●お母さんが追いつめられないでほしい
───実際にさいとうしのぶさんが描くラフ画を見たとき、どう思われましたか?
伊東:びっくりしましたよね。こんなに素敵になるなんて思ってもみませんでした。「子どもがわーっと遊んでて、仲間に入れない〜という感じの場面にしてください」とか、もうこんなおしゃべりレベルのお願いで…。ラフを見たら、「わあ、すごい! さいとうしのぶの世界!」という感じで、感激でした。
さいとう:園長先生に「さいとうさん絵を描いてくれるう〜?」と言われて「いいですよ〜」と答えたら、じつは絵じゃなくて絵本やったんですよ(笑)。 でも描くたびに伊東先生が褒めてくれるので、もう嬉しくなっちゃって、全然苦労なく描けちゃったんです。定期的に、パソコンにとりこんで、「みんいく」や園の集まりのときに、プロジェクターで大きく映し出してみなさんに発表してくださるので。私も客観的に見ながら、ああ、あそこはもうちょっとああしたほうがいいなあ、とか、見られたので進めやすかったです。
───モデルになっている先生がいらっしゃるんですか?
さいとう:先生みなさんがモデルになっています。こちらの幼稚園は、受け入れてくださるベテランの先生方が本当にあたたかくて素敵で。息子も以前こちらでお世話になっていたんですよ。園の様子は、私も子どもを通わせているときに、実際に見せてもらっていましたし、「おはようございます」と登園するといつも笑顔で子どもたちひとりひとりに声をかけてくださるんですよねえ。その先生たちの姿を最後の場面にどうしても入れたくて、ちょっと文字も絵も多くてぎゅうぎゅうの場面になってしまったんですけど描きました(笑)。
伊東:さいとうしのぶさんに絵を描いていただけることになって、全国の本屋さんに置いていただけるかも…という話になったとき、もしかしたら関西弁じゃないほうがいいのでは、という話も出ました。
さいとう:でも標準語だとちょっとマジメで、かたい感じになるかもしれない。大阪弁だとゆるりとした感じでまとめられるかなと思いまして、リーブルの編集者さんにその話をしたら「大阪弁のほうがいいんじゃない」と賛成してくだったので。
───絵本の中でちょっとびっくりしたのが、ねこすけくんの寝た時間です。「11じ」というのは、今の幼稚園の子たちの中に実際にいるんですか?
伊東:少なくはないんです。アンケート結果をふまえても、幼稚園児の「11じ」はまあまあいます。
───ほとんど大人と同じ時間ですね…。
さいとう:保育園だともっといるかもしれないですね。
伊東:3・4・5歳くらいになると時刻がだんだんわかってくるんですけど、子どもたちの中には時刻がわからなくていつのまにか遅くなっている子もいるんですよね。「1じ」「2じ」になってしまうと遅すぎて感覚がつかみにくくなってしまうので、子どもがわかる「遅い時間」のいちばん遅い時間として「11じ」の設定をしました。具体的に「あの子もそうかな…」と子どもの顔が思い浮かぶくらい…。現実にねこすけくんがいます(笑)。
───ゲームやスマホで遊んでいるうちに、そんな時間になってしまうんでしょうか。
伊東:そうですねえ。子どもたちと話していると、明らかに深夜のテレビ番組の内容を知っていることがあります。しかも内容からしてたぶん録画じゃないな、とか。子どもたちは悪気がないのでいろいろおしゃべりする中でわかってしまうんですよね。だいたいリアルな就寝時間を現場では感じとっていると思います。
さいとう:親がスマホをしながら「はよ寝ておいで」と言って、実際に子どもが何時に寝たかははっきりしないこともあるでしょうしね。
伊東:でもね、お母さんだけを責められないんですよ。ほら、絵本を見ると、夜ごはんが終わったあとに横でずっと寝ている人がいるじゃないですか。
───そういえば、いますね(笑)。ねこすけくんがテレビ見たり、ゲームしたり、スマートフォンであそんだりしている間にずっと寝転がってる人が…。
伊東:この人が一緒に家のことをやって、みんなで寝る準備をすれば、もっとはやく寝られるはずなんですよ。
───絵本の後半では、9時に布団に入るため、ちゃんと寝る準備をしているねこすけくんの横で、洗濯物をたたんでいるお父さんがいますね!
伊東:お母さんが、お父さんが、とか、どっちが悪いじゃなくて、ねこすけくんのためにできることをみんなでしてあげてほしいなと思います。 現実に、睡眠不足で体調不良になっている子どもたちがいて、そんな子たちを何とか助けてあげたい。でも、「早く寝かせるために、がんばって料理を作り置きしなきゃ…」とか、親御さんが追いつめられてしんどくなってもいけないと思っているんです。「困ってる」と言えないお母さんも多いんですよね。 「寝る前のゲームをやめるだけならできるかな」とか、絵本を見て考えてもらえたらうれしいですね。誰か1人が頑張るんじゃなくて、みんなでたまには早く寝よう!って、家族で睡眠をとる習慣を作れたらと思います。