スイミングからの帰り道、海の近くの町に住んでいる「ぼく」が出会ったのは、まわりにぼんやりとした丸いものを漂わせた、ちょっとへんな子。 手渡された丸いものをつかむと――ぷにんとへこみ、ぷわんとおしかえしてきた。
「くらげなんだ」
手をひらくと、くらげはゆっくりうかんでいき、ぼくのまわりをとんだ。まるで、海のなかにいるみたい。
それからすぐ、このくらげをお店でよく見かけるようになった。商品の名前は「クラゲスケール」とか「クラゲメーター」とかいろいろな名前で呼ばれている。そのうち「クラゲスケール」はとても人気が出て、町では、子どもも大人も「くらげ」を連れて歩くようになる。なにかいいことをした日の夜には、くらげのハートの部分がこはく色にぼんやり光るらしく、それも人気のひみつのようだ。
その後も、ぼくが「くらげくん」と呼ぶようになったその子は、雨を吸い込む「くらげのかさ」や、空に浮かぶ「くらげ雲」など、いろいろなくらげを研究しては発明品を生み出し、ぼくのまわりにある暮らしを明るくしたり、楽しくしたり、救ったりするのだった。
著者は「うさぎとハリネズミ」シリーズで愛される、はらまさかずさん。作品全体を包むやさしく穏やかな空気感はそのままに、「くらげくん」の不思議な存在感と、ぼくとの特別な友情をちょっと切なさも交えながら、描き出します。また、さまざまなくらげや、くらげから生み出される発明品を魅力いっぱいに描くそねぽんさんの挿絵もお話にマッチしていて、一気に物語の世界へと誘ってくれます。
ページを開けばすぐに、ふわふわとくらげが漂う光景や、弾力のある感触、「ぽにょん、ぽわん、ぽにん」という音の楽しさに包まれ、五感全体に心地良さが沁みわたってきます。そんな物語世界の中で、時折はっとさせられる、ぼくの気づきや、くらげくんが発する言葉。それらは暗闇でぽっと光るくらげのように、読む人の心をそっと照らし、生きることを優しく励ましてくれるようです。
この夏はもちろん、これからもずっと、たくさんの子どもたちと大人の方に届けたい一冊。お話の心地良さにゆったりと身をまかせながら、ぼくとくらげくんの特別な夏の時間を一緒に体験してみませんか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
続きを読む