- ピンクとスノーじいさん
- 作:村上 康成
- 出版社:徳間書店
●ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞 ヤマメのピンクが迎える初めての冬。それは、動物も魚もおなかをすかせる厳しい季節だった。ある日、イタチに襲われたピンクを助けようと、大イワナのスノーじいさんは…。暗くて寒い冬から、光あふれる春への場面展開が感動的な絵本です。
───そういう編集者とのやり取りで、特に印象に残っているページはありますか?
2時間バトルしたのは、2作目の『ピンクとスノーじいさん』。スノーじいさんが手前にいて、上からイタチが顔を出してピンクを食べようとしているシーン。3匹を同じ構図に収めるなんて、そんな難しいシーン描けないよ…って。でも最終的にはこの構図に落ちつけて、良かったと思ったね。
───『ピンクとスノーじいさん』は、春に生まれたピンクが夏を過ごして、厳しい冬を迎えるお話ですが、1作目を描いたときに2作目の構想はあったんですか?
全くなかったね。1作目で完結したと思っていたら、編集者から「夏もあれば冬もあるよね」と言われて続編が決まりました。この作品には映画的な手法を多く入れたんだよね。スノーじいさんの白い斑点が次のページでバックの雪になる。しめしめと思ったね(笑)。
───非常にグラフィック的な描き方ですよね。村上さんはこの作品でボローニャ国際児童図書展のグラフィック賞を受賞されています。受賞の連絡を受けたときはどう思いましたか?
『ピンクとスノーじいさん』は白をどこまで表現できるか…ということをチャレンジした作品で、前作は水色にしていた川の色を、冬の冷たさを表現するためにあえて白にしたり、雪や背景もモノトーンを意識して描いた。ボローニャでも「白が素晴らしい絵本」と評価されて、すごい嬉しかった。でも一番嬉しかったのは、日本のヤマメが世界に認められたってこと。「やった!ヤマメ、メジャーになったぞ!」って(笑)。
───3作目『ピンク!パール!』ですが、魚に詳しくない私は、表紙を見て、「あれ?主人公が変わった…?」と思いました(笑)。ピンクが海に下って、サクラマスになると見た目もすごく変わるんですね。この作品は一見、今までと同じ自然の厳しさを伝えているように思ったんですが、痛烈な批判が込められていますよね。
この作品は長良川河口堰のダム反対の絵本として作ったんです。でも、ダム反対のために絵本を作るのは釈然としなかったんで、ダムを飛び越えてしまう自然の強さを絵本に込めた。横長の絵本で、飛び越える場面をどうやって描こうか考えて、縦に構図を変えてダムの高さを出した。2匹が飛んでからは、2匹の位置を動かさずに背景をどんどん下に下げていく描き方で、縦に描いたダムの高さを乗り越えていく。読者が2匹に乗り移る気持ちになってもらいたかったので、文字もなくした構成にしたんだ。
───最後のページもそうですが、見返しにいるサクラマスの稚魚を見たとき、すごくホッとしました。文章では「子どもが この川で およぎまわります。」と描いてあるんですけど、絵で生まれた子どもの姿を見て改めて実感した気がしました。そして4作目の『ピンクのいる山』。3部作を読んで4作目を読むと、「あ、日常だ」という安心と感動がありました。
僕が人間として、自然とどう折り合いをつけていけば良いだろう…ということを描きたくなって描いたのがこの『ピンクのいる山』。自然と人間の視点を、俯瞰にして描いてみせることで、人も動物も自然も一緒なんだよということを伝えたかった。
───『ピンク!パール!』が出てから、『ピンクのいる山』が出版されるまでに10年近く間が空いていますよね。
その間にいろんな作品を出すことができたけれど、またヤマメを描きたくなったんだよね。定期的にヤマメは描いていかないとつまらない。自分の中では「スター・ウォーズ」じゃないけれど、「エピソード1」なイメージだった。4作描いて、一応僕の中で「ヤマメと自然」、「ヤマメと人間」そして「人間と自然」の結論をつけた形です。
───村上さんの自然を扱った作品は、直接的に「自然を大切にしよう」とは言わないところも特徴だと感じました。
僕が絵本で森や魚、自然を描き続けているのは、ただ純粋に、こんなにも愛おしいものがあることを表現したいから。すぐ身近にあるすばらしい自然の存在を、知識や理論で説明をするんじゃなくて、子ども達には自然を見たり触ったり感じたり、自然の中で泥だらけになって遊んでほしい、そういうきっかけになってもらえるものを作りたいと思って、絵本を作っているんです。
●『のらいぬ』との出会いが絵本作家を目指したきっかけ。
───今年、絵本作家デビュー30周年ということですが、村上さんが絵本作家を目指そうと思ったきっかけはなんですか?
僕は中高と野球少年で、高校2年生のときはキャプテンでした。しかも、ロン毛のキャッチャーだったんだよ。県大会で決勝まで行ったんだけど、僕が暴投してサヨナラ負けをしたんだ。すごく悔しくて、仲間は何も言わなかったけど、ずっと引きずっていた。それが引退試合だったからね。野球部を終えたら、次は進路に向けて本格的に考えなきゃいけない時期がくる。僕は野球と同じくらいドキドキワクワクすることって何だろう…と考えたとき、思い至ったのが絵だったんだ。絵で生計を立てるのは大変だって分かっていたけど、賭けてみたい気持ちがメラメラと湧いて、引退した次の日には美術部に入ってた。
───野球部から美術部へ…すごく意外な展開ですね。
───それが絵本作家になろうと思ったきっかけですね。
───ヤマメを追って川に行ったり、野球に青春をかけたりするアクティブな姿と、絵本を描く作業は真逆の感じがするのですが、村上さんの中では共通項があるんでしょうか。
自然にしろ、絵本にしろ原点にあるものは「わぁ、きれい!」と思えるエネルギー。そのエネルギーをストレートに表現することが僕にとって重要で、子ども達に伝えたいこと。一輪の花をどれだけ愛でられるかに近い感覚だね。大好きだから、その思いが絵を描く力になる。