●絵本アイディアを考えるのは、電車の中?
───『佐々木マキ アナーキーなナンセンス詩人』には、巻末に11ページにも渡るロングインタビューが載っています。とても面白く読んだのですが、物語を考えるとき、いつも電車に乗っていると書いてあってビックリしました。
物語といっても絵本のアイディアですよ。だいたいいつも、近鉄の奈良方面に行く各駅停車に乗って考えます。平日の午後のあまり人が乗っていない時間に乗るのが良いんです。電車のリズムが、ぼくの場合ですけど、すごく考えやすいんです。
───マンガのときからそういう方法を取っていたんですか?
マンガのときは描きたいことがいっぱいあって、そこまで絞り出さなくてもすぐに出てきましたから(笑)。絵本も、特に締め切りの決まっていない、出す当てのない作品のラストまで考えておきたいときに電車に乗ることが多いです。
───何時間も乗っているんですか?
いえいえ、割と早くできるときはすぐに電車を降りて帰ってきます。でも、終点まで行ってもできないときはまた日を改めるんです。絵本は、パッと浮かぶものもありますが、何回もいろいろ考えて、プロセスを経て最終的な作品になるので。そのプロセスを考える場所が、ぼくの場合、電車の中なんです。
───インタビューの中で「作品を描くときに気を付けていること」として、「アイディアを形にするタイミングを間違えないこと」と言っていますね。
「思いついたときにすぐに使った方がいいもの」と「何年も寝かさないと使いものにならないもの」ですね。
───『あんたがサンタ?』(絵本館)と『はぐ』(福音館書店)を例に挙げていらっしゃって、なるほど〜と思いました。
『あんたがサンタ?』はクリスマスに出さなければいけない季節商品ですから、8月には描き上げなければならなかったんです、なので、電車に乗って、いろいろなサンタのアイディアを出しました。あの絵本に描いてある倍以上の案を出して、そこから厳選していったんです。
───『はぐ』は反対に、寝かせた作品なんですね。
そうなんです。『はぐ』の設定はかなり前から考えていたんですが、ぼくは「ハグ」という言葉を使いたかった。でも、当時はまだ「ハグ」という言葉が知られていなかったから、ずっとためらっていたんです。2010年に、南米のチリで落盤事故が起きたとき、新聞の記事に助けられた方とその家族の方が抱き合っている写真が乗っていて、「家族でハグ」と書いてあった。それを見たとき、新聞でも使われるくらいだから「ハグ」が一般的に使われているなと思い、『はぐ』を出そうと決めました。
───ハグしあう人たちの組み合わせが絶妙で、ワニとペンギンとか、一瞬ドキドキしたりするのが楽しい作品ですね。この組み合わせもやっぱり……。
電車で考えました(笑)。手帳に動物の名前を書いていって、どれとどれが抱き合えば意外性があって、絵的にも面白いかなというのを考えました。この「はぐ」の文字のデザインは、ふたつの体が密着した時に、間にあった空気がわっと飛び散るようなイメージで描いています。文字の色もカーマインレッドとオレンジを混ぜてぬっているんです。
───二色が絶妙に混ざり合って、「ハグ」しているんですね。インタビューの最後に、新作の絵本のおはなしも出ていました。そのときの絵本『へろへろおじさん』が2014年に発売されていて、この『佐々木マキ アナーキーなナンセンス詩人』で制作秘話を伺えて得した気持ちになりました。ぜひ、このインタビューでも、今制作している絵本について教えていただきたいのですが……。
あまり詳しくは言えないのですが、『はぐ』にも登場したワニが出てくる絵本を今、作っています。順調にいけば秋前には出版されると思います。ワニは主人公ではなく脇役なのですが、ぼくはワニが好きなんですよ。どんなところで出てくるか、ぜひ読んでいただければ嬉しいです。
───ありがとうございます。新作、楽しみにしています!

インタビュー・文: 木村春子
撮影:所靖子