『きいろいバケツ』(作:もりやまみやこ 出版社:あかね書房)の挿絵などで知られる、絵本作家のつちだよしはるさん。つちださんの描かれた「ももちゃん はなちゃん」シリーズ(リーブル)は、ご自身のお子さんがモデルとなっているのだそうです。今回はつちださんがライフワークのひとつとして活動している、子どもたちとのワークショップのレポートとともに、「ももちゃん はなちゃん」シリーズについておはなしを伺いました。
●「ももちゃん はなちゃん」シリーズとは……。
双子の女の子、「ももちゃん」と「はなちゃん」が主人公の絵本のシリーズです。
ももちゃんとはなちゃんが、くまくんと一緒に、笑ったり、食べたり、のりものの国に行ったり……。何気ない日常を描く、小さいお子さんにオススメな絵本シリーズ。現在、7冊が刊行中です。
●「ももちゃん」と「はなちゃん」のモデルは、我が家の双子の娘です
───「ももちゃん はなちゃん」シリーズがスタートしたのは1995年。今から20年以上前の作品ですが、今読んでも、ももちゃんとはなちゃんのやり取りが可愛くて、とても楽しめました。このシリーズはどうやって誕生したのですか?
ぼくには子どもが3人いるのですが、下の女の子が双子で、名前も「ももこ」と「はなこ」なんです。わが子をモデルにした絵本を描きたいと思っていたときに、古くから知り合いの編集者から、絵本の仕事の依頼が来て、双子が主人公の絵本を描くことになりました。
───お子さんがモデルになっている絵本なんですね。
そうです。それと絵本の中にくまくんが出てくるでしょう。実はくまくんは、ももちゃんとはなちゃんの2歳年上のお兄ちゃんなんです。
───そうなんですか?! どうしてお兄ちゃんだけ、くまなのでしょうか?
おっとり、のんびり、でもおおらかで、本当にくまくんみたいな性格なんです。ももちゃんとはなちゃんと同じ人間の男の子にすることもできたのですが、やっぱりくまくんがいた方が、絵本を読む子どもたちがもっと楽しくなるだろうと思って、お兄ちゃんはくまくんになってもらいました。
───くまくんは、ももちゃんとはなちゃんのお兄ちゃんというより、仲のいい友達か、弟のような感じもしました。
やたらと失敗ばっかりしているものね(笑)。
───「ももちゃん はなちゃん」シリーズは、最初、『なかよしえほん』と『おいしいえほん』が出版されていますね。『なかよしえほん』は、ももちゃんとはなちゃんが、自分のなかよしの動物を紹介していくおはなし。いぬやねこなど、身近な動物にはじまり、カバやブタ、カメやキリンなど、新しい動物が出てくるのがとても楽しい絵本だと思いました。
小さい子って、人間の友達以外にも、好きなものがたくさんありますし、動物やぬいぐるみとも大切な友だちであることも多いですよね。大事なものがたくさんある子どもの姿がとても魅力に感じました。なので、その様子を絵本にまとめようと思ったんです。
───絵本に出てくる動物は、実際のももちゃん、はなちゃんの好きな動物と同じなのでしょうか?
二人とも動物は好きで、よく一緒に動物園に行きました。でも、特に絵本に出てくるように好きな動物にこだわりがあることもなかったですね。そこは絵本ということで、演出を加えました。
───そうなんですね。
この「ももちゃん はなちゃん」シリーズは、動物や食べ物など、物とその名前を一致させ、認識するための「認識絵本」。なので、シリーズごとのテーマに合ったものをできるだけ多く、でも子どもたちに絵をしっかり見てもらえるように描きました。
───『なかよしえほん』は動物、『おいしいえほん』は食べ物がテーマになっているのは「認識絵本」だからなんですね。『おいしいえほん』は、ももちゃんとはなちゃんが「たべもののくに」に出かけていき、おいしいものをいっぱい食べるおはなし。出てくる食べ物が、みんなももちゃん、はなちゃんよりも大きいのがとっても魅力的!
ありがとうございます。これは「ヘンデルとグレーテル」に出てくるお菓子の家を思い浮かべながら描いたように思います。あと、ぼくは昔、コックとして働いていたことがあって、家でもよくお菓子作りをしていたんですよ。それを、子どもたちに手伝ってもらったこともあるんです。
───そうなんですね! リンゴやミカンのみずみずしさ、せんべいやクッキーの香ばしい焼き色、そしてそれを食べている、ももちゃん、はなちゃんの笑顔からも幸せな様子が分かります。最後のケーキで作ったお家は、大人でも憧れます。
ぼくも美味しいものが大好きなので、食べきれないくらい大きな食べ物に囲まれてみたいなという願望を、この絵本に描きました(笑)。
───シリーズ3冊目の『わっはっはっえほん』。ここで、今まで表紙にしか出てこなかったくまくんが、おはなしの中に登場します。3人の仲の良いようすが特に感じられる絵本だと思いました。
ここで特に描きたかったのは「日常」ですね。事件やトラブルなど何も起きないけれど、ほのぼのとして温かい。ちょっと失敗して、たんこぶを作ってしまうけれど、それすらも3人いれば笑えちゃう。そんな何気ない一日を描きたいと思いました。
───『なかよしえほん』から『わっはっはっえほん』までの3冊は、絵のタッチにもこだわりがあるように感じました
そうですね。やはり、小さいお子さんが見る絵本ですから、あまり複雑にならないように気を付けました。あと、背景もあまり描き込まず、場面ごとに後ろの色を変えるようにしています。何色にするかは、そのときのその場面の心情を反映していて、迷っている場面では紫がかった色だったり、寂しいときは水色にしたり……。ある程度、自分の中で決まり事のようなものがあって、それに沿って彩色しています。
───なるほど。おはなしを伺ってから、絵本を見ると、絵から受け取る情報も変わりますね。4冊目の『できるもんえほん』も、日常が舞台になっている作品ですね。「ボタンを留められる」「後片付けができる」など、少しお姉さんになったももちゃんとはなちゃんの姿が描かれているように思いました。
モデルになっている、わが子の成長を見て描いているからでしょうね。小さい子を見ると、ボタンを留めることって、意外と難しいんですよ。でも、それが自分でできたり、お手伝いができたり、ルールを守れたり……。そういう、今までできなかったことができることが、誇らしく感じる瞬間が、誰にでもあると思います。
───くまくんは、はなちゃんにパジャマをたたんでもらったり、二人が食べ終わってもまだ食事を続けていたりしていて、なんだかほほえましいです。
くまくんはずーっと、マイペースなんです(笑)。子どもたちはくまくんの行動をちゃんと見ていますから。くまくんの、行動のようなツッコミどころは、どうしても描きたくなってしまうんです。
───でも、はなちゃんが転んだときに素早く絆創膏を貼ってあげて、おんぶしてくれるのはやっぱりお兄ちゃんだ! って思いました。そして次に出版されたのが『のりものえほん』。これは今までの日常から離れて、「のりもののくに」へ出かけていく3人のおはなしですね。
この絵本を作ったときは、たしか、出版社さんから「男の子が楽しめる要素も入れてほしいです」とアドバイスをいただいたからだと思います。今までの絵本はももちゃんとはなちゃんが中心でしたが、『のりものえほん』の主人公はくまくん。物語もくまくん目線で進んでいきます。
───トラックに乗ったはなちゃんが落としたリンゴをショベルカーでひろってあげたり、パンクしたももちゃんの車をレッカー車で引っ張って行ったりと大活躍! でも、気球に乗っているときに、カラスがくまくんの風船を割ってしまい、大変な目にあってしまいます。
そこはくまくんですから、うまく乗り越えて、ももちゃんはなちゃんたちが助けに来てくれます。最後の海の中と、「のりもののくに」の全体が見える場面が特にお気に入りなんですよ。
───今まで乗っていた乗り物が全部出ている場面はとても見ごたえがありますね。
『のりものえほん』を描いていた時期に、ちょうど遊園地などの建物の絵をたくさん描いていたんだと思います。ぼくがそのとき描いていたほかの絵の傾向もこの絵本には反映されているんです。
───それはとても興味深いですね。『はじめてのえほん』は、今までのシリーズとは異なり、季節や食べ物、乗り物など、いろいろなものの名前が覚えられる絵本だと思いました。
『はじめてのえほん』のような絵本を「認識絵本」というのですが、アメリカのリチャード・スキャリーが描いた「スキャリーおじさんの絵本」シリーズのような絵本を作ってみたいと思ったんです。
───小さいお子さんが初めてものの名前を覚えるのに、ピッタリの作品ですね。でも、これほどたくさんの絵を描くのは大変ではありませんでしたか?
ぼくはすべて手描きで描いているので大変でした。でも、認識絵本で、今もっと困っていることと言えば、年代を経ることにどうしても今の時代に合わない部分が出てきてしまうということですね。例えば「電話」。今、固定電話があるお家って減っていますよね。でも、スマートフォンを描いたとしても、5年後には全く違う形になっているかもしれない……。悩ましい部分ですね。
───なるほど……。絵を描かれる方ならではの悩みですね。7冊目は、また日常のおはなしに戻って、『はみがきシュッシュッ』。これは歯みがきの大切さを教える絵本ですね。
はい。やはり丈夫な歯がないと、食べ物もおいしく食べられませんし、いろいろ大変ですからね。ももちゃんとはなちゃんのお兄ちゃんが、歯みがきをさぼりがちだったので、その姿を思い出しながら描きました。
───絵本を見ていると、本当にお子さんとの日常の中から物語が生まれているように感じました。お子さんたちは、自分たちのことが絵本の中に登場することをどう思っていましたか?
うちの子たちは、喜んでいましたね。ぼくは20代のころにすでに絵の仕事をしていて、一時期ブランクもあったのですが、ほとんど家にいるような感じだったんです。だから、子どもたちはいつも家で仕事をしているぼくの姿を見ていますし、忙しい中でも、子どもとの時間を大切にしていました。だから、子どもたちも、ぼくが彼らの姿を絵本にしていることは、全然特別なことじゃなかったんだと思います。