まあるいほっぺと、ちょこんと立っている髪の毛がかわいい赤ちゃんが、もぐもぐ食べたり、すやすや眠ったり、に〜っこり笑ったり。読むと子どもも大人も幸せな気分になれる「しあわせいっぱい赤ちゃん絵本」シリーズ。
絵本ナビでもレビューコンテストなどを開催し、ファンの方も多いと思います。
今回はこのシリーズの絵を担当されているくわざわゆうこさんにおはなしを伺いました。
この絵本が誕生したきっかけや、絵を描いているときの苦労話など、制作の裏側エピソードもたっぷりです。
はじめてであうえほんシリーズ『に〜っこり』、『おいし〜い』、『おやすみ〜』に続く、石津ちひろさん作、くわざわゆうこさん絵による絵本の4作目です。 赤ちゃんがこいぬにボールをなげて「ぱちぱちぱち」と手をたたいてみたり、きしゃのおもちゃで遊びながら「ぽっぽー」と声に出してみたり…。身近な場面で、赤ちゃんが大好きな「ぱぴぷぺぽ」の音がたくさん登場する絵本です。今回もお話の最後には大好きなママとパパが登場します! これまでと同様、石津ちひろさんのリズミカルで心地よい言葉と、くわざわゆうこさんのかわいらしく温かいタッチの絵で展開します。 家族みんなでとっても幸せな気持ちになれる一冊です。0歳から親子でお楽しみいただける「はじめてであうえほん」シリーズの最新刊です。
●男の子? 女の子? 年齢は? 魅力的な赤ちゃんが生まれたわけ。
───『に〜っこり』と『おいし〜い』そして『おやすみ〜』は絵本ナビでもレビューコンテストを開催させていただいたこともあり、なじみ深いユーザーも多いと思います。今回、改めてそれぞれのおはなしの生まれたきっかけを伺いたいのですが、まず、シリーズ最初の『に〜っこり』、これはどのように出版が決まったのですか?
最初にいしづちひろさんの文章があって、私に「絵を描いてみませんか?」と依頼をいただきました。ただ、その段階ではまだ、私が絵を担当することは決まっていませんでした。何人か他の絵本作家さんも候補に挙がっていて、その中の誰かに絵をお願いしたいから、チャレンジしてみませんか?という形のおはなしでした。
───では、何人か候補に挙がっていた中から、くわざわさんに決まったんですね。
そうなんです。私はこのおはなしを読んで、すぐに気に入って、ぜひ絵を描かせてもらいたいと思ったので、実際に描かせていただくことが決まってとても嬉しかったです。
───主人公の赤ちゃんのほっぺがぷよぷよ柔らかそうで、思わずさわりたくなっちゃう(笑)。見ているだけで幸せな気持ちになるキャラクターですが、このデザインになるまで何度も試行錯誤を繰り返したと伺いました。

はい。髪の毛を長くしたり、フードをかぶせてみたり、いろいろ試してみました。その中でも私は今絵本に登場している子がイチオシだったので、この子に決まって良かったです。
───頭の先がちょこんと飛び出していて、とても印象的なフォルムですよね。キャラクターのモデルはいるのでしょうか?
特にモデルはいないのですが、自分が赤ちゃんを生んだとき、こんな赤ちゃんだったらいいなという願望を込めました。出版して、読者の方から「うちの子にそっくりです」という感想を良くいただくのですが、この子にご自分の赤ちゃんを投影してくださっているようで、とても嬉しく感じています。
───くわざわさんにとっても、絵本の赤ちゃんはわが子のイメージなんですね。

はい。今まで描いてきたキャラクターの中でも、特に思い入れの強いキャラクターだと思います。出版社の方にも愛されていて、「小龍包(しょうろんぽう)ベイビー」と呼ばれています。
───小龍包ですか?
絵本のキャラクターがこの子に決まったとき、編集長から「小龍包で行きましょう」と言っていただいたんです。以来、私たちの中では「小龍包ベイビー」が定着しているんです。
───たしかに、頭の形は小龍包にそっくりですね……そう思ってみると、小龍包にしか見えなくなってきました(笑)。『に〜っこり』の様な、短い文章を読んで絵本の世界を描くことは大変ではありませんでしたか?
大変だと思ったことはほとんどありませんでした。むしろ、シンプルな文章だからこそ、色々想像力を膨らませて自由に描くことができました。なにより、いしづさんの文章がとても素敵で、かわいい文章だったので、この世界を絵でどうやって表現したらいいのか、色々考えることが楽しかったです。

『に〜っこり』の一場面
───先ほど、読者の方から「うちの子にそっくり」と感想が来るという話を伺いましたが、この赤ちゃんは性別も年齢も特に書かれていませんよね。
そうなんです。男女、どちらにも受け取っていただけるように、性別が分かるような表現はあえて避けています。そうすることで、男の子のお母さんも、女の子のお母さんもご自分のお子さんの姿と重ねて、共感していただけるのではないかと思いました。
───なるほど! 『に〜っこり』が出版されてから約1年後に、2冊目の『おいし〜い』が発売されます。最初からシリーズになることが決まっていたのですか?
いいえ。最初はシリーズ化する予定はありませんでした。でも、『に〜っこり』が出た後、多くの読者の方から応援していただいて、2冊目を出版することが決まりました。私にとって、はじめてのシリーズ作品となったので、とても嬉しかったです。
───『おいし〜い』は、題名の通り1冊まるまるおいしいものを食べる絵本。赤ちゃんの食べている姿が本当においしそうで、読んだお子さんも一緒にいろんなものが食べられるような気がしました。
おにぎりにカボチャ、スープ、最後はホットケーキまで食べてしまいますからね。意外と、スーパーベイビーなんですよ。
『おいし〜い』の一場面
───たしかに、見た目は生まれたばかりの赤ちゃんですが、食欲や行動力はスーパーベイビー! 先ほど、絵本のシリーズを手がけるのははじめてだと伺いましたが、2冊目を描くとき、大変だったことはありますか?
1冊目を描き上げてから2冊目を描くまで時間が空いているので、同じ子を描くことができるか、不安がありました。この赤ちゃんは特に目の位置や角度が変わると、ビックリするくらい雰囲気が変わるので、2冊目を描く前に、何度も練習をして1冊目の感覚を取り戻した覚えがあります。
───そんな苦労をされていたとは思えないくらい、2冊ともかわいい作品になっていると思います。ページの中で背景の色が変わるのも、くわざわさんのアイデアなのでしょうか?
そうですね。編集者さんとも相談して、場面の変化が分かりやすいようにバックの色を変えるというのは1冊目から継続しています。『おいし〜い』は食べ物をおいしく食べている絵本なので、暖色系でパステル調の色を使いました。あまり同系色の色が続かないようにするなど、気をつけています。
───優しい色合いと合わさることで、食べ物のおいしさが際立っているのですね。そして3冊目は『おやすみ〜』。表紙を見ているだけでいい夢が見られそうな、おやすみ絵本です。
『おやすみ〜』の原稿をいしづさんから頂いたとき、「おやすみ」って「ありがとう」と同じ意味なんだと思い、ジーンと心があたたかい気持ちになりました。歯みがきをした後、はぶらしに「おやすみ」と言いますが、そこには「ありがとう」という気持ちも込められていると思うんです。1日遊んだオモチャにも、空に光る星にも「おやすみ(ありがとう)」と言って、最後にママとパパが赤ちゃんに「おやすみ(今日も1日元気に育ってくれてありがとう)」と言っているではないかと。いしづさんの言葉には、すごく難しい表現や特別な言葉はほとんどなくて、私たちが日常的に使っているようななじみ深い言葉なんですが、『おやすみ〜』では特に優しく尊い文章に感じて、原稿を読んで泣きそうになりました。
『おやすみ〜』の一場面
───「おやすみは、ありがとうなんだよ」という思い、いしづさんの文章とくわざわさんの絵で、しっかりと伝わってきます。
私の知り合いの方からも感想を頂くのですが、『おやすみ〜』は、夜泣きで滅入ってしまっているママさんが、「赤ちゃんを見ながら『おやすみ〜』を読んで、癒されました」と言ってくださったり、妊娠中の方が、「生まれてくる子を楽しみにしながら読みました」と言ってくださってとても嬉しかったです。
───『おやすみ〜』を描くときに、特に気をつけた部分などはありますか?
絵の構図に関しては、毎回編集者さんと打ち合わせをしながら決めているので、悩む部分はその都度解消しながら制作を進めています。『おやすみ〜』では、今までよりももう少しシリーズであることを意識して、『に〜っこり』で出てきたキャラクターをどこに出すかを決めるのが楽しかったです。
───『に〜っこり』にも登場している、青いくまのキャラクターですね。

『に〜っこり』の一場面
そうです。『に〜っこり』で赤ちゃんがくまをギュッとだっこしている場面が大好きなので、このくまは再登場させたいとずっと思っていました。『に〜っこり』と『おいし〜い』の表紙は赤ちゃんがこちらを見ている構図にしたのですが、『おやすみ〜』は目を閉じている絵にしたので、読者の方を見つめている目が欲しくて、くまに代わりに見つめてもらいました。
───ぬいぐるみにじーーーと見つめられていると、目が離せない力を感じました。
『に〜っこり』で抱きしめられているときも無表情でこちらを見ていて、意外とシュールな絵になっていて、とても気に入っているんです(笑)。