可愛らしい本、笑ってしまう本とはちょっと異なった趣の本をひとつ。
あるぼんやりした冬の日、つやはひとりで学校から帰ってきます。「ただいま」。部屋の中はカーテンを通した夕日でオレンジ色。
ふと、たったひとりでとうちゃんを待つつやの想いがぐんぐんオレンジ色の波に乗って広がります。「とうちゃん、まっててね。」
とても不思議な話で、最初はとうちゃんが死んでしまったのかと思ったら最後にはちゃんと「ただいま」と帰ってくる。あれ?と思ったけど、何度か読むうちに少女つやの気持ちがふと理解できる様な気がしてくる。思い出したのは、自分も小さい頃、身近な大事な人が突然すっと遠くに行ってしまう様な気がして急に涙ぐんでしまった経験。
つやはお父さんとお兄さんの3人暮らしです。おとうちゃんへの想いが強い分、ひとりでいる時にすーっと色々な感情が湧き上がってくるのでしょうか。時間と景色がそうさせたのかもしれません。
そしてその情景は帰ってきたお兄ちゃんの何も考えていない言葉と蛍光灯のひかりですぐに立ち消え、何も無かったように無邪気な少女へと立ち戻っているのです。少女の強さです。
そして、つやにとって印象的だったオレンジ色に染まった畳の部屋。そういえば、そんな情景を人はいくつも持っているのではないでしょうか。思い出してみてください。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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