広島、長崎への原爆投下は、必要だったか——
大人でも、この問いをきけばギョッとして身構えてしまいませんか?
原爆投下は正しい、あるいは仕方がない判断だったと考える人々がいて、反対にそれを、まったく邪悪で愚かなまちがいだったと考える人々がいる。
どちらも、決して少なくない意見として、この世界に存在しているのです。
主人公は、アメリカに住む15歳のメイ。
日本人の母と、アメリカ人の父をもち、四歳まで日本に暮らしていた女の子です。
彼女はひょんなことから、とあるイベントに参加することになります。
そのイベントとは、「ディベート」。
ひとつの議題についてふたつの陣営で討論して勝敗を決める、スピーチの格闘技!
そしてその議題こそ、「広島、長崎への原爆投下の是非」だったのです。
彼女が戦うことになるのは、同じく日本にルーツをもちながら原爆肯定派として舞台に立つケンや、かつての日本のおこないに特別な感情をいだいている、中国系アメリカ人のエミリー。
彼らとメイはディベートを通して、教科書では学べない歴史の意外な一面や、当時を生きた人々の生々しい心情に触れることになります——
本作であつかっているテーマは、悲惨きわまりない歴史を背景とした、非常に深刻なものです。
この作品のみどころは、そうしたテーマをディベートという競技におとしこんだことで、勝負の展開に目が離せないワクワクと、青春物語としてのさわやかで切ない味わいを楽しむことができる一冊になっているところ!
それでいて、この作品の伝えるメッセージはどこまでも厳粛です。
差別という感情が、いかに根深く人々の行動をあやつっているのか。
それぞれの文化や個々人の価値観で、歴史とはいかに解釈の異なるものなのか。
原爆投下が地球の歴史において、どれだけ深刻で決定的なできごとだったのか。
メイたちが情熱をもって語る歴史観には、その他にもかんたんには要約することのできない、多様なメッセージがふくまれています。
アメリカという文化のなかで生きる、さまざまな人種のティーンエイジャーを通して歴史を学ぶことは、原爆や戦争をあらたな角度で見つめなおす、重要なきっかけになってくれました。
本作のクライマックスに、こんな一説があります。
「一冊の本には人を動かす力があり、人を変える力もある」
この作品もまた、まさしくそういうパワーをもった一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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