令和5年に創立60年を迎えた「劇団伊勢」。その2代目団長である佐藤太亮の半生の物語を中心に、「劇団伊勢」の歴史と、その活動の意義や地元に残したものなどを描く。
1954年生まれの太亮は、小さい頃は近所でも有名なやんちゃ坊主。自然の中を駆け回り、自衛隊のヘリに追われたり、バスに石を投げて車掌に追いかけられるなど、とんでもない出来事を引き起こす天衣無縫な少年だ。その太亮が高校1年生のとき、ひょんなことから演劇部の部長となって演劇に出会い、芝居に夢中になる。高校卒業後も、庭師の修業を続けながらアマチュア演劇の舞台に立つなど、演劇との縁が切れることはなかった。
やがて、夫となり、父となって、造園業の会社を経営する一方で、「劇団伊勢」の団長となり、家族をはじめ周囲の人たちを巻き込みながら、造園業と演劇の二刀流を続け、劇団を発展させていく。
古い歴史を持つ伊勢には、多くの偉人やロマンあふれる伝説が残されているが、それらの中には、移ろう時代の中で埋もれかけているものもあった。太亮は、劇団の方針を「地元路線」「オリジナル脚本」と定め、伊勢の歴史や物語を舞台化することで、わかりやすく、楽しく伝え続けている。その「劇団伊勢」の活動は、いくつもの賞を受け、多くの地元ファンを得ているが、その一方で「劇団は家族なんや」と、団員全員が芝居を好きになり、うまくなるよう心を砕いてきた太亮。その多彩な活動の背後には、高校の演劇部で出会い、常に夫を支え続けた妻の愛があった。そして、太亮は今も、少年の頃と変わることなく「芝居ってええなぁ」と、胸を熱くしている。
これは、アマチュアの劇団が60年にわたって続いてきたという事実の根元にある、情熱と努力と人の絆が織り成す歴史であり、ひとりの少年が演劇に出会って育って行く成長譚であり、妻との出会いと別れを含んだ家族の愛の物語でもある。またその背景として、戦後から高度成長期を経て昭和、平成、令和と続く時代の空気の変遷が描かれ、「劇団伊勢」が舞台化した伊勢の偉人、歴史の物語も、舞台写真と共に紹介されている。
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