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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2015.09.17

柿本幸造さん 生誕100周年記念特別企画
出版社・書店 座談会

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教文館 ナルニア国 菅原幸子さん

───菅原さんには、書店員さんとして、本屋さんの中で柿本さんの作品がどのように読者の方に読まれているか伺えたらと思います。

菅原:柿本さんの作品は幅広い年代の方に人気なので、ナルニア国ではいつも切らさないようにしています。つい先日も、『どんくまさん』を探しにいらした方がいて、はなしを伺うと子どもの頃に読んだ「どんくまさん」シリーズが懐かしくて、大人になって集めている方で、その1冊だけが見つからず、ずっと探していたのだそうです。不思議ですが、柿本さんの作品の読者の方は、小さい頃に出会って、ずっと記憶に残っているという方が多いように思います。


教文館 ナルニア国の菅原幸子さん

───たしかに、おはなしと共に、一度見たら忘れられない独特なタッチが特徴ですよね。

菅原:私は書店で働くようになって、柿本さんの作品と接したので、先ほど画集に載っていたような、メカニックなものも得意だったなんて、とてもビックリしました。本格的なメカと同じ場面に動物が描かれていても、全く違和感なく共存できるのも、柿本さんの絵ならではなのだろうなと感じました。

───菅原さんは柿本さんの作品のどんなところが特に好きですか?

菅原:ナルニア国では以前『てぶくろをかいに』の原画展を開催させていただきましたが、柿本さんの描く雪の景色が本当に素晴らしくて、明るさや質感、冷たさの中にもホッとするようなあたたかさを感じました。でも、子どもたちに媚びるような甘ったるさを感じないのは、作品に嘘がないからなのかな…と思いました。

───嘘がない……というと?

菅原:例えば動物の描き方はデフォルメがされていますが、ブタはブタらしく、イヌはイヌらしく、クマはクマらしく、ぬいぐるみではなく、ちゃんと血の通った生き物だと分かるように描かれていると思います。その辺はちゃんと動物を見て、デッサンをされているのかなって思いました。

長峯:上野動物園に通われて、何時間も動物のスケッチをしていたこともあると、担当していた編集者がいっていました。



菅原:そういう風に子どもたちに真摯に向き合った方が描いている絵だから、見ているこちらも幸せな心地になるんですね。

真っ直ぐな目で絵本のはなしをする方でした。

───岡本さん、小沼さんは柿本さんと直接お仕事をされたことがあるそうですが、柿本さんはどんな方でしたか?

岡本:目がきれいな方でした。打ち合わせとか絵本のはなしをすると、目の色が変わるんです。

小沼:力強い真っ直ぐな目で、駆け出しの、編集者ともいえない私の言葉も一生懸命聞いてくださいました。打ち合わせの後は、毎回、ご自宅のそばのバス停まで送ってくださるんです。そうして、手をピッて伸ばしてずっと見送ってくださって、バスの中でひゃーーって恐縮しました。

岡本:その姿が、どんくまさんにそっくりなんです。

───どんくまさんを描くうちに、柿本さんの中にも、どんくまさんがいたのかもしれないですね。柿本さんは本当に沢山の作品を描かれていますが、絵を描くのは早い画家さんだったのでしょうか?

小沼:とても遅筆な方でした。「絵を取りに来てください」と連絡をいただいて、鎌倉のお家にお邪魔するのですが、その日にまずいただけるかどうか。「では明日また伺います」……という感じで、1枚ずつ。もらい終るまでには、ずいぶんかかりました。


岡本:1冊の絵本で、大体30回くらい、鎌倉に通いました。編集者の間では「鎌倉詣」と呼ばれていましたね(笑)。

───1枚、1枚、本当に丁寧に描かれていたんですね。

岡本:絵をいただいたときに一度だけ「ここを少し修正してもらえませんか?」と相談したことがあったのですが、「分かりました」と、2階のアトリエに戻られて、それから1時間くらい降りてこなかったんです。戻ってこられたときにはお願いした場所だけでなく、いろんな場所に手を加えて直してありました。小さなものの位置ひとつでも、バランスなどをとても考えて描かれているんだ……とそのとき気づき、それ以降は絵に関して提案するのはやめました。

───絵本を手にする、子どもたちに対して、どんな作品を作っていきたい、どういう風に読んでほしいというはなしをされていたことはありますか?

岡本:むしろ好きな絵をご自分に誠実に描いてらっしゃったんだと思います。絵を見ていただけると分かりますが、オオカミや毛虫など、嫌われ者であっても、憎らしく描かれていないんですよね。愛らしく、ユーモアたっぷりに描かれているのは、先生のお人柄だと思います。

───話を聞けば聞くほど、作品から感じられる通りの人柄だったんですね。最後にみなさんが感じている、柿本作品の魅力を教えていただけたらと思います。

渡辺:一言でまとめられないくらい、魅力にあふれる画家さんだと思うのですが、特に、リスのほっぺのふくらみの生き生きとした感じや、周りの風景や生き物たちすべてに愛情を持って描かれているタッチ。絵を観た人すべてが元気になる。逞しさと柔らかさと温かさが全部入っている点だと思います。

小沼:絵を見たときに、武市はよく「張っている」という表現をするのですが、絵のすみずみまで力がいきわたっていて、かつ、情感・空気感が絵の上にゆらいでいる。1枚の絵をそこまでの完成度で描ける方は少ないと思います。そして、一筆一筆、ご自分の気持ちを乗せて描いてらっしゃるんだろうなって感じられる温かさ。物も人も、出てくるものすべてに愛情をこめて、同じ温かさで描かれているんです。

佐藤:私は柿本さんが描く、等身大の子どもの姿にもとっても魅力を感じます。画集『ひだまりをつくるひと』に掲載されている、お遊戯会の絵を例にとると、一生懸命な子もいれば、ちょっと集中力が切れて、横を向いている子がいたり、ひとりひとりの心の動きまで伝わってきそうな描写がたまらないんですよね。

長峯:人間だけでなく、動物の動きも、子どもたちが共感できる要素が詰まっています。「みんなでよいしょ」で、大きな木を動物たちが運ぶ場面。一番小さいリスの子は明らかに手が届いていないけれど、一生懸命参加しようとしている姿は、子どもに自分のことのようにリアルに映ると思います。

岡本:先生のお宅で絵を待っているとき、庭を眺めたり奥様とおはなししたりしていると、なんだか豊かな気分になったのですが、先生の絵もその中にいると豊かな気持ちになる。絵の魅力は、先生の暮らしそのものだったような気もします。あと、色の使い方が本当にきれいで、ぼくは特に秋の色が好きですね。

小沼:秋の風景の色は柿本先生の「柿色」といわれる色ですよね。

長峯:本当に柿本さんの描かれる色は、綺麗で明るくて、あたたかいですよね。

───……どうやら、まだまだおはなしは尽きないようです。100周年のこの機会に、ひとりでも多くの人に、柿本さんの作品を読んでもらいたいと思います。本日は本当にありがとうございました。

編集後記

今まで、数多くのインタビューをしてきましたが、1人の作家さんの作品を複数の出版社の方が集まってはなしをする機会は一度もありませんでした。そういった意味でも、かなり貴重な取材となった今回。出版社という垣根なく、柿本さんの作品について語られる皆さんの顔は、どの方も柿本さんの作品にはじめて出会ったころの思い出と懐かしさにあふれていました。生前、ご自身の作品について多くを語らなかったという柿本さん。残念ながら絵本ナビでご本人にインタビューを行うことは叶いませんでしたが、私達は絵本を通して、柿本さんの子ども達への思いをいつでも感じられるのだな……と改めて思いました。

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柿本幸造(かきもとこうぞう)

  • 1915年広島県生まれ。「どんくまさんシリーズ」(至光社刊)、「おかえりくまくん」(佼成出版社刊)、「ごろりんごろんころろろろ」(ひさかたチャイルド刊)などの作品がある。小学館絵画賞受賞。

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