空へのびる入道雲と、うだるような暑さ。そして降りしきるセミの声。セミは日本の夏の風物詩ですね。
見慣れているように感じますが、実際は、とがった口で木の汁を吸うところも、木にしっかりとつかまる意外と細い足先も、近くでじっくり観察する機会はあまりありません。幼虫が長年地中で生きるということは知っていても、卵が地上の木の枝に産みつけられて、生まれると土にもぐるということを知っている人は少ないのではないでしょうか。卵から孵ったセミの2mmほどのセミの幼虫は、枝からポトポトと地面に落ちて、必死で土にもぐりこむまでに、アリに捕食されるなどほとんどが命を落とすのだそうです。
どうでしょう。セミは、どうやら、知っているようで知らない昆虫なのです。
この絵本は、アブラゼミの一生を美しい写真で見せてくれる写真絵本です。写真は、昆虫写真家として活躍する作者・筒井学さん。「ぐんま昆虫の森」で長年セミを撮影されている筒井さんの写真は、なかなか見られないセミの一瞬の姿をとらえ、その命のひとコマを私たちに見せてくれます。
夏の終わりに産卵された卵の様子や、木の枝から幼虫がゆっくりと顔を出す瞬間。成長した幼虫が前足を使ってトンネルを掘るところなど、卵の艶から、幼虫の細かな体毛まで、全てを鮮明に見ることが出来ます。
生まれて5年目の夏、ようやく幼虫は地上に出ます。久しぶりに見る地上の世界。穴から頭を出した瞬間の顔がアップで写し出されています。光を浴びる黒々とした目に、幼虫が何を感じているのか想像せずにいられません。
そして、幼虫が成虫へと羽化する時。
羽化直後のセミの、すきとおるようなはかない美しさといったら!本の画面の中では、この神秘的な瞬間が、1本の木のそこかしこで一斉に起こっているのに圧倒されます。大人も子どもも、目を丸くして見入ってしまうことでしょう。
セミが成虫として生きるのはたった2週間です。せいいっぱい鳴いて飛び回って、セミたちのいのちは、夏の終わりとともにつきてしまいます。
「都会のかぎられた自然の中でも、たくましく生きるセミたち。6年という長い年月をかけて、いのちを引きついでいます。」
この絵本には、そんなセミの姿、昆虫たちの姿を通して子どもたちに大事なものを感じ取ってほしいという、筒井さんの想いがあふれています。
今年の夏も盛大に鳴いているセミたち。それぞれがこのドラマを生きて地上の2週間を謳歌していると思うと、声までいつもと違って聴こえてくるように思います。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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都会の限られた自然の中でたくましく生きる
日本の夏は、いつもセミたちとともにめぐってきます。
いなかでも都会でも、その声はひびきわたります。
でも、セミたちの命は、夏の終わりとともにつきてしまいます。
成虫が生きていられるのは、たった2週間ほどなのです。
翌年の梅雨に、残された卵から幼虫が生まれ、土の中をめざします。
しかし、待ちかまえていたアリたちにつかまってしまい、
ほとんどの幼虫が命を落としてしまいます。
命からがら、土の中にもぐりこんだ幼虫は、ゆっくりと成長をして、
生まれてから5年目の夏に、ようやく地上をめざします。
いよいよ成虫へと羽化するときがきました。
メスのセミが卵を産んでからは、6年もたっています……
都会のかぎられた自然の中でもたくましく生きるセミたち。
長い年月をかけて引きつがれていく命をとらえた写真絵本です。
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