ガラスにほっぺをくっつけて、こちらを「じーっ」と見つめている男の子。いったい彼の視線の先には、なにがあるのでしょう?
青い空に雲を描きながら、まっすぐに飛んでいく飛行機。屋根の上でうたっている鳥の親子。あるいは、自分の手の甲に映るひかりのゆらめき……。
学校で、外で、部屋の中で、あるいは車の中で。時間を忘れて「じーっ」と何かをただ見つめ続ける男の子の顔。そしてページをめくれば、交互に登場するのが彼の見ている世界。そこには私たちが忘れていたような、かつて心を掴まれていたに違いない、小さな驚きや、きらめく瞬間がぎゅっと凝縮されたような風景があらわれます。
「じーっ」。
この言葉から思い出されるのは、日常のほんの些細な隙間の時間に訪れる、自分だけの幸福感。ああ、子どもの頃は、こんな風にただぼーっと、好きなものを好きなだけ、気が済むまで見ていられる……という感覚を持っていたんだなあと改めて思うのです。
実体験からもイメージされているという、作者の中山信一さんが絵本の中で描く景色には、気持ちのいいほどシンプルだけれど丸みのあるフォルムがあたたかく、いつまでも見ていたくなる心地良さがあります。子どもたち4人でじっと水たまりを囲んでいる様子の愛らしさといったら!
この尊い時間を決して邪魔してはいけないのだと、私たち大人は絵本を読みながら決意するのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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学校の廊下の窓にほっぺたをくっつけて、外を「じーっ」と見つめている男の子。いったいなにを見ているのでしょう? ページをめくると、視線の先では、飛行機が雲を描きながら、青空をまっすぐに飛んでいました。
この絵本では、主人公の男の子とその子が見ている世界を、交互にたどっていきます。「じーっ」と目をこらせば、いつもの風景にも、小さなおどろきや、きらっと光る瞬間がかくれていることに気づきます。
著者は、広告や装画で注目をあつめる人気イラストレーター、中山信一。
ささやかだけれど記憶にのこる、日常のピースフルなきらめきを、あたたかなタッチでとらえた一冊です。
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