カナガキ隊長のナビ's発見トーク No.1荒井達也さん

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予測不能な荒井ワールドのうけとめ方
金柿 フットサルでは何度かご一緒しておりますが、今日はよろしくお願いします。
荒井 こちらこそ。仕事ではお初ですね。
金柿 まず昨年、スウェーデンの児童少年文学賞である「アスリッド・リンドグレーン記念文学賞」を日本人で初めて授賞されまして、おめでとうございます。審査員に「斬新、大胆、気まぐれ、独自の発光力をもつ作家」と高く評価されたとうかがいました。
荒井 ありがとうございます。むこうで聞いて初めて、ああ僕がもらったんだなぁ…と(笑)。それまでは何か間違っているんじゃないかと思っていたので。ものすごく絵本に愛情をもっている方々が審査員なんです。作品を見なくても「あのページのどの場面が…」なんて指摘してくる。
金柿 「予測不能」という評を見て、言い得て妙!!と思いましたよ。海外では何か発見はありましたか。
荒井 発見というよりも、よく日本の一人の絵本作家の作品に目を留めてくれたなぁと。滞在期間中はずっと目まぐるしく取材攻勢にあい、授賞式の夕飯もマクドナルドをテイクアウトしてホテルで食べたり…なんてハードスケジュールでね。
金柿 それは大変でしたね。ところで、今ご覧いただいた「そのつもり」うごく絵本ですが、完成までにどんなリクエストを?
荒井 ナレーターの声にはこだわりがあってオーディションした中から、チョット渋めの男性の声を選びました。他はまったくといっていいほどお任せしました。本当に綺麗に、良くできていますね。
金柿 色がすごくきれいですね。このお話は、環境保護がテーマだとうかがいましたが。
荒井 というか、色々に受け取れるように仕向けています(笑)。答えはひとつじゃないということを伝えたくて創っています。自由に解釈してください。
金柿 考える余地を残して、その人なりに解釈してほしいということですね。読者からの反応は、どうですか。
荒井 よくお手紙をいただきます。あとがきとか解説を知りたいという要望が多い(笑)見た人が好きなように解釈できるのが絵本の良さだと思うんですが、どうしても答えは一つだろうとか、私は間違っているんじゃないかと不安な人もいて、確かめたくて僕に手紙をくれるみたいです。
金柿 絵も作も荒井良二ワールドの作品は、書かれていない意味がとっても知りたい人が多いんでしょうね。「絵本ナビ」でも色々な受止めかたをした人からの書き込みが多いですよ。例えば「はっぴぃさん」について。「はっぴぃさんが来なかったのはどうなのか」とか「来なくても気づきがあればいいんだ」とか「平和への願いをこめています」とか、人それぞれで解釈の仕方が多彩なわけです。ブラインドコンセプト(表面上には表れていない考え)として描かれていることが受けとめ方の差になっているのでしょうね。
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「そのつもり」に込めた思いと登場人物像
金柿 そのつもり」ではたくさんの動物が登場しますが、最後のシーンでニューっと牛が出てきますよね。この牛にはどんな意味が…??
荒井 牛は家畜なので「人間側の動物」として描いています。他の動物は家畜ではないけれど、牛は人間の象徴みたいな感じ。大きい動物だから他の動物が逃げていったのでなく、人間が来たから逃げたことを表現しました。
 
「そのつもり」より
青い牛の登場シーン

金柿 僕は森の緑がきれいなのですごく好きです。青い牛もいいですよね。これ青くしたのは何か狙いがあった?
荒井 狙いは特に無いんですよ。でも、なぜ牛が青いのか、とよく聞かれます。絵本っておもしろいもので、クマが服を着ててもほとんどの人が不思議に思わないけれど、見慣れない色を使っているとどうして?となるんですね。服着たクマより、よほどリアルだと思いますけれど(笑)。あえて言うなら、森が本来持っている色として選んだというのはありますけど。
金柿 ちいさなこえで はなしあうのがきこえてきます ちいさくちいさくきこえてきます』という最後にもメッセージが?
荒井 弱い立場の人の意見は、なかなか通らない。でもあきらめないで小さくても続けていこうよ、というメッセージなんです。
金柿 荒井さんの絵本は全般的に、ゆっくりとか、ちいさくとか、そういう表現が空気として流れています。
荒井 強い動物とか、特定の能力をもった登場人物はなるべく描かないようにしている。よくありがちな子どもを描くことのほうが多い。
金柿 子どもから見ると、そういうキャラクターは感情移入しやすいですね。
荒井 ヒーローみたいなキャラクターは憧れとして描ける。でも僕は絵本をキッカケに読者とコミュニケーションしたい。
金柿 荒井さんの作品、全部そういうふうに考えて創られているわけですね。これまで何冊くらい創られましたか。
荒井 インディーズ(数限定版)絵本を合わせると100冊以上は手がけています。自分で創っておきながら、その作品を持っていないものも多い。全部人にあげちゃうから(笑)。
金柿 作者も持っていない絵本なんてすごいレアですね(笑)ほしいなぁ。では「そのつもり」で一番気に入っているページは?
荒井 リスのシーンです。リスは、僕なんです「なにもしなくても いいとおもいます」っていう。この作品を創る発端があって、うちの近くに鉄線で入れないようにした公園があったのですが、いきなり綺麗な公園になってしまった。個人的にはあまり好きじゃない砂利敷いて、面積に似合わないベンチを少しだけ置いて、何か管理し過ぎなんじゃないかなと。何でも放っておくことができない時代なんですね。
金柿 何か有効利用しようという思いになってしまう。
荒井 そのままにしておく、という選択肢がほしい。絵本って時代を超越しているものだという位置づけですが、今生きている人の時代性を汲み入れてはいけないだろうか、と思ったわけです。
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営業活動ゼロ、人とのつながりで絵本作家に
金柿 絵本作家になる前はイラストレーターとして賞もお取りになっています。絵本作家に転身したキッカケは何だったのですか。
荒井 いや、自分でイラストレーターなんて名乗ったことは一度もないんですよ(笑)。僕、今もって名刺も持たないので肩書きって特に自分で付けたことない。
金柿 初回インタビューの宮西達也さんと同じ大学学部で学年も一緒です。
荒井 何も接点が無かったですけれど。2つしかなかったけど違うクラスでしたし、僕は5年掛かって大学卒業。友達を介して飲みに行くようになったのは卒業後ですね。
金柿 卒業後にどこかの会社に就職されたんですか。
荒井 はい。後にも先にも一回だけ就職を。グラフィックデザイナーとしてある会社に決まっていてね。でも名刺が出来上がった入社9日目で辞めちゃった。
金柿 それはやはり、感覚的にそういう環境での仕事が違うと思ったからでしょうか。お辞めになってからはどんな仕事を?
荒井 それから焼き鳥屋でずっと焼き鳥焼き続けていましたねぇ、2年くらい。大学のある先生と仲良しで、店を紹介されたんですよ。僕は成績悪かったんですけど、その先生には可愛がってもらっていた。先生が大学の傍にある焼き鳥屋で毎日飲んでまして。店に欠員が出たから、って電話がありまして(笑)。僕は運送屋のバイトを辞めて、その紹介で焼き鳥屋の仕事に就きました。
金柿 その間も絵は描き続けていた…。
荒井 でも、出版社に持ち込みできるくらいの作品なんか一つもできなくて。焼き鳥屋に来るお客さんが、美術と出版と演劇の関係者が多くて、店の親父さんが紹介してくれるんですよ。「こいつ、いい絵描くんですよ」って。で、出版社の人に作品見せにいっても「絵では食っていけないぞ」なんて説教されたり。でもま、折角だからちょっと描いてみてよ、と言われてその場で描いたら「あれ、なかなかいいね」。そのうち、「向こうの部屋でも絵描ける人探しているから行ってみれば??」という感じで。
金柿 どんどん紹介されてお仕事をされていった。
荒井 はい、だから売り込みとか全然していません。人とのつながりや紹介で今日に至っています。絵本もそのつながりの延長にあって、ある時ある絵本プロデューサーに声を掛けられてシリーズ絵本のひとつを任されたんです。錚々たる大先生のメンバーに、なぜか一つも作品を創っていない僕にチャンスを与えてくれた。
金柿 それが、トムズボックスの絵本編集者・土居さんですね。フリーの絵本編集者は当時かなりいたんですか。
荒井 いえ。すごく珍しい存在でした。その時の作品は売れずに終わったのですが、それがキッカケとなって色々な図書館に呼ばれて講演しました。91年当時、司書の方々には「子どもを無視した作品だ」とか「若い女性にターゲットをあてた作品ですね」「作家のエゴで成り立っている」とかケチョンケチョンに言われましたね。そのシリーズ絵本は、大人と子どもの垣根を取り払って創る絵本、というコンセプトがあったわけなんですが。怖かったですよ(笑)。
金柿 いわゆる良書主義の時代に、荒井作品の新しさは風あたりが強かったわけですね。僕は今でも絵本ナビでのお薦め絵本、色々指摘を受けますよ。「これが入っているのはおかしい」とか。おかしいと言われても 良いと思って選んでいるものなので、困ってしまうんですけれどね(笑)。
<構成・文/マザール あべみちこ>

>>> うごく絵本「そのつもり」はこんな映像です。(サンプルムービーをご覧になれます)

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絵本とは別の楽しみ方ができる、「CHILBIEのうごく絵本」を観てみよう!
CHILBIEうごく絵本


授賞の喜びを語る荒井さん。読み手に解釈を委ねる荒井作品は、海外でも高く評価された
「そのつもり」
そのつもり
作・絵: 荒井 良二
講談社 \1,600

絵本ナビにも荒井作品に魅了された人から感想が多く寄せられる、と話す金柿事務局長
はっぴぃさん
はっぴぃさん
作・絵: 荒井 良二
偕成社 \1,300

ストーリーや言葉だけでなく、描く絵の色、動きなど一つひとつに意味がある
「ぼくのキュートナ」
ぼくのキュートナ
作・絵: 荒井 良二
講談社 \1,200
「ルフラン ルフラン」
ルフラン ルフラン
作・絵: 荒井 良二
プチグラパブリッシング \1,600
「すっぽんぽんのすけ」
すっぽんぽんのすけ
作・絵: 荒井 良二
学研 \1,200
「ぼくとチマチマ」
ぼくとチマチマ
作:もとした いづみ/絵: 荒井 良二
鈴木出版 \1,000
「おばけのブルブル」
おばけのブルブル
作・絵: 荒井 良二
講談社 \1,500
「スースーとネルネル」
スースーとネルネル
作・絵: 荒井 良二
偕成社 \1,000

もともと荒井ファンの金柿事務
局長は、夢にまで見た対談
たくさんお話ができ興奮気味



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