くも
- 作:
- しおたに まみこ
- 出版社:
- 偕成社
「くもと めが あったことは ありますか? わたしは いちどだけ、あります。」。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介する絵本は、『くも』。『たまごのはなし』(ブロンズ新社)、『さかなくん』(偕成社)など数々の話題作を世に送り出してきた絵本作家しおたにまみこさんの最新作、いったいどんな内容なのでしょう?
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
ひたすらにくもを見つめ続けるこの絵本。作者は、独特の世界観と繊細な表現の絵本を世に送り続け、話題を集める人気絵本作家しおたにまみこさん。本作でも、まず驚かされるのは「くも」の姿。日常で見慣れているくものその下から地面に向けて人のように手足が伸び、まるで歩いているかのように移動しているのです。
青空のもとでごきげんに、夕陽に照らされ少し寂しげに、そして月夜や嵐の日には神々しく。油彩で描かれたその光景には、どのページを開いても吸い込まれてしまうような迫力があります。
そして、読んでいて心地良いのは、女の子とくもの距離感。いつでもそこにいるけれど、決して手の届くところにはきてくれないくも。けれど、心がまったく通じ合っていないわけでもなさそうで。私たちは、絵本の中のくもを見ながら、好きなように気持ちを重ね、心を映しだしていくことができるのです。
子どもたちは、この絵本の世界をどのように受け取るのでしょう。不思議な魅力を放つ絵本の登場です。
つかみどころのない存在だけれど
「くも」というのは不思議です。見るたびに形を変え、空の色に染まり、常に移動していきます。手を伸ばせば届きそうな近さに感じることもあれば、果てしなく遠い存在のようにも感じます。言葉で説明すれば、「大気中に浮かぶ小さな水や氷の粒の集まり」ということになるけれど、やはりつかみどころのない存在なのです。しおたにさんの視点を通して描かれる「くも」は、まるで生きもののよう。気まぐれに小さな奇跡だって起こしてくれるかもしれない。そんな風に思わせてくれること自体が、この絵本を読む喜びなのかもしれませんよね。
この書籍を作った人
1987年千葉生まれ、埼玉育ち。女子美術大学工芸学科陶コース卒業。背景美術制作会社勤務を経て、絵本制作をはじめる。2014年「やねうらおばけ」で第15回ピンポイント絵本コンペ優秀賞受賞。2018年『そらからきたこいし』で絵本作家としてデビュー。同作が第11回MOE絵本屋さん大賞新人賞第2位受賞。作品に、『やねうらべやのおばけ』『さかなくん』『たまごのはなし』(ブラチスラバ世界絵本原画展金牌受賞)がある。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。