抗感はなかったですし、むしろどんな演出をしてくれるんだろうと楽しみでね。言ってみれば、絵本の作者とは「映画監督」のような存在です。主役や脇役、構図を決めれて、脚本書けて、何から何まで一人で決めてストーリーとかキャラクターを動かせるし、見る人へ創造力を与える仕事。でも、悲しいことに音だけは再現できない。映像は音が効果的にプラスされることでそこに世界観が確立されて、観る者に隙間を与えないから別の楽しみ方ができますよね。
金柿 絵本は読み手の力量に左右されるところがあるけれど、ページとページの間の世界も「想像できる楽しさ」があります。一方、映像は圧倒的な世界に身を委ねるような「ジェットコースター的な楽しさ」がありますね。
宮西 個人的に僕は、この「おまえうまそうだな」の中で星空のシーンが好きなんです。映像でちゃんとチカチカと煌めいていたのでうれしかったなぁ。
金柿 BGMや絵の微妙な動きは、映像ならではの表現ですね。ひとつの作品がまったく違う楽しみ方ができるように思うんですが、作者である宮西さんはどのように思われますか。
宮西 絵本と映像は、二通りの楽しみ方ができると思いますね。絵本の読み方って各ご家庭で微妙に違いますけれど、DVD絵本は完成度の高い一つの読み方という気もします。それと、ドカーン、ドドド、バリバリ…といった擬音語はちゃんとそれらしい音が付いている点とか、ティラノサウルスが登場するシルエットが揺れる効果とか、映像ならではのワクワク感があります。
金柿 僕は絵本の読み方に独特なクセがあるんですが、「うごく絵本チルビー」を観て「ああ、こんなふうに読むといいのか」とか「ここはこういう感じでよかったんだ」というように鑑賞しながら新しい発見がありました。
宮西 ストーリーは同じでも別々の作品ですから、別々の楽しみ方ができるということなのでしょうね。
金柿 そういう意味では、先に絵本を読んでいても「うごく絵本チルビー」を観ていても、どちらの作品も知りたくなる、相乗効果がありますね。
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<構成・文/マザール あべみちこ>
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宮西さんの意外な経歴を知って興味津々
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宮西作品のテーマは奥が深い
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「うごく絵本チルビー」を鑑賞し真剣な眼差し

映像の星空シーンが、想像以上の煌めきだったと感激する宮西さん

絵本と映像のそれぞれのよさを熱く語り合う



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