もうなかないよ、クリズラ もうなかないよ、クリズラ
作: ゼバスティアン・ロート 訳: 平野 卿子  出版社: 冨山房 冨山房の特集ページがあります!
読み手の年齢を選ばない子どもから大人まで、それぞれの感性で理解してうけとめる事のできる「みんなの本」です。
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賢治がのこした祈りのことば『雨ニモマケズ』柚木沙弥郎さん×松田素子さんインタビュー

94歳にして、新作絵本『雨ニモマケズ』(ミキハウス)を出版された柚木沙弥郎さん。
柚木さんは、戦後すぐの頃に、美術家であり思想家である柳宗悦(やなぎむねよし)を通じて「民藝」と出会い、のちに人間国宝となる染色工芸家、芹沢_介(せりざわけいすけ)に師事。現在にいたるまで、型染の第一人者として長年作品を作りつづけてこられました。
はじめて手がけた絵本は、1994年に刊行された『魔法のことば』(エスキモーの伝承詩 金関寿夫/訳 クラフトスペースわ刊 後に福音館書店より刊)。この作品で「子どもの宇宙国際図書賞」を受賞したのを皮切りに、何冊もの絵本を制作されています。
編集者である松田素子さんとのタッグは、この『魔法のことば』からはじまり、まど・みちおさんの詩を絵本にした『せんねん まんねん』(理論社、2008年刊)につづき、『雨ニモマケズ』が3作目です。
本が刊行されて数日後のある日、松田さんと一緒に、柚木さんのご自宅でお話をうかがうことができました。台所でポットにお湯を沸かし、柚木さんが用意してくださったコーヒー豆を挽きながら、なごやかに話ははじまりました。

僕はね、「雨ニモマケズ」をあかるく描こうと思う。

───コーヒーはどんなものがお好きなんですか?

柚木:深煎りなのがいいね。うちでも昔、画家だった父親が飲んでいたの。茶こしで漉してね。子どもにはうすいのをくれるんだ。僕は今はちょっとミルクをいれた方がいいかな。でも、僕はもう、手首の力が要る、普通の人ができるようなことができないの。コーヒーの缶のふたを開けたりね……。

───でも、制作は毎日続けていらっしゃるんですか。

柚木:時々くたびれちゃって、「なんでこんななんだろう」と思うこともあるけどね。 この『雨ニモマケズ』も、締切間際に出来たんですよ。僕はなんでも締切前にいいものが出てくるの。それまではいくら考えたってだめ。夜はノックダウンみたいに床に入る。「ああ、あしたの朝、この仕事は断るんだろうなあ」と思いながら(笑)。でも目がさめて「ああそうか、こうすればいい」とわかる。追い込まれるといいものが出てくる気がするね。

松田:『雨ニモマケズ』を、どんな手法で描こうか、最初はずいぶん迷っていらっしゃいましたよね。


制作中の型染め。型染めとは、型紙を用い、布や和紙に防染糊を置き、色染めする方法。糊のところだけが白く、他は色付けされます。


編集者の松田素子さん。


コーヒー豆を挽きながら……。

柚木:最初は型染めでやろうかなと思ったの。最初に描いたラフはね――「抽象」と言えばわかりいいかもしれないけれど、具体的な人間の形なんかが出てこないようなやつだったんですよ。賢治の精神を表現することが大事なんだから、たとえば、雨という言葉があるからといって雨の絵をそのまま描かなくてもいいかなと思ったわけ。でもね、抽象はきれいなんだけれど、あんまり抽象的になりすぎると……、親しみがないからね。

───「親しみ」というのは、子どもにとってですか?

柚木:いや、子どもだけじゃなく、大人も子どももぜんぶにとって。具体的な絵のほうが親しみがあるでしょ? 作ったものが人に「伝わる」ということはね、とても大事ことなんですよ……。
賢治の文言だけ見れば、人間の姿を描くことがどうしても必要かといったら、必要じゃないと僕は思う。でも、もしも大人が子どもに読んであげるとすると、子どもはいっしょうけんめい絵を見るじゃない。そしたらやっぱり具体的な物や人間が出てきたほうがわかりやすいでしょうね。とはいえ、僕は何によらず、説明的な絵はダメだと思う。頭でわかってもだめなの。絵から「感じられるもの」がないと。

松田:柚木さんがあれこれ考えておられた時期に、私からお手紙を差し上げたことがありましたよね。
「雨ニモマケズ」は賢治が人に見せるために書いた「作品」ではなく、亡くなる2年前に、誰に見せるともなく手帳に書きつけた、いわば「祈り」なんだと思っていただけたらと思います、というようなことを書いて……。
その手紙に対して柚木さんからいただいたお返事があるのですが……ここで、公開しちゃってもいいですか?

「 速達ありがとう。賢治渾身の祈りに、あまりにも深く、広く、大きいことに打たれ、始めから出直さないわけには行かないことになっています。デクノボーのようなものになって人々を助けに "行く" 切実にそんな事情に迫られてスラスラと書きとめた手帖。自分の他に見せないはずの、本当の自分の祈りです。がんばります。」


柚木沙弥郎さんから松田素子さんへの葉書。


「苺の季節の頃だったんでしょう」と柚木沙弥郎さん。

柚木:これは苦悶の最中ですね。いつ書いたかな。

松田:一度目のラフを見せていただいたあとの頃です。

───制作にかかった期間はどのくらいですか。

柚木:最初に松田さんからお話があったのは2013年。3年前です。途中、フランスの美術館の展示やら、他の制作もあったし、なかなかいいのができなくてね。ただ、締切近くなって松田さんが「あと一ヶ月は、待てます」って言ってくれてからは、早かったね。それまで描いていたのをぜんぶやめにして、もう一回はじめから描きました。実際には一ヶ月かからなかったんじゃないかな。

───そして最終的に描かれた『雨ニモマケズ』の絵……、これは水彩ですか?

柚木:そう、透明水彩絵の具。

松田:この最終的な絵を描かれる前だったと思うんですが、柚木さんがお電話をくださって「松田さん、僕はね、この『雨ニモマケズ』をあかるく描こうと思うんだ」とおっしゃった……あの言葉と声が、今も忘れられません。

───たしかに絵本を見たとき、本当にあかるく、なんて透明感のある美しさだろうと感動しました。光に祝福されているみたい……。「雨ニモマケズ」のイメージをくつがえされました。

柚木:そう言っていただけるとうれしいです。先日『雨ニモマケズ』の原画展をしたんだけど、その帰りに、道で会った人がいてね。ギャラリーの中で顔を見た人だなと思ったから、「さっきはどうも」って挨拶したの。そしたらさ、その人がこう言うんだよ。「私は『雨ニモマケズ』を読むといつも、賢治さんに叱られているような気がしていたんです。でも柚木さんの絵を見たら、そうじゃないんだと思って、あかるい気持ちになりました」と、そう言ってくれたのね。「気が晴れました」って。「ああそうか……」と僕も思ってね。そんな人が一人でもいてくれるなら、作った甲斐があったなと思いました。

───松田さんが最初に絵をご覧になったときはどう思われましたか。

松田:「できたよ」って柚木さんからお電話いただいて、お宅にうかがって、一枚一枚拝見し終わったところで、「素晴らしいです!」と言っただけでなく、思わず拍手をしてしまいました。
今回の絵本は、ある意味、柚木さんの描きたいように描いていただこうと腹を決めていたところがあったんですが、出来上がった絵を見て、本当に嬉しかったです。

柚木:松田さんのような「でかぶつ」は最近あまりいないからね。僕も喜んでもらえると嬉しいわけですよ。

松田:編集者として私がしたことは、絵を描いていただく前にまず、業界用語ですが「束(つか)見本」と呼ばれる白い本を作って、その右ページに本文のテキストを貼ってお渡ししたことくらいです。
文章の内容と絵の展開を想像しながら、言葉の区切りを考えて、さらに仕上がりがイメージできるように、文字の大きさもおよそ決めて貼り込みました。左ページは絵のスペースということで白いまま。そうして「自由に描いてください」とお渡ししました。こうすれば、柚木さんにはきっと、その白いところに「絵」が見えてくるにちがいないと思いましたから。


松田素子さんが柚木沙弥郎さんに渡した「束(つか)見本」。
左ページは空白。

松田:言葉の周りに枠を入れることはこちらから提案しました。この枠も、柚木さんに描いていただきました。タイトルも柚木さんの手によるもので、これは型染めの手法で描かれました。枠の色については、デザイナー(高橋雅之さん)との話し合いで決めた色指定です。

柚木:テキストは右か左か、枠をつけるか、色はどうするかと松田さんが悩んでね。でも出来上がってみたらすごくいいじゃない? いいものができたなと思いますよ。

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どんぐりころころ どんぶりこ〜 まるごと、うたえる絵本!
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柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)

  • 1922年、東京生まれ。女子美術大学名誉教授。
    洋画家の父を持ち、東京大学で美術史を学ぶが、戦争で勉学が中断され、戦後、父の郷里である岡山県の倉敷にある大原美術館に勤務。そこで民藝運動を牽引する柳宗悦らと親交を持つようになった。その後、芹沢_介に師事し、型染めを手がける。
    布への型染めの他、さまざまな版画やガラス絵などの作品にも挑戦し、絵本やポスターの制作、装丁やイラストレーションなど幅広いジャンルで活躍。1958年に型染め壁紙がベルギーのブリュッセル万国博覧会で銅賞、1990年に第1回〈宮沢賢治賞〉を受賞。国内にとどまらず、2008年よりパリで個展を開催。2015年にフランス国立ギメ東洋美術館に多くの作品が収蔵された。

    絵本『魔法のことば』(エスキモーのことば 金関寿夫/訳 クラフトスペースわ)で1996年に〈子どもの宇宙国際図書賞〉を受賞。(同書は、2000年に福音館書店版が刊行された)『せんねんまんねん』(まど・みちお/詩 理論社)で2009年に〈産経児童出版文化賞美術賞〉を受賞。そのほかの絵本作品に『トコとグーグーとキキ』(村山亜土/作)『つきよのおんがくかい』(山下洋輔/作)『そしたら そしたら』(以上、福音館書店)、『雉女房』(村山亜土/作 文化出版局)、『ぜつぼうの濁点』(原田宗典/昨 教育画劇)など、多数。

松田素子(まつだもとこ)

  • 1955年山口県生まれ。編集者、作家。児童図書出版の偕成社に入社。雑誌「月刊MOE」の創刊メンバーとなり、同誌の編集長を務めた後1989年に退社。その後はフリーランスとして絵本を中心に活動。これまでに約300冊以上の本の誕生にかかわってきた。各地でのワークショップを通して、新人作家の育成にもつとめており、なかやみわ、はたこうしろう、長谷川義史など、多くの絵本作家の誕生にも編集者としてたちあい、詩人まど・みちおの画集なども手がけた。また自然やサイエンスの分野においても、企画編集、および執筆者として活動している。

作品紹介

雨ニモマケズ
雨ニモマケズの試し読みができます!
作:宮沢 賢治
絵:柚木 沙弥郎
出版社:三起商行(ミキハウス)
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年齢別絵本セット