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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2009.10.27

長谷川義史さん
絵本『てんごくのおとうちゃん』

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極めて私的な絵本

───この作品は「お父さんの死」というストレートなテーマがまずあるんですが、例えば私の息子(5歳)は普通に絵本として楽しんでいるんです。その中で「どうしてお父ちゃんは天国にいるの?」「どうして天国にいるはずなのに会えるの?」といった風に自然に質問が来て。子どもって構えるわけでもなく、そうやって目の前の事実を自然に受け止めていくんだなあと感じたんですね。長谷川さんは、実際この作品を描かれている時に、小さい子が読む、子どもが読む、そういう事は想定されていましたか?

「していないです。誰が読むとかは全然考えてなかったです。かえって講談社の人には『こんな個人的なものを出してもええんでしょうか?』と聞いたくらいです。」

───絵本を通して読み手に何か伝えたい、という感じではなかったのでしょうか?

「ただ単に父親をここに描いときたい、というのが大きな一つ。反対に、すごい人に言いたいなぁというのがもう一つ大きくあって。

この絵本ってね。人前で読むと自分と重なって泣いてしまう人とかいるんだけど、僕はあんまり悲しく捉えてほしくないと思ってるんです。できるだけ前向きに伝わりたいと。

僕自身、まわりの大人の人や近所のおばちゃんによく『かわいそうにかわいそうに』って言われて、それがすごく嫌やってん。小さかったからだと思うんだけど、たいしてそんなに悲しいこと、というような感覚がなくて。『僕より、死んだ人のがかわいそうやん』というのがすごいあって。それは今もずっと。『死んじゃったらあかんねんで、生きていることがいいんや。生きたいと思っているのに運命で死んじゃう事もあるんだから、生きてるって事ははほんまにありがたいことやねんで。』もしこの絵本で伝えたいとしたら、こういうこと!
死んでかわいそうやなという本じゃなくて、お父ちゃんは死んでしまうんだけれど生きているのがええんやで、というのを結果的に教えてもろているという本。悲しいと言うよりも、子どもはその状況になれば、そんなもんやなって元気に思って生きていくやん。そうやと思う。」

───絵本の中の「ぼく」も、いつもお父さんの存在を感じている様子がとても伝わってきます。実際に経験をされている御本人の言葉からは、とても力強いものを受け取ります。子どもにはそういう力があるんだという事が伝われば、肩の力が抜けるお母さん方もきっといるのではないでしょうか。

「別にそんなもんやなと思ってやってきたからね。」

家族って切ない

─── とても私的、個人的な内容なのですが、エピソードや描写がリアルであればあるほど自分の中にも共通する切なさというものが伝わってくるような気がします。でもそれは、悲しくて切ない、というのとちょっと違う。自分の親のことを思い返したり、自分の子どもの事を想うとなぜか泣けてきたり、そういう感覚と近いのかもしれません。

「そう、家族って切ないねん。この絵もね、実際家にこんな写真があんねん。

裏表紙 裏表紙の絵を見ながら・・・。

これは確か動物園に行った時の記念写真だったと思うんやけど、ただ動物園に行っているだけなのに背広とか白いブラウスとか着飾って。しょうもないことなのに、大変な事みたいにしている。自分もそこに参加しているんやけど、この人たちを客観的に見たら、なんかね。それこそ、ようわからんちっこい幸せみたいなもんですよ、これ。それを一生懸命やっている、そういうのが切ないねんな。
今、親になってみると自分もそういう切ない事をしているんだろうなあと思うこともあるし。」

───家族って切ないという捉え方もあるんだなぁとしっくりきました。そういう家族への想いみたいなものが全ての作品を通して根底に流れている気がします。

「そんなことないんですけどね(笑)。」

小さい頃から・・・

─── 他の絵本でもそうですけど、長谷川さんの作品というのは、登場人物の表情や風景など本当にしっかり描かれています。『てんごくのおとうちゃん』では当時の時代の雰囲気まで蘇ってくるようで。普段からよく観察とかされているんでしょうか?

「観察は好きなのかもしれない。やらしい人間やねん(笑)。
子どもの頃からそうだったね。あの人こんなんやで、あそこでこんなんあったよとか。例えば先生の絵を描いて、それを誰かに見せて誰かが喜ぶという、そういうのが好きで。自分で絵を描いてのめりこんでいくというより、描いたやつを人に見せて反応が返ってくるのが好き。今やってることと同じ様な事を、小さい頃からやっていたんやね。」

─── お父さんの記憶が鮮明なのはそのせい?

「でも本当にこのくらいしか覚えてないんですよ。」

───その時に感じた感覚とか、見ていた風景とかすごく伝わってきます。

「やらしい子やったんかな・・・。詳しくは描いていないけど、お葬式の前後の事ってすごい覚えてんねん。思ったこと、考えたこと、周りの人の様子とかも。とんでもないことが起こっているという感覚はあったけど、わりと冷静で。そんな事を思い出します。僕だけじゃなくて、一年生くらいの子って、そんな風にすごいいっぱい考えてるんやと思う。」

───ある日おとうちゃんとふと再会するシーンがありますが、実際にも?

「あれも本当にあったこと。身内にも誰にも言ってなかったエピソード(本邦初公開だったそうで!)。急に知らんおっちゃんに言われてん、『ぼく、だいじょうぶか?』って。一瞬にしてすぐ思ってん、『あ、お父ちゃんや』と。全然知らん、関係ないおっさんやろうけども、なんかそう思ったことをよく覚えてるんです。」

おとうちゃんとふと再会するシーン

───絵本を作っているうちに子どもの頃の記憶が鮮明になっていく、そういう事ってありますか?

「描く時は、思い出して鮮明になっていったりするんですけど・・・『てんごくのおとうちゃん』なんかは、リアルな絵にして一個の話にしているから、描き終わってなんか頭ごちゃごちゃになってる。本当にあった思い出なのか、創作がだいぶ入っているのかわからんようになっている、と言うのがほんまのところあるんですよね・・・。」

本が完成してみて

─── 完成した時の感想はどうでしたか?

「ほっとしましたよ、出来て。」

─── 改めて、この絵本をどんな風に読んで欲しいというのは?

「楽しむ絵本じゃないしなぁ・・・。」

─── どんな絵本か、と言うとすると?

「子どもってこんなんやで、元気に生きていくで・・・ということかな。

長谷川義史さん 大人は自分がいなくなったらこの子は生きていけない!とか、すごい悲観したりするけど、置いてったらいいねん。どないでもなると思う。大変かもわからないけど、別にそれでやっていくんで。ごっつい幸せになること自体がそないええことなんかなと思ったり。僕みたいに物を作る人間なんかは、いろんな事が起こった方が良かったりもするでしょうしね。
かわいそうだけど、例えばそんな事になったりしてもそれは一つの運命。その子にはとって好きな人っていうのは一生続く。死んだからといって、そこで忘れるわけではない。大好きなままずっといるでしょ。全然子どもは大丈夫なんですよ。

自分に子どもが出来て、その立場になってみて特に思うんですけど、この人(お父さん)つらいやろな、子どもを残してつらいやろうな、と。子どもは「元気にやってますよ」と笑っている、何やかんやあったけど、こんな感じで笑っているんです。」

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長谷川 義史(はせがわ よしふみ)

  • 1961年、大阪府生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版) で絵本デビュー。『うえへまいりまぁす』(PHP研究所)、『やまださんちのてんきよほう』 (絵本館)、『きみたちきょうからともだちだ』(朔北社)、『おへそのあな』(BL出版)、『スモウマン』『いろはのかるた奉行』(講談社)など、ユーモアあふれる作品を発表。2003年、『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で講談社出版文化賞絵本賞、2005年に『いろはにほへと』(BL出版)で日本絵本賞を受賞。2008年に『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で日本絵本賞、小学館児童出版文化賞を受賞。


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