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インタビュー

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2018.06.28

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江戸の町を練り歩く、動物たちの愉快な見物行脚の物語『はなびのひ』たしろちさとさんインタビュー

「チュウチュウ通りのゆかいななかまたち」シリーズ(あすなろ書房)の挿絵をはじめとして、温かみのある柔らかなタッチで描かれた動物の物語「つんつくむら」シリーズ(講談社)、町に暮らすねずみたちの暮らしを描いた「5ひきのすてきなねずみ」シリーズ(ほるぷ出版)など、たくさんの人気作品を生み出してきた、たしろちさとさんの最新作『はなびのひ』が発売されました。
舞台は、賑やかな江戸の町。題名通り、江戸の華とも言われる「花火」をテーマにした絵本です。今回「和」を題材とした絵本に初めて挑戦したというたしろさんに、おはなしのテーマ選びから絵づくりまで、制作秘話をたっぷりとお伺いしました。

  • はなびのひ

    出版社からの内容紹介

    今日は待ちに待ったお江戸の花火大会。早く夜にならないかと退屈していたぽんきちは、お母ちゃんに頼まれて、花火職人のお父ちゃんに夜食を届けに出かけました。すると、それを見た人たちが次々と後をついてゆき、町中が大騒ぎに! 江戸の町並みと夜空に咲く大輪の花火が夏の風情を感じさせる、たしろちさと初の和風絵本です。

魅力的な江戸の町を舞台にした物語を描きたくて

───たしろさんといえば、「チュウチュウ通りのゆかいななかまたち」シリーズの挿絵に代表される、洋風の街並みの絵が印象的でした。『はなびのひ』は江戸が舞台と知り、「たしろさんが描く江戸の町はどんな風だろう?」とわくわくしました。どのページを見ても、活き活きとした江戸の下町風景が広がっていて、江戸の人の暮らしぶりがよくわかり、すごくおもしろかったです。江戸を舞台にしたお話を作ろうと思ったのは、なぜですか?

たしろ:よく「海外の絵本のような絵ですね」とおっしゃっていただくことが多いんですが、自分では外国風に描こうと思って描いていたわけではなく、自然とそういう絵になってしまったという感じだったんです。それで、少し違うテイストの絵に挑戦したいなという気持ちがありました。

もう1つの理由は、絵本の世界として「江戸」を描くのは、きっと楽しいだろうなと思っていたからです。子どもの頃は『水戸黄門』などのテレビ時代劇を観たり、大人になってからは藤沢周平さんの本が好きで読んだりして、おもしろいなと思っていて。だから、いつか挑戦してみたかったんです。
 
───それでは、『はなびのひ』は、花火のおはなしを描きたいと思って、舞台を江戸にしたのでしょうか? それともその逆ですか?
 
たしろ:江戸が先でした。私は建物が好きなので、江戸の建物を描いてみたいなという気持ちがあって。

───江戸の町のどんなところに、魅力を感じましたか?

たしろ:江戸言葉からも感じられるように、町にすごく活気があって、人々が生活を楽しんでいたイメージがありました。さらに資料を調べていくと、江戸の町には屋台がたくさんあって、お寿司も屋台のお店が始まりだったなど、食いしん坊の目から見ても楽しそうだったんです。
時代が違うので、実際にその場所には行けないんですが、『はなびのひ』では、動物たちを通して、江戸の活気あふれる町の雰囲気を描けたらいいなという思いがありました。

───作品の中には、「髪結い屋」や「傘屋」などのお店や、江戸時代の学校だった「寺子屋」、「魚売り」や「飛脚」などの流しの商売人など、20種類以上の店や職人さんたちが描かれています。建物はもちろん、人々の暮らしぶりも細やかに描かれていますが、どんな風に調べたのですか?

たしろ:資料を集めたほかに、編集の藤本さんと一緒に、江戸東京博物館や両国花火資料館へ取材に行きました。

藤本:江戸東京博物館には、江戸の街並みを再現した大きなジオラマが展示されているんです。そのジオラマを見ているだけで、わくわくしましたね。

たしろ:そうですね。ジオラマは物語があるように作られていて、カメラの望遠レンズを覗きながら「この人はどんな仕事をしているんだろう」と想像しながら、楽しく取材させていただきました。
取材中は、学芸員さんが付きっきりで説明してくださったので、おもしろいお話がたくさん聞けたんですよ。

───学芸員さんの話で、印象に残ったものはなんでしたか?

たしろ:長屋の構造など、絵本に必要なお話もおもしろかったのですが、「出版と情報」というコーナーで聞いた、錦絵の刷り方のお話がおもしろかったです。
江戸時代の本屋は、自分の所で印刷・製本して、その本を貸したり売ったりする、今の出版社と書店両方の機能を備えていたんだそうです。それで、本屋さんを描きたいなと思って、実際に登場させました。

立ち読みもOKだった江戸時代の本屋さん(左)と、町のあちこちにある食べ物屋さん(右)

藤本:私が、学芸員さんの話でおもしろいなと思ったのは、家の台所のつくりが簡素なことでした。理由を聞いたら、独身男性が多かった江戸では、家でご飯をつくる習慣があまりなくて、外食するのが一般的だったそうです。冷蔵庫がない時代なので、家で食材の保存ができなかったのが理由だと聞いて、納得しました。

たしろ:だから、町にはいつも食べ物の屋台が出ていたり、食事処が多かったりするんですよ。

───それで絵本の中にも、たくさん食べ物屋さんが描かれているんですね。

ぽんきちと一緒に江戸の町を歩いている気分が味わえる! 綿密な構成と構図の工夫

───街並みも細部まで描かれていますが、これは架空の街並みなんでしょうか?

たしろ:江戸時代の両国橋付近の街並みをベースにしつつ、お話に沿ってお店の位置を変えたりしています。川の手前にあるお寺は、両国橋の近くにある回向院です。実際にお寺の境内で相撲大会が行われていたそうなので、その様子も描きました。でも描き始めてからも、いろいろと調べ足りない点が出てきて、けっこう難しいなと思ったんですよね。
 

藤本:資料にした本を見せてもらいましたが、付箋だらけでびっくりしました。

制作の資料にした参考書の一部。資料を探すのは大変だったけれど、調べるのはとても楽しかったそう

たしろ:ほかにも、昔の地図と照らし合わせて、現在残っている建物を探したり、江戸の建築の本なども読んだりしました。あとは、浮世絵のすみっこに描かれている、人々の生活がわかる絵を探したりしました。本当にいろんな所から勉強していきました。
 

───それでは、ぽんきちが歩いた道筋は、古地図を見ながらアイデアを練って作り上げたのですか?

たしろ:そうなんです。文章の流れというよりは、絵だけで流れがわかるような絵本になったらいいなと思って。資料集めや構成を考えるのはすごく楽しかったんですが、実際に描くとなると難しくて。イメージとしては、絵巻物みたいに連続性のある絵で、ぽんきちが歩いている様子をずっと追っていくように見せるというのが、目標だったんです。
ですから、とにかく地図をたくさん描きました。その地図と相関図を合わせて、どこにどんな建物があるか、どういうルートで人が歩いて行ったのかというのを、繰り返し検討しました。真っ直ぐ歩きたくないけれど、あまり細かく曲がってもおかしいかなとか。相撲大会など、描きたい場面の絵と同時に、曲がる位置関係をどうしようかとか……。
ぽんきちの後に大行列ができている様子を描いた鳥瞰図は、最初はもっと建物に近づいた絵だったんですけれど、藤本さんの「もっと引いた構図でもいいのでは」というアドバイスで、変えました。

 

藤本:たぶん私もすべてのラフを拝見していないほど、本当にたくさん描いてくださって。どうリズムを出していくかなど、展開はかなり練っていただきました。

取材のために、ファイルにぎっしりと閉じられたラフ画を持ってきてくださったたしろさん。そのボリュームに、藤本さんも驚いていました

たし:本当に(笑)。最初は、大まかにページを割って流れで考えました。だんだん内容が固まっていくと、どういう道筋で隅田川まで行くのか、何回曲がるかなど、自分で体を左右に動かしながら思い描けるようになりました。

(左)絵の繋がりと話の流れを見るために描いたという、ページ割のラフ。コピーや切り貼りの跡で、順番の入れ替えや構図の変更などを繰り返し検討した様子が伝わってきます。(右)建物の配置やアングルを検討したラフ。建物の大きさや配置などに微妙な違いがあり、細かい所にまでたしろさんのこだわりが表れています

───地図から構図、そして絵本としての構成や流れなど、本当にたくさんのラフ画を描いていらっしゃっていますよね。実際に出来上がるまでに、どのぐらいの時間がかかったのですか?

たしろ:資料を調べ始めて、ラフのラフができあがるまでがうんと長くて、何年もかかりました。自分の中で流れがわかるまでは、なかなか形にできなくて……。
例えば、ぽんきちの後を付いていく動物たちが、どんな風に行列を作っていくのかなどいろいろ考えたり、描いてみないとわからないので、アングルを変えた絵を何枚も描いたりしました。
 

───花火大会の会場である隅田川へ向かって、町を移動していく絵の流れと、「もうすぐ花火が上がる」という気持ちの盛り上がりがリンクしていて、読んでいる側の気持ちも盛り上がりました。

たしろ:読者の方に、ぽんきちの気持ちになって読んでもらいたい気持ちもあるけれど、ぽんきちが何かしながら歩いて行く様子を見る楽しさも味わって欲しいなとも思ったので、アングル違いの絵を何度も描きました。

───ぽんきちくんは、花火大会に行く途中で寄り道して遊んでいて、自分の後にできている大行列に気付いていない様子。そんな風に少しぼーっとした所があるけれど、とってもかわいらしいキャラクターです。主人公をタヌキにしようと思ったのはなぜですか?

たしろ:この作品のアイデアを考えたときに、「江戸」に続いて出てきたのが「タヌキ」だったんです。私の頭の中に最初に思い浮かんだ文章が、「ポポン ポン ポン。ここは大江戸 タヌキ横町」だったんです。できあがった『はなびのひ』とは全然違いますが、その一文のひらめきから、タヌキを主人公にしました。

───たしろさんの作品で、タヌキが登場するのは初めてですね。仕草もかわいらしくて、お母さんにおんぶされた小さな弟・妹たちもかわいいです。絵本には、タヌキ以外にもいろんな動物が登場しますが、登場させる動物の種類は、どんな風に決めたのでしょうか?

たしろ:日本にいる動物にしようと思って、鳥獣戯画にも描かれているウサギとカエル、サルを入れました。お武家さんはウマかイヌという風に、職業からなんとなくイメージして決めた動物もいます。ブタは、私が好きなので入れてみました。

相撲取りは力が強いクマやイノシシに、軽業師はユニークな雰囲気を持つカエルになっています。右下のラフは、アングルの違いを検討した際に描いたものだそう

藤本:寺子屋のお師匠さんは、どんな動物にするか迷いましたよね。

たしろ:そうですね。ハクトウワシという案もありましたが、最終的におじいちゃんっぽさが出るヤギにしました。

───どの動物も活き活きとした姿で描かれていて、仕草にも特徴がありますね。ネコは、粋な雰囲気で、歩き方も艶っぽさを感じます。

たしろ:気付いてもらえて、うれしいです。実はこの絵は、最初の構成の時にはなかったんですよ。着物を着ている人の歩き方が難しくて、キャラクターを考えながらスケッチを描く中で、入れようと思って追加しました。
着物と洋服では、着ている人の体の重心が違うんです。着物姿の人の歩き方を映像で見ると、洋服に比べて、少し腰が後ろに落ちているんですね。着ている衣装だけでなくて、仕草も違うんだなと思ったので、それを絵にも反映させました。着物の柄も、時代に沿ったものを選んでいます。
 

───細かい部分の表現も、こだわって描かれているんですね。一番苦労した絵はどれですか?

たしろ:やはり、この鳥瞰図ですね。メインの人が、ちゃんと順番に付いてきているかチェックしたときは、間違い探しをしているようでした(笑)。藤本さんに指摘されて、回向院の土俵脇にある酒樽も、最初3段で描いたんですが、前のページは4段だったので付け足して。

藤本:のぼりの旗も数が少なかったので足しましたね。でもそういう細かい所を見つけるのが、楽しみな絵本になったと思います。またこの絵は、列の先頭から離れた場所はぼかして描かれているんです。それでなんとなく、道筋にフォーカスが当たるように見えるのが、すごいなと思います。

───本当ですね! ページの隅々までたしろさんのこだわりが感じられます。

塗っても塗っても先に進まない!? 和の色合いへの挑戦

───『はなびのひ』は、これまでのたしろさんの作品と色合いがまったく違うので、新鮮な印象を受けました。題材に合わせて、和風の色合いを追求したのでしょうか?

たしろ:そうなんです。江戸時代には、素敵な名前の色がたくさんあるんですよ。和の色は、今までの自分のパレットにはない色ばかりだったので、挑戦してみたいなと思っていたんです。ちょうど使っていたアクリル絵の具に、「和バージョン」があるのを知って、その色を使いました。

色を決める時には、実際に紙の上に絵の具を置いて色味を検討したそうです

───何か、色で苦労したことはありましたか?

たしろ:和の色は少し煙ったような、しっとりした印象があったので、それを出せたらいいなと思っていたんです。色を塗る前は、軽く考えて「チャレンジしてみよう!」と思って始めたんですが、いざやってみると、塗っても塗っても先に進めないんです。描き上がらないという意味ではなくて、もうちょっと色の深みが必要だなと思うのに、なかなか深みが出せなかったので、どうしようと(笑)。
 
そこで絵の具を混ぜてみたんですが、しっくりこなかったので、混ぜないほうがいいなとなって。そこで、最初に「なまかべいろ」を淡く全体に入れるなど、やりながら工夫していきました。
 

───全体的に江戸時代の素朴な雰囲気が出ていてとても素敵です。一番の見所は、題名にもなっている花火のシーンですが、大きな花火が鮮やかで、迫力たっぷりですね。原画も美しいです!

たしろ:この花火だけは、史実をそのまま再現するのではなく、現代的な花火のイメージを加えています。江戸時代は、絵のように大きく開く花火はまだなくて、ススキの穂のように、下に向かって落ちる花火だったそうです。花火大会で打ち上げられるのも、20発ぐらいで終わりだったそうなんですね。

───そうだったんですね! 絵本を読んでも感じますが、花火大会の規模の大小というよりは、花火大会の日を楽しむこと自体が、江戸の人の楽しみだったんだろうなと思います。この花火ですが、原画を見ると、黒の下に青い色が塗ってありますね。

たしろ:はい。最初の花火が上がるのは、日が暮れきっていない時間帯だったので、そこから暗くなったことを表現するために、色を重ねています。

───本当に光っているように見える花火ですが、どんな風に描いたのですか?

たしろ:もう1回同じことはできないんですが(笑)、花火の周囲の地色は夜の青なんですが、花火の光の余韻がある所は逆で、黄色の地色の上に夜の闇を乗せているんです。パラパラと火が落ちている部分は、黒の上に絵の具をたっぷり置いて描きました。

───それでこんなに、鮮やかな黄色になっているんですね。夜空に浮かぶ花火の美しさだけでなく、迫力も感じられて、まるで音まで聞こえてきそうです。

たしろ:それは、藤本さんのアドバイスのおかげなんです。「大曲の花火」(秋田県大仙市で行われる、全国花火競技大会)の動画を送ってくださって、「もっと臨場感があって、どーんと音が聞こえるような感じにしてください」と言われて。

藤本:実は、私は秋田県大仙市の出身なので、小さい頃から花火が好きなんですね。実際に花火大会に行くと、音もすごいし振動もある。視界全体が花火になっているというのを、絵で出しませんかと提案しました。

たしろ:私のイメージでは、暗闇に光が乱れ打つみたいななんとなくのイメージだったので、振動まで考えていなくて。でも藤本さんのお話で、確かに音や振動も大事だなと思ったんです。

───音や振動という、絵には描けない要素を、実際にどうやって絵に落とし込んでいったのですか?

たしろ:花火のシーンは、引いて見せたり寄って見せたりしてアングルを調整しました。ほんのちょっとのことで、感じも違うのかなと思って。
また、1発目の花火が「どーん」と上がった所は、橋の上で見ている人も少し浮き上がっているような感じを出しました。絵本では下が切れていますが、原画ではもう少し下まで描いています。ここは、できるだけ花火を大きく見せたかったんですね。2発目は、観ている人の盛り上がりがわかるように、少し引いたアングルにしました。

───花火そのものの見え方にも工夫がありますが、それを見ている人々の絵で、臨場感を出していったんですね。

藤本:花火の大きさだけを考えると、ここだけ絵本を縦長にして見せるという方法もあるかと思うのですが、そうすると、ぽんきちの家からずっと積み上げてきた流れが途切れてしまうんです。横長だと、どうしても切らなくてはいけない部分も出てくるんですが、そこはすごく苦心して頂いて。完成した絵は、納得の仕上がりで、すばらしいと思います。

───読むと花火が待ち遠しくなる1冊ですね。長い時間をかけてじっくり制作なさった過程など、いろいろなお話を聞くことができて、とても楽しかったです。ありがとうございました。最後に、絵本ナビ読者へのメッセージをお願いします。

たしろ:絵本を読んで、ぽんきちと一緒に花火を楽しんで頂けるとうれしいです。

───ありがとうございました!!

取材:掛川晶子(絵本ナビ編集部)
文:中村美奈子(絵本ナビ編集部)
写真:所 靖子(絵本ナビ編集部)

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