「くもと めが あったことは ありますか?
わたしは いちどだけ、あります。」
そんな問いかけから始まるこの絵本。語るのは、いつも空を見上げている女の子。くもが顔をちょっと動かして、目をちょろっと私にむけたのだと言うのです。
女の子の目にうつっているのは、なんだか自分たちと姿が似ているくも。小さな水や氷のあつまりです。その表情からはあまり感情を読みとることはできません。種類は10種類。何かを考えているようにも、何も考えていないようにも見えます。
女の子は観察しながら想像します。くももおしゃべりをするのでしょうか。友だちになれるのでしょうか。くもと仲良くなれたら、きっと楽しいだろうな……。
ひたすらにくもを見つめ続けるこの絵本。作者は、独特の世界観と繊細な表現の絵本を世に送り続け、話題を集める人気絵本作家しおたにまみこさん。本作でも、まず驚かされるのは「くも」の姿。日常で見慣れているくものその下から地面に向けて人のように手足が伸び、まるで歩いているかのように移動しているのです。青空のもとでごきげんに、夕陽に照らされ少し寂しげに、そして月夜や嵐の日には神々しく。油彩で描かれたその光景には、どのページを開いても吸い込まれてしまうような迫力があります。
そして、読んでいて心地良いのは、女の子とくもの距離感。いつでもそこにいるけれど、決して手の届くところにはきてくれないくも。けれど、心がまったく通じ合っていないわけでもなさそうで。私たちは、絵本の中のくもを見ながら、好きなように気持ちを重ね、心を映しだしていくことができるのです。
子どもたちは、この絵本の世界をどのように受け取るのでしょう。不思議な魅力を放つ絵本の登場です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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