「はしるのが とても おそい おおかみがいた。」
……走るのがおそい!? もうこの最初の一文で驚かされてしまいます。
だって、おおかみの足が遅いなんて、致命的。しかもぶたよりも遅いというんですから、おかしな事が起きない訳がありません。案の定、彼はどれだけ追いかけても一匹もぶたをつかまえられない。そして、思うのです。
「いちどでいいから、ぶたを腹いっぱい食べてみたい」
そんな時通りかかったのが、きつね博士。なんでも、とっておきの薬があると言うのだけれど……どう見てもこれは怪しい、ですよね。
さて。ここからは抱腹絶倒、ただひたすら笑ってしまいます。「ぶたのたね」「たわわになったぶたの実」「ぞうのマラソン」そして……。なにが起きているのかは、読んでからのお楽しみ。絵本の中でずっと変わらないのは、おおかみはずっと必死だということ。でも、だからこそ。ヘンテコな事件が起こり続けるのです。もうそれは見事なものなのです。可笑しくてたまりません。
ちょっぴりシュールでナンセンスな作品の多いイメージのある佐々木マキさんですが、このシリーズは深く考える暇はありません。だって、いい意味でとってもばかばかしい。何回読んでも後には残らない。それはきっと主人公のおおかみがちっともめげない楽天的なキャラクターだから? 心配ご無用、彼はその後も「また」「またまた」「またまたまた…」ぶたを追いかけ続けているようですよ。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
お子さんと読んでいたら、途中でふきだしてしまって先が読めなくなってしまったというおとうさん、おかあさんがたくさんいる絵本。なにしろぶたが木にたわわになるのですから。ぞうがマラソン大会を開くんですから。これは、もう何も考えずに楽しむのが一番いい。
面白いけれど、結構ブラック
佐々木マキさんの絵は、くっきりと描かれていてとても楽しく感じる部分と、どこかに斜に構えたニヒルさの部分があるように思います。
木になるブタの実、ゾウのマラソン大会、豚より弱いオオカミ、なんだかすごい設定です。
子ども心にげらげら笑うほど単純ではなく、少しひねくれてしまった自分は物語の登場人物の設定にものすごいアイロニーを感じるのです。
はたしてありえない話なのだろうか?
オオカミはブタより弱いとは決まっていない。
ブタのなる木があったっていいじゃないか。
想定外の騒動だってあるじゃないか。
木になった豚は、ゾウのマラソン大会で落ちてしまって、逃げていきます。
一匹残ったブタの反撃に立ち向かうことのできないオオカミ。
ブタにかなわないオオカミは、逆に火傷をしてしまって踏んだり蹴ったり。
悲しいけれど、とことんついていないことってあります。
だから、私は次はきっとブタを食べてやるぞと、またブタの木を育てようというオオカミの気持ちが痛いくらいよく分かるのです。
この絵本、大人向けですか?
(ヒラP21さん 50代・パパ 男の子15歳)
|