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《スペシャルコンテンツ》インタビュー

2013.07.18

『むしとりにいこうよ!』
はたこうしろうさんインタビュー

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『なつのいちにち』で語ったテーマをよりストレートに描いた『むしとりにいこうよ!』

───私は、はたさんの『なつのいちにち』(出版社:偕成社)を読んで、息子が成長する中で1度でも、あの男の子と同じ体験をしてくれれば言うことは無いと思うくらい、すごく衝撃を受けたんです。『むしとりにいこうよ!』は軽いタッチの作品ですが、『なつのいちにち』と同じ思いを違った切り口で表現されているように感じました。

そうですね。子ども達にはやはり、生き物と接してほしい、そこから世界と繋がっている自分というものを感じてほしいという思いは強くあります。『なつのいちにち』では、お兄ちゃんがいなくて、1人で虫取りに行くんです。これもぼくが実際に体験したエピソードなんですが、ぼくははじめて1人で虫取りに行ったとき、森の中に入っていけなかったんですよね。

───それはなぜですか。

怖かったんですよ。孤独な感じがしたし、不安もあったんじゃないかな。でも、それから1人で虫取りに行けるようになって、自然の中にいて、生き物を見ているとき、1人なんだけど世界とつながっていると感じることがあるんです。寂しいんだけど寂しくないというか…。子どもの頃はうまく言えなかったんだけど、大人になって再び森に入ると、より強く感じるときがあるんです。そういう体験をしている方は『なつのいちにち』を読んで、より既視感というか、懐かしさを感じるんだと思います。

───私も子どもの頃、身近に自然がある環境で育ったので、絵本を読んでその懐かしさを感じたんですね。

『なつのいちにち』は子どもよりも大人の方にすごく気に入ってもらえて、「私も子どもの頃に同じ体験をしました」という声を沢山頂き、ありがたく思っています。『なつのいちにち』で描いたような郷愁、ノスタルジーな要素は『むしとりにいこうよ!』には入っていないですが、テーマとか問題意識はすごく似ていて、「外に行こう!外に出ていろんなものに触れてみよう」ということを、よりストレートに子どもに伝えたいと思って作った作品なんです。

───たしかに『むしとりにいこうよ!』を読むと、道端にある葉っぱの裏を覗いてみたり、石をひっくり返してみたりしたくなりますよね。
ここまで昆虫のお話を聞いていて、今まで、昆虫をメインにした絵本を『なつのいちにち』以外にほとんど描かれていないことがとても意外でした。

編集者さんの中にはぼくの虫好きを知って「昆虫の絵本作りませんか?」と言ってくれる方もいましたが、ぼくの中で昆虫と絵本が結びつかなかったんです。そもそも、ぼくが絵本作家を目指したのは中学2年生の頃、『和田誠百貨店』(和田誠、1988年、美術出版社)を読んで、イラストレーターになりたいと思い、『はせがわくんきらいや』(長谷川集平、1984年、すばる書房)を読んで絵本ってすごい!絵本作家になりたい!と衝撃を受けたことが原点なんですよ。そのときは、昆虫熱はもう冷めてましたし、虫好きが再熱した後も、昆虫は絵本で見るよりも図鑑や写真の載っているものの方が好きだったので、自分の絵で昆虫の絵本を作るイメージが長いことできなかったんです。
今回も、昆虫にスポットを当てた絵本だったらおそらくもっと時間がかかっていたと思うんですが、身近にいる虫を探しに行こうという、取る側の視点に立った絵本だから描くことができたんだと思います。

───少し、絵本の描き方について伺えたらと思うのですが、はたさんは「ショコラちゃん」シリーズや「こぐまのクーとマー」シリーズなど、作品によって、さまざまなタッチを描かれる絵描きさんだと思います。『むしとりにいこうよ!』で特に意識して描いた点はありますか?

昆虫と植物、そして人間を違うタッチで描いたことです。昆虫はかなりリアルに描いていて、人間はデフォルメを強くしてコミカルに見えるよう描いています。植物はその中間で色鉛筆を使い、あまり描きこまないように、でもどの植物か分かるよう、注意して描きました。最初のときは、虫が苦手な親御さんもいるだろうから、全部のデフォルメを強くして描こうと思ったんですが、デフォルメしすぎると種が分かりにくくなってしまうので…と描きこんでいって、今の形に落ち着きました。


初期のラフ(左)と中期のラフ(右)。人の描き方に違いが見られます。

───昆虫がとても細かく、美しく描かれているのでページを開いて、パッと目が行くんですよね。でも、1つの作品の中で何種類もの技法を混ぜて描くのはとても難しいと思うのですが…。

以前、『はい!うさぎです』(作: 澤口 たまみ、絵: はた こうしろう、出版社: 福音館書店)を作ったとき、ウサギをカラーで繊細に描き、人間をモノクロでデフォルメして描く方法をやったことがあったので、今回も大丈夫だろうと確信を持っていました。

───そのほか、読者の方に見てもらいたい点などはありますか?

そうですね…。今回、見返しにもこだわっていて、ぼくの撮った森の写真を使っています。この写真は絵本と現実の間を結ぶ橋渡し的役割というか、ストーリーを読んで、見返しの写真を見て、実際に自然の中へ行ってみようと思ってもらえたら嬉しいです。

───ありがとうございました。高尾山に一緒に行けなかった悔しさを軽く超えるほど、昆虫の話を伺えて、とても面白かったです。まだまだ伺っていない昆虫のおはなし、絵本のネタなどがありそうですが…。


シリーズ2作目の主人公? フンチュウです。

まだ、構想段階ですが第2弾は秋の虫をテーマにした絵本を作ろうかという話がでているんですよ。

───秋の虫!それも赤とんぼとか、コオロギとかではないんですよね…。

もちろん。第2弾は、ハムシ、ゾウムシと同じくらい好きなフンチュウを紹介する絵本にしようかと思っています。

───フンチュウ…?

フンチュウはその名の通り、動物のウンチをえさにしている昆虫です。有名なところで言うとフンコロガシですね。でも、日本ではフンを転がすフンチュウはいなくて、フンの下に穴を掘って、そこに卵を産んでいます。

───フンチュウは都内でも見つけることはできるんですか?

犬の糞なんかをひっくり返すと見つかりますよ。ぼくはもっぱら信州に出かけていきます。清里高原などの美しい牧場に行って、キャーキャー言っている女子を尻目に、牛の糞をひっくり返すんです。


構成を少しだけ紙芝居で見せてもらいました。

フンチュウって、1mm前後の大きさなのと、土にもぐるのが得意なので、まさにスピード勝負。間に合わないときは素手で追っかけてつかまえます。

───すごいハードなんですね…。

でも、イヌのフンの下にもいる雑虫なので、『むしとりにいこうよ!』と同じような形で、身近な自然の中に飛び出していきたいと思うような作品になると思いますよ。

───では、そのときは是非、昆虫採集リベンジさせてください!
今日は本当にありがとうございました。

インタビュー: 磯崎園子 (絵本ナビ編集長)
文・構成: 木村春子(絵本ナビライター)

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はた こうしろう

  • 兵庫県に生まれる。絵本作家、イラストレーター。
    絵本に『ゆらゆらばしのうえで』『ことりのゆうびんやさん』(以上福音館書店)、『ガタゴトシュットンなんのおと?』(学習研究社)、『なつのいちにち』(偕成社)、『雪のかえりみち』(岩崎書店)、『はるにあえたよ』「クーとマーのおぼえるえほん」シリーズ(ポプラ社)、「ショコラちゃん」シリーズ(講談社)、『こいぬ、いたらいいなあ』(フレーベル館)、『はじめてずかん どうぶつ(1)(2)』(コクヨS&T)、童話の絵に『しゃくしゃく けむしくん』などの作品がある。
    東京都在住。

作品紹介

むしとりにいこうよ!
むしとりにいこうよ!の試し読みができます!
作:はた こうしろう
出版社:ほるぷ出版
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