
パートナーは大事ですよ。
───タイトルもすごく印象的ですね。ぜんぶひらがなで「ぼーると ぼくと くも」。
加藤:5転6転したんです。元祖が「たのしいふうせん」、「くもぼーる」、それから途中で、「ふわふわ、ぎっと」になりました。
絵本の文章で、自転車で坂道を下りるときに、男の子がぼーるをつかんでいる擬音がはじめ「ぎっと」だったんです。「ぎっとつかんで」って。
編集・K:わたしはそのことばがすごくいいなと思ったんです。
「ぎっと」ということばが、小さい男の子がゴムボールを一生懸命抱きしめていて、落ちちゃうかもしれないドキドキ感も含めて、思いが伝わってくる表現だなと感じました。でも一般の人の受ける「ぎっと」という言葉のイメージがわからないので、結局やめることにしました。
加藤:試行錯誤して、「ぼーるとぼく、そらにうかんだ」のように、「ぼーるとぼく」というフレーズが、文章のなかに繰り返し出てくるので、「あ、『ぼーるとぼくと、くも』でいいんじゃない?と、最終的にスッと落ち着きました。
───文字の並びも印象に残りますね。表紙も目をひきます。
編集・K:表紙のタイトルの文字は、今回デザインをお願いした、絵本デザイナーで装丁家の羽島一希さんの手描きの文字なんです。
───羽島一希さんは、たくさんの絵本デザインを手がけている方ですが、加藤さんとは長く交友があるそうですね。
編集・K:はい。デザインは加藤さんをよく知っている羽島さんにお願いしました。今回、加藤休ミという作家を分かっている人だけで、絵本を作ったらどうなるんだろうという興味もありました。
加藤:タイトル文字は私の描き文字のクセが生かされたデザインなんですよ! 「ぼ」の文字のラインが、私が筆で書いた後にクレヨンでなぞるといつもそうなる形になっていて、感動しました。
編集・K:今回は文字も全部写植で組んでいて、こだわっています。羽島さんが、原画を見た瞬間、写植でやりたいと言ってくれて。最後の最後で修正が出て、写植を組みなおしてもらったり大変だったけれど、羽島さんだからこそ最終的にさらに良くなったのだと思います。
加藤:今回は、だいぶ関わってくれた周りの人たちに自分の素材を料理してもらった感じです。絵本はひとりじゃ作れないものだなあと改めて実感しました。ありがたいです。
───加藤さんと、加藤休ミさんを好きな人たちの力が集結してできた絵本なんですね。
編集・K:私ははじめて絵本の編集者として関わりましたが、作家・加藤休ミがマックスで輝くものを出したいという思いだけで頑張りました。私たちが作ったわけじゃなくて、やっぱり加藤さんが作った本ですから。
でも、加藤さんの新しい一面を出せたことは、一緒に仕事をした意味があったと思っています。私は、売り手としていつも彼女のもっと面白い面が見たいと待ち構えている側なので。
加藤:本当にどの編集者さんとどのタイミングで本を作るかって大事ですね。今回は、Kさんとの関係性がとても大きかったです。「あれ、違ったんだけど、いまさら言いづらい…」みたいな関係じゃなくて。「昨日のあれさ」って言える関係だったから、今この作品を出そうかなって思えたんだと思います。パートナーは大事ですよ。
あ、これ記事のタイトルにぴったりですね、「パートナーは大事ですよ。」(笑)。
───今日は二人のお話を伺って、本当にそう感じました。最後にメッセージをお願いします。
加藤:この本読んでから、飛行機の窓から雲見たら楽しいですよ。飛行機の機内本としてもおすすめです!
───ありがとうございました!
■ 加藤休ミさんがパーソナリティーを勤める「えほんラジオ」配信中!
背表紙にも、小さな小さなぼーるとぼくが!
[ らいおんbooksってどんなレーベル? Kさんに伺いました! ]
ロゴは、絵本作家スズキコージさん作
───今まで書店員さんとしてお仕事されてきたKさんですが、今回らいおんbooksの編集者として絵本と関わって、いかがでしたか?
編集・K:私は本を売ることに関してはエキスパートなので、例えばこの本100冊売ってくださいと言われたらちゃんと売ります。でも作るということに関しては全くのゼロでした。
ただ、らいおんbooksは、11年前に絵本情報のフリーペーパーとして始まったのですが、絵本にも、舞台や音楽のようなライブ感があって、それを売り場から発信していきたいという思いが、根底にずっとありました。そのための方法が今回は編集という形になっただけなのかなと思っています。私は、売ることも表現方法のひとつだと思っているので、同じ表現方法と捉えれば、そんなに違いがないかもしれません。そう思わないと、プレッシャーでやっていられないのですが(笑)。
───らいおんbooksは、どうやって誕生したのですか?
編集・K:私たち4人のメンバーは、以前からずっと、枠組みに捉われないで、もっと業界の人が横に手をつなげたらいいよね、という話をしていました。出版社や会社の事情もあるけれど、売れる本だけでなく一生懸命作られた本をもっと売りたい! 私たちだけでもいいから、既成の枠組みをとっぱらって、毎日文化祭みたいにやればいいじゃないって活動し始めたのがもともとのはじまりです。好きなことを、好きな人と、好きなようにやっている感じです(笑)。
───企画から販売まで、メンバーの方はそれぞれどのように分担して活動されているのでしょうか?
編集・K:どうやって本を世に出していこうかと考えたときに、作る人も必要だし、描く人も必要だし売る人も必要ですよね。そこを、みんなが役割を決めずに、らいおんbooks+作家さんというチームで、ひとつの絵本を売っていきたいというのがもともとの理念です。そこに賛同していただけて、本を作れているのがありがたいです。
───らいおんbooksの今後の出版予定・活動予定について教えてください。
編集・K:第1弾『こびん』(作:松田奈那子)、第2弾『ぼーると ぼくと くも』に続いて、現在4作品の発行が決まっていますが、今後も子どもの本に関わることをやっていきます。フリーペーパーから始まって、絵本を作って、もしかしたらこの先、本じゃないこともやるかもしれないですしね(笑)。難しく考えないで、みんなが好きなことをやってもいいんだって感じてもらえたらそれが1番です。楽しいことしよう!

- ぼーると ぼくと くも
- 作:加藤 休ミ
- 出版社:風濤社
クレヨン画家・加藤休ミが描く、のびやかな雲の世界。 「こんなに おっきな ぼーる みつけちゃった」 あかくて おっきな ぼーるを みつけた おとこのこ。 ところが さかみちを おりているときに かぜのいきおいで ぼーるが!!! ぼーるとぼく そらにうかんじゃった……。 次々形を変えていく雲とのごっこ遊びを、 くたくたになるまで楽しんで。
インタビュー・文 : 掛川 晶子(絵本ナビ編集部)