「常に仲間と夢を追うタイプだ」「1人で過ごすほうが落ち着く」。好みや性格までを左右する価値観は当然ながら人によって異なる。それは育った時代や環境によって経験的に培われる。――しかし、もしその価値観が人に生まれつき備わっていて、生理的に規定されていると考えるとしたら、作品の読み方も変わってくる。
同時期にともに日本の北方の富裕な家庭に生まれた坂口安吾、太宰治、亀井勝一郎の3人に焦点を当てて、マルクス主義運動や第2次世界大戦などの時代背景も踏まえながら、それぞれの思想や主張を丁寧に整理していくと、彼らの価値観のなかに基準があることが見えてくる。
社会での人との関わり方とその結果生じるストレスに対する生理的な耐性というものから、人間の価値観の3つの類型を推論し、そのタイプによって価値意識や価値判断が異なることを明らかにする。さらに、カント、ニーチェから大江健三郎、村上春樹など古今東西の思想家・著述家をも対象にして、その3類型が時代や環境を超えて見て取れることを明らかにしていく。
人々の分断が叫ばれる現代社会で、あらためて人間の価値観とは何かを考えさせる重厚な一冊。
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