みなさんは、普段お子さんに絵本の読み聞かせをしていますか? 「毎日やっている」というご家庭も、「忙しくて、なかなかできない」というご家庭もあると思います。「読み聞かせ」を実践している、もしくはしようとしているすべてのご家庭で読んでいただきたい絵本。それが今回ご紹介する『かあちゃん えほんよんで』(絵本塾出版)です。子育てに関するいろいろな情報が飛び交う中、「本当に大事にしてほしいものは何なのか……」そう問いかける、かさいまりさんの文章に、北村裕花さんが心がポッとあたたかくなるような絵をつけた作品です。今回は、特別にかさいさん、北村さんのおふたりにお話を伺いました。子育て真っ最中のお母さん、お父さんにお届けします。
- かあちゃん えほんよんで
- 文:かさい まり
絵:北村 裕花 - 出版社:絵本塾出版
かあちゃんに絵本を読んでもらいたい けんちゃん。でも忙しそうなかあちゃんを見て、なかなか言い出せません。けんちゃんの誕生日にケーキを買い忘れたかあちゃん。そんなかあちゃんが、プレゼントしてくれたものは…。 我慢する子どものこころを見事に描いた、心がほっこりする親子の物語です。
●忙しい母と優しい息子。ふたりの日常を絵本にしたかった……。
───『かあちゃん えほんよんで』は仕事で忙しい母ちゃんの姿を見て、「えほんよんで」という一言がなかなか言えない、心優しい男の子が主人公。かさいさんはどのようなきっかけでこのストーリーを思いついたのですか?
かさい:今の時代、いろいろな理由でひとり親だったり、共働きの家庭は多いと思います。そんな中、子育てに関するいろいろな情報はあふれていて、「子どものためにあれもこれもやってあげたいけれど、忙しくてできない……」と、我が子に対して申し訳ない気持ちを日々抱いている親御さんも少なくないですよね。子どもたちは、そういう親の忙しさや思いをちゃんと感じているから、我慢して言葉に出さない子も多いと思うんです。そんな子どもの気持ちを、絵本という形で多くの人に伝えることができたらと思い、この作品を作りました。
───この絵本の中では、お父さんは亡くなってしまっていて、お母さんが一人でお店を切り盛りしている設定ですね。
かさい:そうです。物語の中には明記されていませんが、この母ちゃんの職場は、夫婦ではじめた美容室なんです。お父さん亡き後、母ちゃんが一人で頑張っています。
───母ちゃんの仕事を美容師さんにしたのには、理由があるのですか?
かさい:自宅と仕事場が一緒の職業であることと、夜遅くまで営業していること、女手ひとりでもやっていける「手に職」系の仕事であること……、いろいろな条件を考えたとき、美容師しかないなと思いました。ただ、お店の雰囲気やお客さんの世代などは、あとから話し合って決まりました。
───かさいさんは、ご自身で絵も文章も描かれた絵本を多数出版していますが、村上康成さんや、黒井健さん、おかだちあきさんなど、いろいろな絵本作家さんに絵を担当してもらう作品も多いですよね。ほかの絵本作家さんに絵を依頼するのはなぜですか?
かさい:私は絵本を創作するとき、基本的に文章から考えます。そうすると、必ずしも自分の絵が合うおはなしができるとは限らないんです。そういうときは、むりに私の絵で描くよりも、このおはなしにピッタリの画家さんにお願いしたほうが良いと思うんです。
───今回、絵を担当した北村裕花さんとは、『クレヨンがおれたとき』(くもん出版)でも一緒に絵本を作っられていますね。
かさい:『クレヨンがおれたとき』の文章を書いたとき、これも私ではなく、ほかの方に絵をお願いしたほうがいいと思いました。そのため、絵を誰にお願いするか考えるために本屋さんに行ったんです。そこで北村さんの『おにぎりにんじゃ』(講談社)と出会って、ひとめぼれ! ぜひ、一緒に絵本を作りたいと思いました。ほぼ同時期に、この絵本の企画も進んでいたので、こちらもぜひに……と思い、北村さんにお願いしたんです。
───北村さんの絵のどんなところが魅力でしたか?
かさい:直球で、ドン! と読む人の心を打つ力強さだと思います。『かあちゃんえほんよんで』は、とても心情に訴える絵本です。主人公の心の繊細な揺れを感じるおはなし。だからこそ、絵は繊細とは逆の大胆さが必要だと思いました。
───繊細なおはなしに繊細な絵をつけるのではなく、大胆な絵をつけることで、おはなしによりひきつけられるのですね。北村さんは、かさいさんから依頼を受けたときは、どう思いましたか?
北村:2冊も一緒にお仕事をできることが、とても嬉しかったです。最初にお声がけいただいたとき、『おにぎりにんじゃ』を見て選んでいただいたと聞いて、すごくビックリしました。『おにぎりにんじゃ』は、私のデビュー2冊目の絵本なんです。新人でまだ出版している絵本が少ないのに、かさいさんに見つけてもらって、とてもありがたかったですね。ただ当時は、まだ絵本の作画だけという経験も少なかったので、私の絵でいいのかな……という不安も少しありました。
───主人公の男の子の、周りをうかがうような視線や表情が、言いたくても言えない、内に秘めた思いがすごくよく表れていると思いました。
北村:ありがとうございます。いままで描いてきた絵本の男の子は、元気の良いキャラクターばかりだったので、今回のような微妙な心の変化が読者の方に伝わるよう、表情は特に気をつけました。