
去年(2008年)に出された絵本の中でも大きな話題となり、
赤ちゃん絵本の新定番として大人気となった『だるまさんが』。
絵本ナビでも、その続刊『だるまさんの』が出される時に特集を組み、
作者のかがくいひろしさんに絵本ナビ読者の方へ

▲こんなに可愛い直筆メッセージを頂き、大きな反響を頂きました。
そして・・・ついに待望の新作「だるまさん」シリーズ第3弾『だるまさんと』の登場です。
その新刊発売を記念して、かがくいひろしさんに
お会いして直接お話をお伺いする事ができました!
新作は一体どんな内容?今度はだるまさんがどうなっちゃうの?
そんなはやる気持ちをさておいて(笑)。
絵本ナビでもファン急増中のかがくいひろしさんの作品について、
皆さんのレビューをもとに、代表して質問を色々ぶつけさせて頂きました。

▲かがくいさんは、想像どおりの気さくで優しい雰囲気の方。
今までの作品について、絵本制作について、
そしてもちろん「だるまさん」シリーズについてもたっぷり語って頂きました。
さぁ、その人気の秘密を探ってみましょう・・・。
主人公がとってもユニーク!
その発想はどこからくるのでしょう?
作品を並べてみると皆さんも感じられるかと思うのですが、 こちら>>>
かかがくいさんの作品に選ばれる主人公って、とってもユニークだと思いませんか?
「おもち」「だるま」「やかん」・・・一体どこからアイデアが湧いてくるのでしょう。

「普通なもの、すでにあるものというのがあまり好きじゃないんですね。
絵本の主人公になりそうもないもの、身のまわりで光の当たらなそうなものに
脚光を浴びさせたい、意外性があるものでびっくりさせたい、という思いはあります。
ただ、そういうものをわざと選んでいるのではなく、自分の中で面白いと感じたもの、
絵本になると感じたものを選んでいった結果、こういう主人公が生まれてきたんです。」と、かがくいさん。
アイデアが浮かぶ時は、「もの」と「動き」がセットになって思いつく事が多いそうです。
例えば『おもちのきもち』だったら「おもちがびろーんと伸びるのって面白いな・・・。」という発想から。かがくいさんにとって、「この主人公面白いな、可愛いな・・・」と思って出来上がっていくキャラクターが、(くまさんやうさぎさんのような)いわゆるポピュラーなものじゃなかった、という事のようです。
「ふしぎなでまえ」の場合。
例えば『ふしぎなでまえ』の場合、じゃがいもとさつまいもが主人公。
個人的には「あれ、何だかとっても地味な主人公?」なんて思ってしまったのですが・・・。
(ところが、お話の展開はとてもダイナミック!なのです。)
「なまけものの野菜の主人公を探していて、おいもがごろごろ=なまけものというのが
思いついたのです。 さといもはちょっとわかりにくいなぁ、と思ってじゃがいもとさつまいもに。僕の中ではとてもポピュラーな主人公だったんだけどなぁ(笑)。」
『ふしぎなでまえ』
失礼しました!
でも、やっぱり出前に目がついているなんていうのも誰も思い浮かばないと思います。
確かに視点は普通の人とは違うようですが、結果的にとても可愛らしくみえてくるのが
とっても興味深い部分ですよね。
季節感は大事にしたい。
もう一つ気になったのが「和風な主人公」が多い・・・という事。
「こちらも特に意識している訳ではなく、興味あるもの、関心をひいたものが
結果的に・・・という事が大前提なのですが。
行事的なものや季節感というものは大事にしたいと思っています。
現在では少し薄れてきているけど、もともと日本は季節感がとっても豊かな国。
行事にも、季節と結びついているものが多いですよね。
そんな日本という風土で育っている子ども達の絵本を描いている・・・という部分が
根底にあるのかもしれないですね。」
質感や動きがとても気になる!
人形劇をされていた頃から・・・
皆さんのレビューの中でも多いのが、その動きや質感についての感想。
絵を見ているだけでも笑っちゃうような、おかしな動きが多いのもかがくいさんの作品の特徴ですね。
かがくいさんは、もともと人形劇をずっとされていたというお話を、
以前メールマガジンでもご紹介させて頂きました。 こちら>>>
その頃の経験が今の絵本づくりに大きな影響を与えているそうです。
※そのとってもユニークな人形劇を演じられている、当時の貴重な映像を見せて頂きました!
ウレタン(座布団の中身などに使われる素材)を二つに折って目玉を二つチョンチョン。
素材はそれだけ。それが、音楽に合わせて踊り出すと不思議!可愛い生き物に見えてきます。
他にも、傘の柄やホースなどの身の回りのものを使って演じられます。
ストーリーがある訳ではなく、音楽に合わせてものを動かすだけ。
これは、小さい子やハンディキャップを背負った子達でも楽しめるようにという発想から考えられていったそうです。
「物を注視していると何かに見えてくる、動きや音をのせるだけで違うものに見えてくる、
生命を持っているものに変化する、そういう事を自分自身も面白がって作っていました。
いつもアイデアの原点となっていたのは、『もの』『音』『動き』『見立て』。
絵コンテも、その人形の動きを書き留めていたものが沢山あります。
それを見ていたら・・・あ、これ絵本に近いなぁと思ったんです。」
実際に人形劇の映像を見せて頂いて、「絵本づくりの原点となっている」というのが
すぐに納得できました。本当に、その動きを見ているだけで何だか笑ってしまうのです。
実は初めて描かれた絵本は『はっきよい畑場所』だったそうです!

野菜たちが相撲を取るお話。シンプルだけど、
「だるまさん」シリーズにも人形劇にも通じるものがあり、
それ以降の作品づくりの原点として読んでも、伝わりやすいかもしれませんね。
豊かな表情が印象的。
困った顔、驚いた顔、恥ずかしそうな顔・・・かがくいさんの作品の登場人物の表情は本当に豊かですよね。
長年教師をされている事もあり、人の顔に興味があって意識的に?と思ったのですが、
お話をお伺いするうちに、むしろ動きやしぐさの一環として表情も描かれているのだなぁ、と
わかってきました。勿論、子ども達の笑顔を沢山見られてきているでしょうから、
そこは無意識でも表現にあらわれているのでしょうね。
思わず手に取りたくなるような題名の付け方も気になるところですが、
こちらも、アイデア段階や制作途中に自然と浮かんでくる事が多いそうですよ。
だるまさんシリーズ 誕生のひみつ!
さぁ、お待たせしました。「だるまさん」シリーズのお話をお伺いしていきましょう。
ずっとやってみたかったこと。
「だるまさん」シリーズは、他の作品と少し違って、特にストーリーがある訳でなく、
その動きや表情、擬音語だけで進んでいくとってもシンプルな絵本です。

「音と動きがくっついていて、小さな子やハンディキャップを背負った子など
ストーリーが理解しにくい子達にも伝わるような絵本、というのを
ずっとつくりたいと思っていたんです。」
「子ども達は、擬音語や擬態語というのが大好き。
音と言葉と動きがくっついているから、とっても伝わりやすいのでしょうね。
例えば僕が『どてっ。』と言いながら転ぶだけでも、すごく笑ってくれるんですね。
そんな所から発想が湧いてきたのかもしれません。」
日常生活でも、常に絵本のアイデアを考えているというかがくいさん。
新聞やテレビを観ている時、トイレに入っている時、夜中に目を覚ました時、
ふっとイメージが絵で浮かんでくるのをノートに書き留めているのだそうです。
そうしてノートの端々に沢山のスケッチがたまっていくのだそうで、
『だるまさんが』も出版される5年も前からノートに存在していたそうですよ!
「絵本作家さんでも、文章から書かれる方もいるかと思いますが、
僕はそれは出来ないんです。アイデアの段階で、言葉を書き留める事もありますが、
それも全部イメージは絵や動きで浮かんでいて、それを表わす面白い言葉として
メモしているんですね。」
そして、そのアイデアを絵本の形にした、記念すべき『だるまさんが』のラフがこちら!

▲原案とほとんど変わっていないのですね。
「このアイデアをブロンズ新社さんに見せたら、面白いから出版しましょうと
すぐに決めてくれて。凄い事ですよね。
僕のやりたい事をすぐに理解してくれて、実現してくれたので本当に有難かったです。」
そこから、絵の順序を少し変更したり、表情を編集の方とやりとりしながら加えていって、
完成したのが『だるまさんが』。出版されてから、あっという間に大人気の絵本となっていったのです。
かがくいさんは絵本制作の中で、
「アイデアが浮かんでから、それを頭の中で絵本の形にする時が一番楽しい瞬間です。
そこでラフに起こして実際に形としてあがった時というのは本当に嬉しいですね!」
と熱く語られていました。

▲その瞬間の状態というのがこちらの『だるまさんが』のラフ。
その喜びや楽しさ、勢いというものがこちらにも伝わってくるようです。
予想を超えた反響
続編の『だるまさんの』も同じように、沢山のアイデアスケッチの中からスムーズに決まっていったそうです。
同じように見えて、実は全然違うアプローチ方法なのが、また新鮮で面白いのです。
こうして出来上がった『だるまさんが』『だるまさんの』。
皆さんのレビューなどを読んでいて、小さな子や赤ちゃんにもユーモアというのはちゃんと伝わるんだな、と改めて発見させられました。
笑うだけでなく「何だこれ!?」と、小さな子でも絵につっこんだり出来るのも楽しいですよね。
でも興味深かったのが、小さな子だけでなく、小学生や大人までも大爆笑の渦に巻き込んで、世代を超えた人気の絵本となっている・・・という事。小学校のクラスでの読み聞かせにも使われたりして。
「それは僕も驚きました。
大人が面白いと思う絵本を、小さな子が全部面白いと思うのは(ストーリーなどもあって)難しい部分もあると思います。(誤解を恐れずに言えば)子どもというのはまだ大人ではないからだと思うのです。
でも、子どもが面白いと思うものを一緒に楽しめるのは、大人はみんな子どもだったからかな・・・と思っています。」

そして新作の・・・『だるまさんと』。
前作二作と違って、新作は少し試行錯誤が続いたそうです。
アイデアはいくらでも浮かんでくるのだそうですが(新しい事を考えるのはとても好きなのだそうです)、「意外性」と言う部分にもこだわって、なかなかすんなりOKとは行かなかったようで。
編集の方からのヒントやアドバイスも入り、それに対してまた沢山のラフスケッチを作成します。
「一つ提案をすると、思いもよらない形で本当にたくさんのスケッチが返ってくるんです。」
編集の方も、かがくいさんとのお仕事にとってもやりがいを感じられるとおっしゃっていました。
そんなやりとりの後に出来上がった『だるまさんと』は、かがくいさんもとてもお気に入りだそうですよ。
このシリーズは、次はどんな展開でくるのか想像するのも楽しみの一つですよね。
その期待を裏切っていきたいとかがくいさん。
「この展開は読めないでしょう・・・。」と皆さんの驚く顔を想像しながら、楽しんでつくられたそうです。
さて、どんな驚きが待っているのでしょう!!
「だるまさんと」みどころはこちら>>>
笑顔のあふれる絵本を
絵本のちから。
皆さんのレビューに、子ども達の反応や様子が書かれていると本当に嬉しいとおっしゃるかがくいさん。子ども達に届いているんだな、と実感できるそうです。
かがくいさん御自身もお子様にたくさん絵本を読まれてきたそうです。
「例えば子どもに絵本を読んであげる時、ちょっと読み間違えただけで気づくんですよね、『ちがうよ!』と。これはきっと、何回も何回も読んでもらっているうちに覚えてしまっていて、『読み聞かせて』もらいながらも『自分で読んでいる』という気持ちになっているんだろうね。それで、訂正してもらったり、一緒に読んでみたり。
テレビやビデオなんかだと、間違えたりする事もないし、こういうやりとりは起きないですよね。こんな風に、人と人の関わりが生まれるというのが、絵本の持っている大切な部分で大きなちからだと思うのです。」
この「だるまさん」シリーズは、読んでいる大人の方も笑っちゃう絵本。
親子で楽しそうに過ごしているその時間が浮かんでくるようです。
自分も驚いていたい。
それでは、今後どのような絵本をつくっていきたいと考えられているのでしょう?
「とにかく色々なものをつくりたいと思っています。自分に規制はかけたくないです。
その時その時に受けた刺激をどんどん吸収して、形にこだわらず浮かんだアイデアをどんどん実現していきたいですね。」
常に新しい事を考えるのが好きだとおっしゃるかがくいさん。それはしかけ絵本かもしれないし・・・
「描いていて、自分も驚いていたいし、楽しんでいたい。常に新鮮な気持ちでいたいです。もちろん、音や動き見立てなど、自分の興味を引くものはずっと大事にしていきたいとも思っています。」
最後に絵本ナビ読者の方へ・・・。
先程も記した通り、皆さんのレビューを本当に喜んで読んで下さっているというかがくいさん。
素敵なメッセージを頂きました!
「今の大変な時代に悲しい本というのは、ちょっとつらいなぁと思うのです。
僕はふんばって笑顔になれる、笑える絵本というのをつくっていきたいと思っています。
絵本を通して、一時でも親子で楽しく笑顔になってくれればと思うのです。
僕も実は悲観的な考えになってしまう事も多いのですが、
絵本を描く事で笑顔になっています。
皆さんもどうか元気な笑顔でいてください!」

▲お忙しい中、ありがとうございました。記念にぱちり。
◇かがくいさんのお人柄が伝わるおまけエピソードを一つ。
「僕の誕生日は福山雅治と一緒だと言う事も伝えてくださいね!」
お約束は果たしましたよ!