「おかあさんの パンツ」シリーズ(絵本館)や『ぴんぽーん』(アリス館)など、小さいお子さんが大好きな絵本を作り続けている、絵本作家の山岡ひかるさん。なかでも『いろいろ ごはん』や『いろいろ たまご』(くもん出版)に代表される「山岡ひかるの 食べ物絵本」シリーズは子どもたちに大人気!
まだ離乳食やミルクで、ご飯を食べられないという赤ちゃんも、おいしい食べ物の姿に思わず目が釘付けになってしまうそうです。今回はそんなに人気シリーズを陰で支えてきた歴代の編集者、宮本友紀子さん、山田陽子さん、島ア菜々さんにお話を伺いました。
●原画はすべて、はり絵を使って描かれています。
───山岡ひかるさんの絵本の中でも、この「食べ物絵本」シリーズは特に人気が高いと思います。
どのような経緯で、この本の出版は決まったのでしょうか?
宮本:もともと、このシリーズは別の編集者が山岡さんと話を進めていたんです。私がくもん出版に入社したのは今から約10年前。入ってすぐに担当したのが、『いろいろ たまご』と『いろいろ ごはん』でした。
───宮本さんが見たときには、すでに絵本の制作がスタートしていたのですか?
宮本:そうです。前任者は山岡さんに「食べ物をテーマに絵本を作ってほしい」とお願いして、二人で作品を作っていたそうで、私が担当したときは、すでに原案ができあがっていました。
───『いろいろ たまご』はシリーズの中でも、たまごが卵焼きや卵かけごはんなど、いろいろな料理に姿を変える作品。いわば「食べ物絵本シリーズ」の基本となるような作品だと思います。
この最初の本に編集者として関わる上で大変だったことはありますか?
宮本:『いろいろ たまご』に多く登場する黄色やオレンジ色が、印刷では再現しにくい色と言われているんです。その中でも、料理に合わせて、微妙な色の差が出るように、カラーチャートのようなものを作って、印刷会社さんと共有したり、色を確認するときにチェックしたりしました。
───「スープ」「オムレツ」「目玉焼き」……。たまごの焼き加減や調理方法によっても、色が微妙に変わっているんですね。
宮本:そうなんです。ちょっと火が通りすぎていたり、色が濁っていたりすると美味しさも半減してしまいますから、色の出し方には、山岡さんも私たち編集者も、とても気を使っています。
───どのページにも美味しそうな食べ物たちが登場しますが、この絵は何を使って描かれているのでしょうか?
宮本:実はすべてはり絵で作られているんです。
───え?! 絵の具で描いているのではなく、はり絵で制作されているのですか?
宮本:はい。細かい所まですべてはり絵で制作されているんです。
以前、本屋さんにお届けしていたフリーペーパーの中で、山岡さんの制作風景を紹介させていただいたことがあるのですが、カッターや固形のりなど、文房具屋さんで手軽に手に入るようなシンプルな道具ばかりで、ビックリしました。
───たまごスープのふわふわした感じや、卵焼きの焼き加減など、すべて紙を使って作られているなんて信じられないです。
宮本:いろいろな種類の色紙や特殊紙を使っていますが、市販されている紙で希望する色や質感がないときは、紙をもんだり、繊維を重ねたり、ご自身で染めたりと手をかけているそうです。
私が担当していた中で特に目を奪われたのが、『いろいろ ごはん』のおちゃづけにのっているたらこ。一粒一粒、切りぬかれた色紙を貼り合わせてあって、しかも中心部分に行くほど、微妙に色が変わってくる……。こんなに細かい作業を毎回されているんだ……と感動しました。
───制作中、山岡さんから編集者の方へ相談があったり、編集者が何かお手伝いをすることはあるのですか?
宮本:山岡さんはラフのやり取りのときも、ギリギリまでご自分の中で案を練ってから編集者に見せてくださるので、私たちがラフをいただくときは、かなり完成に近い形でいただくことが多いですね。
───おはなしの案を考えているときも、制作をされているときも、ほぼおひとりで作業されているなんて、すごいです。
『いろいろ たまご』『いろいろ ごはん』が出版されたとき、読者の反応はいかがでしたか?
宮本:大変大きな反響をいただきました。ちょうど「食育」に注目が集まり始めていた時期だったこともあると思います。それと、赤ちゃんを対象とした食べ物の絵本の中で、『いろいろ たまご』のように、調理の過程を表現したものはなかったので、その点でも、新しいと感じていただけたのだと思います。
───たしかに、食べ物が進んで料理されて、美味しいものに変わる様子は新鮮でした。登場するキャラクターたちも、親しさを感じるようなかわいい顔ばかりですよね。シンプルな線で描かれているのですが、どれも個性があるように思いました。
宮本:このたまごや、ごはんたちが、きょうだいなのか、仲良しのお友達なのか、どこにも描いてありません。読者のみなさんにいろいろ想像を膨らませて楽しんでいただきたいと思います。
───素材それぞれの表情に個性があるのですが、おにぎりになったり、海苔巻きになったりと、調理される前と後の姿がふしぎと納得できる料理に変わっているのも、考えられているなぁと思いました。
宮本:『いろいろ ごはん』では、長いまつげの女の子のごはんが、ピンクのでんぶをあしらった海苔巻きになったり。ほかにも『いろいろ たまご』のたまごスープも、立派な鼻をした男の子のたまごが、ほわわーんとランプの精のようなかき卵に変身します。このあたりのアイディアは山岡さんならではだと思います。
───本当に、何度見ても楽しめる絵本ですね。