この本を子どもの目の届くところに置いたことを後悔しました。
まず、内容のアップデートが必要な本だと思います。
この本は他人からのタッチを「いいタッチ」と「悪いタッチ」に分けます。
「悪いタッチ」は
誰かが胸やお腹や性器を触ってくること。
友だちのキックやパンチ。
押したりつねったり耳を引っ張ること。
やめてといってもお兄ちゃんがずっとくすぐってくること。
一方「いいタッチ」は
お母さんのだっこ。
お父さんのおんぶ。
おばあちゃんのキス(絵からは口と口とのキスに見えます)。
園のお昼寝のときに先生に背中をトントンしてもらうこと。
友だちと手をつないだり腕を組むこと。
近所のおじさんが頭をなでること。
おじいちゃんの握手。
とあります。
「悪いタッチ」については、まあ分かります。一般的に、暴力/性暴力に繋がる可能性の高い行為を「悪いタッチ」として、類型化して教えることは判断能力が充分でない子どもの身を守るために効果的だと思います。
ただ、「いいタッチ」については、読みながら正直自分自身が性被害を受けているような感覚に陥りました。
「誰々からのタッチは『いいタッチ』なんだよ。だから安心なんだよ」、と良し悪しの判断を、触れてくる「人」を基準にすることは危険です。
あくまで自分の心が嫌だと思ったら知っている人でも嫌だと言っていいんです。そういう子どもの心のセンサーを尊重して、鈍らないようにしてあげるのが大人の役目ではないでしょうか。
○○さんからのタッチなんだから悪いはずがないんだよ!と心を押さえつけられてるような気分になり...大人の私でも心がざわつきました。
もっとも、「心が変だと思ったら知ってる人でも逃げて」という趣旨のメッセージは「わるいタッチ」のページに出てきているんですよね...。それなのにその後のページで、人基準で判断するいいタッチの話が出てくるため、内容に矛盾を感じてしまいます。
それから、犬が擬人化されているのも気になりました。人の身体や性をテーマにした読み物であれば、きちんと人の形で描くことが正確な知識を伝えるためにも重要なことだと思います。それは絵本でも同じです。分かりやすく、読みやすくを意識したが故に犬が擬人化されたのかもしれませんが、かえって薄気味悪さが全面に出てしまい、逆効果ではないでしょうか。正確な知識を伝えることと読みやすさはは両立できます。
(どうして犬にしてしまったんだろうと読めば読むほど気になってしまい、「実は作者は性についてネガティブなイメージを持っていて、それを犬を使って覆い隠そうとしているのか?」と思わず勘繰ってしまうところまで思考がぶっ飛びました。違和感ありすぎて。)
言い出せばきりがないですが、
主人公であろう双子の兄妹のアミとランにプライベートゾーンのことを最初に教えるのが友だちのママで、しかもプールに遊びに連れて行ってくれたとき、という物語のはじまりの設定も受け入れ難かったです。
全く守らていない環境(不特定多数の人がいるプール)で、自分が心を預けられるほど親しいと言えない人(友だちのママ)から突如始まるプライベートゾーンと性の話。違和感ありました。
それから巻末についている大人向けの読み物のうち、「性被害を見分ける8つの質問」で
あなたはどう考えますか? ○正常な行為 △要注意 ?専門家の援助が必要
と8つのQAがありますが、「8つの質問の答え」というアンサー部分を見ると、解説のみ。あれ?○△?どこ行った?と答え合わせしにくい不親切な書き方。いや、確かに読めば分かるけど...最初に○△?で考えさせたんだから、答えもそれに対応させてよ...と思いました。
性と身体についてでしたら他にも良い本はいっぱいありますので(「だいじだいじどーこだ」、「あかちゃんがうまれるまで」等)、
他の絵本を手に取ることをおすすめします。