峠のいただきに、やさしくほほえむおじぞうさまがおまつりしてありました。
峠をのぼってきたひとりの女の子が、おじぞうさまのそばに、赤い手袋が落ちているのを見つけます。
女の子は両手をあわせて、ていねいにおがんでから、おじぞうさまに話しかけました。
「この赤い手袋ね、持ち主の人が探しにいらっしゃるまで、おててにはめていてくださいません? あたたかいでしょう。ね、いいきもちでしょう」
そのようすを木の上から、一匹の子ザルが見ていました。
もう、そのすてきな赤い手袋がほしくてしかたがなくなってしまった子ザルは、つい、おじぞうさまにうそをついてしまいます。
「おじぞうさま、その手袋は、わたしが落としたのです。おかえしくださいませ」
手袋を手にいれておおよろこびの子ザル。
ところが、木に登ろうとしても、手がすべって落っこちてしまいます。
木に登れなくなったのが手袋のせいだとわからない子ザルは——
いつくしみにあふれ、教訓に富んだ童話!
木版画で描かれた枯れた山々のと、木枯らしに吹かれて枯れ草に立つおじぞうさまの姿が、身を切るような寒さを感じさせながらも、どこかあたたかく胸に染み入ってきます。
やわらかく弧を描く眉のしたでつむられた目と、ささやかにほほ笑む口元のおじぞうさま。
対して、まんまと手袋を手にいれて浮かれたり、おそるおそるといったようすでおじぞうさまをうかがったりと、表情豊かな子ザル。
その対比があざやかで、おじぞうさまの表情がさらにやさしげに目に映ります。
心やさしい女の子の、おじぞうさまにむけた言葉も印象的。
とてもていねいでうやまいの心にあふれていながら、どこか家族に話しかけるように親しげなそのセリフがかわいらしくて、ほっこりとほほえましい気持ちにさせてくれます。
どこか懐かしい、そんな読み心地の一冊です。
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