舞台は今から400年ほど前の瀬戸内海にうかぶ島。昔から良い石がとれることで知られるこの島では、大阪城の石垣に使うためにたくさんの石が運ばれたのです。
サムライや石工が山奥でいい石を見つけると、準備が始まります。島じゅうから村人が集まり、岩のまわりの木々が切り倒され、足場が組まれ、石を運ぶ道をつくります。石工たちは歌に合わせてノミをたたき、彼らが暮らせるように小屋が建てられ、ふなつきばも整えられていきます。
カン!カン!カン!
ガン!ガン!ギン!
石をたたく音が変わってきた頃……。
巨大な石を切り出し、人の力だけで海を越え、大阪城まで運び出す。この風変わりな長い旅路の絵本をつくられたのは、綿密な取材のもとにあらゆる仕事場や乗り物を迫力の絵で描きだす絵本作家鎌田歩さん。本作でも小豆島で実際に残っている石切り場を訪れ、屏風絵や絵巻、写真集など様々な資料から雰囲気を感じ取って制作されたのだそう。
冒頭から登場するそびえ立つような高さの岩に目を奪われると、観音開きのしかけで表現される石が割れる瞬間に興奮し、お祭りのような賑やかさで運ばれていく様子に心躍り、巨大な石が船に乗せられる瞬間に「ほおーー」と声が出る。
「石を砕き、人の力で運ぶ」
この作業のシンプルな面白さ、凄まじさに夢中になってしまうのです。危険で過酷な作業だったに違いないという想像を見事に裏切ってくれるかのように、村人たちが一体となって仕事を成し遂げる気持ち良さが伝わってきます。
今度訪れた時には、このお城を作ったのは、実は高度な技術を持った技術者たちであり、普通の人たちなのだということを思い出しながら眺めてみようと思うのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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