絵本『めかくしおに』のできるまで
夏にぴったり、ちょっぴり怖い妖怪の登場するこんな絵本が発売になりました!
『めかくしおに』
もとしたいづみ・文 たんじあきこ・絵 ほるぷ出版刊
雨上がりの夕方、神社の鳥居の向こうには、こわくて、ちょっぴりあたたかいもののけ達が待っている。のっぺらぼうに、ろくろっくび、かさこぞうに、ぬらりひょん。不思議な世界に迷い込んでみれば・・・。きつねのおめんで「めかくしおに」をした少女つきこがもののけの世界に迷い込んでしまうお話です。
文章は『すっぽんぽんのすけ』『ふってきました』のもとしたいづみさん、
絵は『ありさんぽつぽつ』や『春はあけぼの』のたんじあきこさん。
絵本ファンならとてもワクワクしてしまう組み合わせですよね。
『めかくしおに』はそんなお二人の出会いによって生まれてきた絵本なのだそう。
その制作過程は一風変わったものだったそうで、その様子を、担当編集者の方の目線から紹介して頂けることになりました!私達読者はめったに見る事のない、形になる前の作品というものにも触れることができるとても興味深い内容の記事となっています。お楽しみください!
■『めかくしおに』ができるまで
今回ご紹介する絵本『めかくしおに』は、作家(もとしたいづみさん)と画家(たんじあきこさん)が何度かやり取りをしながら完成していった本なのだそうです。
その時の様子を思い出しながら完成までの過程を、編集を担当されたほるぷ出版の中村宏平さんが語ってくださいました!
2008年9月18日 打ち合わせ。
中村から、もとしたさんとたんじさんで、妖怪の絵本をつくろうと提案
(※このように、文章が出来上がる前に、画家が決まっていて、なおかつ事前にみんなで会う、ということ自体、そんなにあることではありません。多くの場合、まず本文テキストができあがり、その後でその内容にあった画家に依頼することの方が多いと思います。)
2008年10月26日 もとしたさんからプロットが届く。
以下、もとしたさんのメールの抜粋です。
現代の家族が旅行へ。古い旅館に泊まる、という話。
その由緒あるという古い旅館は夕闇にぽつんと建っている。
家族構成は両親と姉弟か姉妹。昔の人の姿で出迎えた女将と女中たち。
大人船と子ども船にわかれて、小さな川を部屋まで移動。
おもしろがる両親と、わくわくするけどちょっと怖い子ども達。
霧が濃くなる。。。と、船頭さんの姿が、あれ? 別のものに見え。。。
不思議なものたちが現れて。。。
決して怖いだけではない、かわいかったり楽しげなものたちだったり、
薄暗がりに潜むものたち。
脅かそうというものではなく、一緒に遊ぼうよ、という感じのもののけたち。
数時間経ったように思えたが、部屋に着いた船からおりると、
なにも変わったことはなかったという親。
どうやらものの3分ほどのことだったらしい。
部屋に用意された食卓を囲む。
わーい、おいしそう! と喜ぶ子どもたちだが
何かがありそうな予感の旅館。
というもやもやっとしたものを感じさせるラスト。
本来ならここで、編集者と作家(もとしたさん)で打ち合わせをして、この方向でいこうとか、もう少し怖い感じに、などの意見交換をして、実際の本文を書いてもらうのがふつうです
(※このプロットだしをすっとばして、いきなり原稿をいただくこともあります)。
でも、作家と画家が会うことから始まった企画なのだから、その前に、一度、たんじさんに、この設定文を読んでイメージしたものを絵に描いてもらおうと思いつきました。そこで、もとしたさん、たんじさんの快諾を受け、イメージ画を依頼しました。
2008年12月上旬 たんじさんのイメージイラスト完成。
たんじさんらしいかわいらしいイラストながら、もとしたさんのプロットのもつ不思議な雰囲気を醸しだした、よいイメージイラストでした。
最初のプロットでは「何か怪しげなお化け屋敷」といった雰囲気だったのが、イメージイラストは、それをさらに一歩踏み込み、「もののけの世界(国)に行く話」というイメージがより強く打ち出されていました。
▲イメージイラストのコピーを特別に見せて頂きました!
2009年1月 もとしたさんからの新プロット届く。
以下、もとしたさんのメールの抜粋です。
1、母と姉、弟の3人でおでかけ。主人公は女の子。お買い物に弟は邪魔だと感じている。
2、姉としての役割にうんざりしてるところへ案の定、弟が「カエルだ! ほら!」
「こんな所にいないよ!」「いたよ!」と駆け出す弟。「動いちゃだめだって。もう!」
とプリプリしながら追いかけていく姉。
3、「どこまで行くのよ!」と橋を渡りながら(あれ? 橋なんてあったっけ?)
と振り返ると、見知らぬ時代の見知らぬ町。
4、弟は見失うし、さっきの場所はないし、様子がおかしいし。。。途方に暮れていると
5、笛の音。自分と同じ背格好の、お面をかぶった少女が吹いている。
6~13物怪の協力で見つかる弟(カエルのような物怪と遊んでいる)。渡れるけれど、戻れない橋であったこと。(帰りは舟で戻るしかない)
*弟を発見し、ほっとする気持ち。
*弟が活躍し、それを頼もしく、一人の人間として見直す気持ち。
13、少女の計らいで、物怪に戻る手配をしてもらい、無事帰ることができる。
14、元の場所へ。時間の経過はなかった様子。(母が傘を買って走って来る)
15、手に握っているものによって、物怪の世界が確かにあったことを姉弟は確認し合う。
たんじさんのイメージイラストに触発されて、主人公の子どもたちが初期プロットよりアクティブに動くストーリー展開になりました。
けれども、ここから、何回も打ち合わせやメールのやり取りをして、物語はこのプロットとも全く別の形に変わっていきました。「めかくしおに」の決定稿となるテキストが完成するまで、ここから半年かかりました。
イメージイラストが表現している「主人公がもののけの国(世界)に行って、そこでさまざまな妖怪たちに出会う」というイメージを大切にしたいという思いが、もとしたさんに強くあり、それを絵本の限られた紙面の中で納得の行くストーリーにしたてていく、というところで試行錯誤を繰り返しました。
実は、人間の世界の中でもののけ(や妖怪)に出会うお話はたくさんあるのですが(初期設定のように、お化け屋敷のようなところでもののけに会うというのもその一つです)、完全に人間の住んでいるところとは別に存在するもののけの世界(国)に、人間が迷い込むという物語を絵本で描くのは、かなり難しく作品の数もあまり多くないのです。
(※小説ならば問題ないのですが、「なにをきっかけに別の世界に行ったのか」「どうやって戻ってくるのか」「その別の世界は人間の世界とどうちがうのか」といったことを絵本という限られた紙面のなかで表現するのが難しいのです。)
ですから、主人公がどのような経緯でもののけの国に行ったのかに、もとしたさんは、ものすごく悩み、ストーリーも二転三転しました。
案1)先祖が泥棒で、物の怪たちから盗んだものを主人公が持っていたので、連れてこられた。
案2)物の怪学校の卒業試験で、人間をこわがらせていた。
案3)咲かなくなった物の怪の花を咲かせるためにには、人間の子の力が必要だった。
案4)お面をかぶった物の怪が、人間の子と遊びたくて、連れてきた。
案5)お面をかぶって鬼ごっこをしていたら、もののけの国に迷い込んでしまった。
この案5が、決定稿の設定になり、タイトルも「めかくしおに」に。この設定変更にともない、姉弟という設定から、主人公が一人でお面かぶってもののけの国に行く物語に変わっていきました。
2009年7月 ようやく原稿完成、ラフ画作成へ。
最初のプロットからだいぶ物語が変わったため、たんじさんには、キャラクターからつくりなおして、ラフを描いていただきました。
▲表紙絵のラフのコピーより。(ほぼ完成形ですね。)
2010年4月 本文イラスト完成
2010年6月 絵本刊行
物語とイメージイラストが互いに影響しあうことで、この絵本は少しずつ形になっていきました。作家さんと絵描きさんが往復書簡をやりとりするようにして作り上げたおかげで、文章と絵の雰囲気がうまく合わさった素敵な絵本になったと思います。
※『めかくしおに』で重要な役割をする「お面」ですが、最初のプロットが出来た時のの打ち合わせのときに、たんじさんが持っていたポストカードが、元になっています。このイラストをもとしたさんが気に入って、ストーリーのなかに「お面をかぶった少女」を登場させようと考えたのが原点です。
▲とてもイメージの広がる素敵なイラストです。
▲つきこが「お面」をかぶったまま・・・。心に残る、とても印象的な場面が誕生しました。
■もとしたいづみさん、たんじあきこさんが絵本ナビ読者に向けて直筆メッセージを描いてくださいました!!
絵本の完成を記念して、作者のお二人が絵本ナビ読者の為に素敵な直筆メッセージを描いてくださいました!
▼もとしたいづみさんより
▼たんじあきこさんより