「すこやかな心をはぐくむ絵本」シリーズなど、子どもたちの心に寄り添う絵本の出版を続ける、廣済堂あかつき。2016年12月、新たに「ことばのひろば」シリーズがスタートしました。今から37年前、1979年に1年間刊行された幼児向け月刊誌「ことばのほん」の中に収められていた作品を単行本化していくそうです。今回、シリーズ創刊を記念して、当時の編集を担当された絵本作家の西内ミナミさんと編集者の本多慶子さんにインタビューを行いました。西内ミナミさんの代表作といえば、『ぐるんぱのようちえん』(絵:堀内誠一、出版社:福音館書店)。そして、その編集を担当したのが本多慶子さん。お二人が「ことばのほん」に関わることになったきっかけから、新たに刊行される「ことばのひろば」シリーズへの思いまで、いろいろなお話をうかがいました。
●37年の時を経て、幻の絵本シリーズ、創刊!
───「ことばのひろば」シリーズの創刊、おめでとうございます。記念すべき1冊目は、せなけいこさんの『は・は・は』。「は」という言葉が文章の頭に必ずついていて、それがとてもおもしろいおはなしになっていることに驚きました。
西内:この作品は、今から37年前、廣済堂あかつきの前身である「暁教育図書」が刊行した「ことばのほん」という月刊誌に収録されていた作品を、単行本にした絵本なんです。
───37年も前の古さをまったく感じなさせない、今の子どもたちにも十分楽しめる作品ですね。
西内:この本を作ったとき、せなさんは40代、絵本作家として脂がのっていた時期だったの。『は・は・は』はことばの面白さが際立っているでしょう。
───「はちじゅうはちえん もって でかけたが はぶらし かわずに はちみつ かって……」という風に、「は」が頭につくことばが続いているのが面白いですし、それがこんなにナンセンスで愉快なストーリーになっていることにも驚きました。
本多:私は福音館書店の編集者時代、せなさんの「いやだいやだのえほん」シリーズを編集したのですが、その当時からナンセンスを描くのがとても上手な方でね。どうしてかな……と思って聞いたら、せなさんは子どものころ、とても良質なことばの体験をしていたの。それが、絵本にも自然に出ているのだなあと思ったものです。
───以前、せなけいこさんに取材をさせていただいたとき、子どもの頃のお話をうかがったのですが、たしかお父さんがとても本好きで、家に本がたくさんあったんですよね。
本多:それに、せなさんのご主人は落語家さんでしょう。せなさんご自身も、落語をたくさん聞いていたとおっしゃっていたから、この『は・は・は』にもちゃんとオチがあるんです。そういうところが上手ですよね。
───作品も、せなさんならではの切り絵を使って制作されていて、表紙を見ただけで「あ、『ねないこだれだ』の絵の人だ!」と手に取る子どもたちも多いと思います。はちみつを「ぱん」だけでなく、「はむえっぐ」にもかけてしまい、「むしば」になってしまう「はなちゃん」。「は」だけでなく、「ぱ」や「ば」も自然と出てくるところが、ことばを知る本としてとても良いと思いました。この、「ことばのほん」シリーズの絵本をせなさんにお願いしたときのことは覚えていらっしゃいますか?
西内:とにかく、当時はとても慌ただしくてね。なにせ急に依頼されて、60ページもある「ことばのほん」を毎月読者に届けなければならなかったから、私の知っている絵本作家仲間と、本多さんの知っている絵本作家仲間、いろいろな方に声をかけて、お願いしたんですよ。せなさんはおはなしも面白いし、何しろ仕事が早い方だから、とてもありがたかったんです。
本多:「ことばのほん」を作っているとき、私たちは最初から作品を雑誌だけで終わらせる気持ちはなくて、いつかハードカバーの絵本の形で書店に並べたいなと思って作っていました。「ことばのほん」に掲載した作品の中には、すでに絵本になっているものがいくつかあります。でも、今回の『は・は・は』のような巻末に付けた豆本で単行本になったものはなかったので、「ことばのひろば」シリーズで再び皆さんにお届けできることは本当に光栄なことだと思っています。
掲載されていたページを自ら製本した西内さん所蔵の豆本たち
───豆本には和歌山静子さんや土田義晴さんなど、そうそうたるメンバーが登場しています。「ことばのひろば」シリーズの1冊目を、せなさんの『は・は・は』にしようと思ったのはなぜですか?
西内:「ことばのほん」の1号目に掲載されていた作品から順番通りに出版することも、もちろん考えました。でも、今年、せなさんの自伝『ねないこはわたし』(文藝春秋)が出版されて、とても注目を集めていたので、シリーズをスタートさせる作品として、せなさんの作品を一番に出版するのが良いと思いました。
本多:ただ、作品の原画がせなさんのお宅にも、廣済堂あかつきの倉庫にもどこにもなくて、しかも、フィルム(※)もすでになくなってしまっていたので、当時のきれいな状態で皆さんにお届けできるか、とても心配していたんですよ。
※フィルム……紙に印刷する工程で用いるもの。
───え? 原画もフィルムもないのに、どうやって本の形に再現できたのですか?
本多:この作品が掲載されている「ことばのほん3」から、作品が載っているページをスキャニングして、デジタル処理を施したんです。でも、掲載されていたとき、この本は「豆本」と呼ばれる小さいサイズだったので、大きいサイズに拡大できるのか、企画を聞いたときはとても心配しました。
───手のひらサイズの豆本が、大きいサイズになるなんて、実物を見ないと分かりませんね。
西内:本当に今の印刷技術はすごいですよね。それと、この本のデザインを担当してくださった、熊谷博人さん。彼がデータを丁寧に修正してくれて、当時の色彩を引き出してくださいました。
本多:熊谷さんは「ことばのほん」のときもデザイナーとして関わってくれたんです。今回、「ことばのひろば」が企画されたとき、真っ先に熊谷さんに電話して、デザインをしてくれないかとお願いしました。熊谷さんの素晴らしいデザインがなければ、この絵本は完成しなかったと思います。 絵本のタイトルが『は・は・は』になっているでしょう。豆本のときは「はのはなし」だったのですが、変更したんです。