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絵本ナビスタッフ便り 

絵本ナビ編集部

2016/07/14

『そして』刊行記念イベント 谷川俊太郎さん講演会レポート

『そして』刊行記念イベント 谷川俊太郎さん講演会レポート

2016年6月26日に、谷川俊太郎自選詩集『そして』の刊行記念イベントが鎌倉文学館で行われました。当日は、滋賀県や愛知県など遠方からお越しの方もいらっしゃり、会場は大いに盛り上がりました。思わぬスペシャルゲストも登場した、当日の様子をレポートします。ぜひ、お楽しみください。
イベントはアジサイの花が盛りを迎える6月26日、鎌倉文学館で開催されました。
「今日は、滋賀県や愛知県など遠方から、この講演会にいらっしゃった方もいます」という進行役のトークに、「何かのついでに来たのかもしれないでしょう」と答え、会場を沸かせる谷川さん。
自薦詩集『そして』の中から、題名にもなっている「そして」の朗読を行いました。
谷川「そして」は、俳句の影響を受けて作った詩です。「そして」を作ったとき、ちょうど、知り合いがやっている句会に参加する機会がありました。ずっと詩を書いているから、俳句も上手いだろうと、自信を持っていたんだけど、書いてみても全然ほかの人に選んでもらえなかった(笑)。そのとき、俳句と詩は違うんだと改めて感じたんです。そのときの経験を生かして、短い言葉を使って書いた詩が「そして」です。
『そして』は「ジュニアポエム」シリーズ(銀の鈴社)30周年記念として出版された詩集として、『地球へのピクニック』以降に発表された、谷川俊太郎さんの詩集の中から、1篇ずつ選んでまとめられた、とても珍しいスタイルの詩集。詩の選択には、谷川さんもとても苦労されたようです。
谷川ぼくは、詩集1冊ずつ、それぞれスタイルを変えて書くようにしています。なので、29冊の中から1篇を選んで、1冊にまとめる作業はとても大変でした。選ぶときは、自分の詩と思わないように、ほかの人の詩を選ぶ気持ちで選びました。それでも、完全に客観的にはなれませんからね。なかなか苦労しましたよ。選んだあとは、29篇の詩を、1冊の詩集にまとめなければなりません。ばらばらのスタイルをひとつにまとめ上げるのだから、それにはとても力がいります。そこで、まとめ上げるための力をお借りしたのが、下田昌克さんです。今日、この会場にも来てくれています。
サプライズゲストは、『そして』の絵を描かれた、下田昌克さん!
大勢の方の拍手に押されて、ちょっと緊張気味に登場です。

下田さんが加わって、話はお二人の出会いに……。雑誌の取材で行ったアラスカで出会ったという話に、会場内からはどよめきが起きました。今までにも谷川さんの言葉に絵をつけてきた経験を持つ、下田さん。今回の『そして』の絵を依頼されて、詩を読んだときの感想を伺うと……。
下田:そんなにピッタリ詩に寄り添った絵を描かなくてもいいんじゃないかと思いました。それよりも、ちょっと風通しが良くなったりする方がいいなと思って。絵を描くとき、詩をすごく読み込んだり、考えを練ったりして描くこともあえてしませんでした。
「そのかみのかぜ」
谷川:一本の線で、すべての詩をつなげるというアイディアが出たのが面白いなと思ったんです。ぼくが選んだときは、一冊の本になりにくいと思ったけれど、この線のおかげで何となくまとまりができたのが、嬉しかったですね。下田さんって結構、考えて描いているんだと思いました(笑)。
さすが、お二人はトークの息もぴったりです。
その後、話題は谷川さんが詩を作り出す創作の話にも迫りました。

谷川:詩を作るとき、思いは必要ないんだよね。思いなんか捨てちゃって、空っぽにならなきゃいけない。座禅や瞑想に近い感じでしょう。自分が空っぽになって、言葉が生まれるのを待つというのが、ぼくの基本的な詩の書き方。地面の下に日本語の集まり……言葉の地獄のようなイメージがあって、そこからポコッと出てくる。それが、はじまり。言葉は、空から降ってくるのではなくて、下から湧いてくるんですよ。
講演会の後半は、参加者の方の質問コーナー。興味深い質問が、いくつも谷川さんに寄せられました。
―― どういうときに詩を思いつくのですか?

谷川:今一番多いのは、朝目が覚めてベッドで何となくうつらうつらしているとき。そいういうときは、ふと、自分でも意外な言葉が浮かんできます。それをメモしておいて、そこから詩を書きはじめることがあります。詩のはじまりは、意外な方がいいんです。意外な方が面白い。エッセイや散文を書くときとは、感覚的に違った脳の使い方をしていますね。
―― 詩を書く際に、書き直すことはありますか?

谷川:推敲は何度も重ねます。1回書いて、これ以上手を加える必要がないと思うことは極めて少ないです。書いてから、1,2か月くらい手直ししていることもありますし、推敲の段階で、一から書き直すことも珍しくありません。ただ、それが詩を改善させているのか、悪くなっているのかの判断は難しいですね。
最後に、若い人たちに向けて、多くの詩や絵本を作ってきた谷川さんに、子どもたちに「社会」や「生と死」「宇宙」など大きなテーマを伝えるときに考えていることを伺いました。
谷川:ぼくの場合は詩で書くか、歌の歌詞で描くか、絵本のテキストで書くかによって、伝え方は異なります。ぼくの作品の中に『子どもたちの遺言』(写真:田淵 章三 詩:谷川 俊太郎 出版社:佼成出版社)という詩集があります。これは、編集部の人から「谷川さんも後期高齢者なんだから、この辺で子どもたちにむけて、何か遺言をお願いします」という企画からスタートした、作品です。でも、ぼくとしては、今のこの世界がひどいのは、大人が作り上げたものだから、子どもたちに遺言なんかできないと思ったんです。そこで、子どもたちが大人に遺言を残すという、逆転の発想で書いた詩集が『子どもたちの遺言』なんです。ぼくが、子どもに伝えるということは恐ろしくてできない。謝るしかないみたいな、そんな感じですね。
ぼくは、詩でも絵本の文章でも、「メッセージを伝える」という意識はありません。理想を言えば、ぼくの詩は、その辺に生えている雑草のような、存在自体がはっきりしたものでありたいと思っています。雑草はメッセージを持っているとは思えませんよね。でも、よく見るとしっかりとした存在があって、その力で我々は感動する。そんな、メッセージではなく、存在自体で感じてもらえる言葉を作っていきたいと思っています。

若いころからドライブが好きで、海を見に鎌倉まで車でよく来ていたという谷川俊太郎さん。鎌倉文学館を背に、下田さんと2ショットを撮って、無事イベントが終了しました。

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