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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  『いろは いろいろ』『ホーキのララ』沢木耕太郎さんインタビュー

八ヶ岳の小さな湖から生まれた物語

───最後に、児童書として刊行された『月の少年』について聞かせてください。どんなふうに生まれた物語ですか?
冬馬(とうま)という名前の男の子は、海の事故で両親を失い、小さなさざなみしか立たない湖のほとりに住む彫刻家のおじいさんのもとにひきとられて住んでいます。傷ついた子を、まわりの大人がどう見守っていくべきか、沢木さんの子どもを思う気持ちを感じます。

『月の少年』の湖は、僕の中で、実在の湖から感じたインスピレーションが元になっています。
山梨の八ヶ岳のふもとの山間に、小さくてきれいな湖があるんです。友人たちが住んでいて、ときどき僕はそこにいきます。湖のほとりに空き地があって、何十年か前に地元の方に頼まれてそこを買いました。湖は、村の水がめの役割を果たしていて、地元の方たちにとって大事な水源です。企業や開発目的の誰かに買われて湖を汚されてしまわないようにと、いつか別荘か山小屋でも建てたらと言われて買ったのですが、今も空き地のままにしています。
一周すると10分かそこらの小さな湖なんですが、本当に美しいところで、僕はときどきいくだけで満足していました。何度も通ううちに、ふと、かぐや姫が産み落とした男の子がいたとしたら・・・と考えるようになりました。この湖を主人公にした物語が書けそうな気がしました。

月の少年
作:沢木 耕太郎
絵:浅野隆広
出版社:講談社

沢木耕太郎が描く、少年の心、いのちの輝き。 湖のほとりの一軒家で彫刻家のおじいさんと暮らしている冬馬が、満月の夜に見たものは? 冬馬は腰を下ろしてから、男の子にたずねました。「この前の満月のときもいたよね。」男の子は だまってうなずきました。「笛を吹いていたでしょ。」男の子はまたうなずきました。「あの曲は なんというの?」すると、男の子はびっくりしたようにいいました。「笛の音が聞こえたの?」 ――<本文より>

かぐや姫なら、お父さんがいない子を産むかもしれない。男の子を産み落として月に帰ってしまったとしたら、その子は月を恋い焦がれるかもしれない。平安時代から現代にいたるまでずっとその湖で月を恋焦がれて・・・心に傷を負った少年が、その男の子と会ったとしたらと思い描いたところから、物語の構想がふくらんでいきました。

───海の事故で死んだ両親、心に傷を負った少年、という設定からは、東日本大震災後の子どもたちを想起してしまうのですが・・・。

物語にこめた思いはたくさんありますが、とても話しきれないから、それはまた次の機会にしましょう。3・11以降、僕なりに感じたり考えたことがお話の中に生きていると思います。
本当に、静謐さを感じさせられる美しい挿絵を浅野隆広さんが描いてくださって、僕は幸せだと思いました。『月の少年』を開いて味わってもらえればと思います。

───これから先も、絵本や児童書を出版されるご予定はありますか?

僕は形から入るタイプなので、最初に「沢木耕太郎の8つの箱」を作ってみない?と編集者に投げかけ、すでに7冊分のテキストは書き上げて渡してあるんです。そのうちの4つが出版されたところです。

───では、もう、すでにテキストがあるんですね! 8つ・・・ということは残り1つは?

書き上げている3つのテキストが出版されるかどうかはわかりませんが(笑)。残りの1つは・・・以前翻訳したものをダイジェストにしてまとめようかとか、高校生くらい向けに新たに長編をしっかり書こうかとか、考えていますがまだわかりません。『月の少年』で小学生だった冬馬が16歳くらいになった話を書いてもいいかなあ・・・と思ったり、いろいろ考えているところです。

一瞬にして過ぎ去っていく、楽しかった子育て期

───4冊の本からは、「子ども」への好奇心を感じます。

僕は昔からバスのいちばん後ろの席に座るのが好きなんですが、幼い娘を連れてバスの後部座席に座っていると、隣に座ったおばあさんから「今がいちばんいいのよ〜」と話しかけられることがよくありました。あまりに何度も言われるので、またか、と内心閉口することもあったのですが、今の気持ちはそのおばあさんと同じ(笑)。
小さい子を連れた方を見かけると「今がいちばんいいんだよ〜」と、さすがに声に出しては言いませんけれど、僕が言ったらきっとびっくりされますから(笑)。でも気持ちは、まさにそんな感じです。
「いちばんいいとき」は一瞬のうちに過ぎ去ってしまうものなんですね。あっという間でした。

───子どもへの好奇心は、やはり娘さんとの時間を通して感じたものでしょうか?

そうですね。僕は、ふつうのお父さんより比較的子どもといる時間が長かったと思います。生活を変えてからは、一日の中でも一緒にいる時間が長かったですし、子どもが親を必要とする一定の期間はそばにいました。ですから「あのときもっとやっておけばよかった」という後悔はないんです。でも、振り返るとあの時期・・・すごく楽しかったなあ(笑)。
ハイハイでこっちに向かってくるときの顔、片手をあげてうれしそうに答える、単語1つを叫ぶときの顔・・・。大きくなってからの顔より、なぜだか0〜4歳くらいの頃の印象がずっと強い。
小さな子どもには、気持ちを強く引かれますね。バスでも電車でも、道を歩いていても、子どもがいると、見ちゃう。娘が生まれる以前は、そんな自分であった記憶がないから、やはり娘との時間は大きかったでしょうね。
やわらかい身体や、しゃべり方、声やしぐさや・・・だんだん大きくなっていってもずっと興味深かった。
世界が豊かになったと思うし、豊かにしてもらった。そういう時間を娘からもらったんだと思っています。

───子育て時代、お気に入りの絵本はありましたか?

僕はもっぱら即席の創作話専門で、絵本を読んでいたのは妻でしたから、これがとくに特別な絵本だったというのはありません。でも『からすのパンやさん』(偕成社)やレイモンド・ブリッグズ作の『さむがりやのサンタ』(福音館書店)、『サンタのなつやすみ』(あすなろ書房)は何百回娘に読まされたかわからないくらい、読んだ気がします。

───沢木さんのように即興でお話を作ってみたいですが、むずかしいです! アドバイスをいただけませんか。

とにかくみなさんも「お題」を子どもからもらって、お話を作ってみたらいかがでしょうか。作れないとは限らないですよ。作ってみたら、きっと、好みや経験が何かしら反映されたものになっているでしょう。
知らず知らずに付与した意味を探っていったり、価値を見出していくことがもしかしたらあるかもしれない。今まで読んできた物語や、生きてきた道筋を栄養分にして、新しい絵本、新しい絵本作家が生まれるかもしれない。
「ゆき」とか「ながぐつ」とか、僕がやってきたように、子どものキーワードからお話をふくらませていくのを楽しむことで、想像が広がる親子のひとときが持てるのではないでしょうか。

───もう一度挑戦してみようと思います。ありがとうございました!

インタビュー: 磯崎園子 (絵本ナビ編集長)
文・構成: 大和田佳世 (絵本ナビライター)

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沢木 耕太郎(さわきこうたろう)

  • 1947年、東京都生まれ。横浜国立大学卒業。79年『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年『一瞬の夏』で新田次郎文学賞、85年『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞、93年『深夜特急 第三便』でJTB紀行文学大賞、2003年それまでの作家活動に対して菊池寛賞、06年 『凍』で講談社ノンフィクション賞を受賞。近著に、ノンフィクション作品『キャパの十字架』、児童書『月の少年』、絵本『わるいことがしたい!』『いろは いろいろ』、『ホーキのララ』などがある。

作品紹介

ホーキのララ
ホーキのララの試し読みができます!
作:沢木 耕太郎
絵:貴納 大輔
出版社:講談社
いろは いろいろ
いろは いろいろの試し読みができます!
作:沢木 耕太郎
絵:和田 誠
出版社:講談社
わるいことがしたい!
作:沢木 耕太郎
絵:ミスミヨシコ
出版社:講談社
月の少年
作:沢木 耕太郎
絵:浅野隆広
出版社:講談社
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