小学1年生のあおは、学校帰りにかわいい捨て猫を拾いました。家に連れて帰り、一緒に暮らすしずさんに飼いたいと一生懸命お願いをします。帰宅したなおくんにも相談すると、なんとか話がまとまって飼えることになりました。猫の名前は、豆大福に似ているから「まめた」! こうして、あおの家は、なおくんとしずさん、あおとまめたの三人と一匹になったのです。
ある日、同じクラスのひろきくんとお姉さんが、まめたに会いたいと言って家にやってきます。まめたと楽しく遊んだ後、帰り際、お姉さんはあおの家族を見て、ぼそっとひと言。
「あおくんちって、なんか ふくざつだね」。
「ふくざつ」って、どういうことだろう? あおの心はざわつきます。
物語を手がけたのは、これまでも多様な家族の形を描いてこられた児童文学作家のいとうみくさん。今回は、小学校低学年の子どもたちに向けて、「家族のあり方」について優しく問いかけます。
あおが暮らす家族は、世間一般でイメージされる家族の形とは、少し違うかもしれません。読み進めるうちに、「そうだったのか」とハッとさせられる場面もあるでしょう。しかし、猫を飼うのをみんなで喜ぶ場面、しずさんを仕事に見送る場面、なおくんが朝ごはんを作ってくれる場面など、見開きいっぱいに描かれるあおの毎日は、幸せで満ち溢れています。
「みんなとちがうっていけないことなの?」
しずさんに問いかけるあおの素直な疑問は、この本を手に取る子どもたち自身の心にも響くでしょう。そして、しずさんが教えてくれる、こんな温かい言葉も胸を打ちます。
「あのね、おなじように 見えるだけで、ほんとうは おなじなんて ひとつも ないんじゃないかな」
このお話からは、みんなと同じに見えることよりも大切なこと。それは、自分が幸せな気持ちで過ごせる場所なのかどうかだということが、温かな気持ちとともに伝わってきます。
「ぼくの うちは、ぼくんちだ。」
たとえ周りと違うように思えることがあっても、「ぼくんちだ」と自信を持って言えるように。また、多様な家族の存在に対して、もっと心からの理解が進むように。
この一冊は、子どもたちの今とこれからに向けた大きなエールとなることでしょう。今回、低学年から読めるお話として出版されたことに大きな意義を感じます。
最後に……本を実際に手に取ったら、ぜひ表紙のカバーも外してみてくださいね。ちょっと嬉しくなるような秘密が隠されています。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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「あおくんちって、なんかふくざつだね」ぼくは、ともだちのおねえさんに言われたことを、しずさんに伝えた。しずさんは「そうね、人と人がいっしょにくらすって、ふくざつなことなのよ」といった。「つまり、かんたんじゃないってことね。かんたんじゃないことってわかりにくいでしょ」「ぼくんちは、わかりにくいってこと?」まあそうねと、しずさんはつぶやいた。「たぶん、クラスのほとんどの子のうちには、おとうさんとおかあさんがいるでしょ」「うん」「あおは、そうじゃない」??みんなとちがうって、いけないことなの?
さまざまな家族のあり方を描き続ける、いとうみくの新作。
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