この絵本は、中秋の満月を鑑賞し、月の神様にその年の恵みを感謝するお祭り、観月祭のお話です。
十五夜の日、キッカとゲントは、おかあさんに連れられて神社のお祭りに出かけます。
屋台でにぎわうお祭り会場を抜け、山の上の神社で行われる観月祭へ。静けさの中、虫の声と神主さんの感謝と祈りの言葉だけが響き、月の神様へ向けて舞も披露されます。気づくと、キッカとゲントの周りには山の生き物たちも集まり、観月祭を見守っていました。
そして、「ドン、ドン」と打ちあがる花火とともに、丸いお月さまも顔を出すのです。
特筆すべきは、なんといっても羽尻利門さんの描く美しい月。
月は、月の神さま・月読命(ツクヨミノミコト)の化身とされ、観月祭では恵みに感謝する祈りを捧げます。そうした厳かで美しい月の姿や、月を愛する人や生き物、そして月に見守られている命や世の中など、それらから発される空気感までをも羽尻さんは写し取り、私たちに感じ取らせてくれるのです。
羽尻利門さんは徳島県阿南市在住で、この『つきみのまつり』は阿南市の津峯(つのみね)神社の観月祭をモデルとしています。羽尻さんは2018年に参加したことをきっかけに、5年の歳月をかけてこの絵本を作り上げました。
お祭りの屋台に集う人々のにぎやかさ、一転して薄暗がりの中行われるお祈りや舞の静謐さ、そして月にみとれる人や生き物たちのかけがえのなさ、緻密な筆致は、そうした物たちの輪郭を捉え浮かび上がらせます。
また、キッカちゃんとゲントくんの名前は、秋の花の「菊花」、月の異称である「玄兎」がモチーフとされていたり、各画面に絵本と関わりの深い4つのひらがなが隠されていたり、すみずみにまで「おつきみ」という行事の魅力をふんだんに散りばめてあります。
月をめでる風習は遠く平安時代から行われていたそうです。遠い昔から私たちを照らしてきた美しい月のことを想いながら、ぜひこの絵本で「おつきみ」の魅力をあますことなく味わってみてください。
(徳永真紀 絵本編集者)
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