カナガキ:朝起きて、ご飯を食べて、園に行って帰ってくる…というスケジュールで流れていくと、1日にこんなに叱っているのか…と浮き彫りになりますね。
宮西:難しかったのは、園から帰ってきたところですね。園にいる間の時間が経っているから、「そして「ただいまー!」って かえった ときも」と言葉を入れます。そうすると、どうしてもちょっとリズムが狂うんです。でも、前半と後半に分ける意味でも、少しリズムを狂わせておいたほうがリセットするかなと思って、あえて入れました。あと、右側に否定的な言葉を入れて、ページをめくると答えが来るというページの使い方にもこだわりました。

カナガキ:この部分、否定的なページは青や緑の少しさびしい色で、ページをめくるとパッと明るい色になる。変化が読んでいて気持ちいいですよね。
宮西:はい。ぼくの絵本はバックの色も気持ちを表すために使っていることが多いです。
カナガキ:なるほど!そういう細かいところにもかなりこだわって作られているんですね。 今回、文章が全部、手描き風の文字なのもこだわりなのでしょうか?
宮西:否定的な言葉が冷たく感じすぎないように、描き文字にしました。担当編集者さんからは「大変だから、「おかあさん だいすきだよ」の部分だけで良いですよ」と言われたのですが、ぼくは「描きます!」と。……宣言してから大変後悔しました(笑)。

カナガキ:でも、その心遣いがあったからこそ、否定的な部分も冷たくなりすぎずに温かさを感じられるような気がします。個人的に気になったのですが、男の子が出ているテレビのキャラクター。これ、宮西さんの考えたゆるキャラですよね。
宮西:そうです。ぼくの地元、静岡県駿東郡清水町のゆるキャラ「ゆうすいくん」です。柿田川湧水で生まれた、美しい心で愛と平和と笑顔のために戦うヒーローです。今度、ゆうすいくんを主人公にした絵本も出る予定なんですよ。
●宮西達也VSカナガキ事務局長 悪ガキ対決?
カナガキ:今回、せっかく母と息子の絵本なので、宮西さんの子ども時代のおはなしも、ぜひ、伺いたいのですが。やっぱり、お母さんには「はやくしなさい!」って言われたりしていましたか?
宮西:ぼくは子どもの頃、かなりのいたずら坊主だったので、子どもがよくやるいたずらは、ありとあらゆるものをやりつくしました。
カナガキ:例えば…「ピンポンダッシュ(※他人の家屋の呼び鈴を鳴らして逃げるいたずら)」とか?
宮西:ピンポンダッシュなんてもう、朝飯前というか、夜でもやってました(笑)。
カナガキ:ラクガキは…?

宮西:ラクガキがあったから、ぼくは絵本作家になったんですよ(笑)!
これは、講演会でも話すエピソードなんですが、あるとき、ぼくがいなくなって、「たっちゃんがいない!たっちゃんたいない!」って、隣近所みんなで探したんだけど、見つからない。夜になっても出てこないから、とうとうお袋が泣きながら「警察に連絡します…」って言ったときに、「お母さん!」って、道路の側溝から出てきたんですよ。
カナガキ:道路の側溝…何をしていたんですか?
宮西:側溝をモグラのように這って移動するのが面白かったんですね。あと、近所にあった某お菓子会社の工場に入り込んで、中身の入っているアイスキャンディーの袋を握りつぶして遊んだり…。熱海に住んでいたときは、ホテルの池にいる鯉を竹やりで突いたり…。
カナガキ:それは、かなりのいたずら坊主ですね…(笑)。お母さんはそれを見て叱るんですか?
宮西:もちろん、しょっちゅうお尻を叩かれていました。熱海界隈で「西山(※)の達ちゃん」って言ったら知らない人はいないくらい、有名人でした。 (※西山=静岡県熱海市西山町)
カナガキ:ぼくも、石屋さんに売っている石を、徒党を組んで川に投げ込んで遊ぶような悪ガキでしたが…。宮西さんに比べたら、可愛いもんですね。
宮西:いやいや!それは悪いですよ。集団でやっているんですから(笑)。
カナガキ:でもぼく、そういうのは男子たるゆえんだと思うんですよね。
宮西:そうなんです。こんないたずら坊主だったからぼく、大概の子のいたずらなんて、可愛いと思うんですよ。「なんでお母さんはこんなに叱るんだろう…」って。
子どもだから、楽しいから、「へへへ…」ってやっちゃう。ダメだって言われても分からないし、分かっててもやりたいじゃないですか。そういう子どもの気持ちがすごくよく分かるんです。

カナガキ:うちは娘なので、女の子からすると、男子がなんであんなに馬鹿なことをするのか不思議でしょうがないらしいんですよね。最近はそれを説明するのが楽しいんです。 宮西さんのお父さんはどんな方でしたか?
宮西:うちの親父は、年に2回くらいしか怒らない人でしたね。ぼく、親父に殴られたことは1回しかないです。小学校6年生のときに。後にも先にも1回だけだったけど、すごく嬉しかったのを覚えています。そんな親父のことを描いたのが『おとうさんはウルトラマン』なんです。
カナガキ:そうなんですか。『おとうさんはウルトラマン』は、宮西さんとお子さんのエピソードだと思っていました。
宮西:よく言われるんですけど、違うんですよ。あのウルトラマンの子が、ぼくやぼくの弟なんですよ。
カナガキ:宮西さん自身は、どんなタイプのお父さんですか?
宮西:親父に似たのか、ぼくもあんまり怒ることが少なかったと思います。ぼく自身、さっきお話したようないたずら坊主だったので、それと比べたらどこを怒る必要があるんだって(笑)。
カナガキ:『おかあさん だいすきだよ』には、お父さんが出てこないから、逆に想像してしまうんですよね。絵本の中には出てきませんが、テーブルの向こう側とか、テレビのこっち側とかにお父さんがいるはずじゃないですか。それとも、帰宅が遅いのか。どんな表情をしていて、どんな言葉をかけるんだろう…と。
宮西:そうやって想像してもらうのも面白いですよね。お母さんが子どもをつい強く叱ってしまうのには、お母さんだけの問題ではなくて、お父さんの関わり方も大きく影響しますよね。例えば、お父さんが家庭やお母さんに無関心とか、「ありがとう」の言葉がない…とか、もちろんその反対かもしれませんが…。
カナガキ:ネガティブな感情は連鎖しますものね。今の時代、子どももそうだけど、大人も褒めてもらうことが少なくなったように感じるんです。お母さんがお父さんに褒められない背景には、上司に褒められないお父さん、社長に褒められない上司、奥さんに褒められない社長さん…そういう根深い連鎖があるんじゃないか…と。

宮西:次は、そういう連鎖を断ち切るような絵本を描きたいと思います(笑)。お父さんとお母さんが一緒に読んで、「ごめんなさい、ありがとう」って感謝しあうような絵本を。
カナガキ:いいですね!すごく楽しみです。