「先進諸国で今、子どもに起きているもっとも大きな問題は?」と聞けば、発達障
害という答えが返ってくるようになりました。ひと昔前まではアトピーやアレルギー
が問題でしたが、最近では落ち着きがなく集中できない子ども(注意欠如多動性障害
=ADHD)、他人とのコミュニケーションがうまくとれない子ども(自閉症)など
が激増し、日本でも親や教育現場はその対応に追われています。
また、この数十年間に、日本を含めた先進諸国で、乳がん、前立腺がんなどのホル
モン依存性がん、不妊症や生殖異常など、さまざまな病気が増えてきました。各々の
病気については研究がすすみ、最新の知見にもとづいた治療がおこなわれていますが、
原因はいったいどこにあるのでしょうか。
欧米では過去半世紀に及ぶ人工化学物質の激増がこれら数多くの疾患の根底にあ
り、それらが私たちの体のホルモン、免疫、神経などの基本的システムを刺激して、
その正常な働きを混乱させているのではないかとみられています。
現代社会にはすでに
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万種類以上の化学物質が出回っており、さらに毎年、
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1000種類もの新たな化学物質が登場しています。あまりに数が多いので、安全性
を確かめる試験が追いつかないのです。そうした状況のなかで、身の回りにあるプラ
スチックや家具、カーペット、ファストフードの包み紙などから、知らないうちに危
険な化学物質が染み出し、私たちの体に影響を与えています。
とくに、妊婦や子どもへの影響が大きいことが、この数十年間の世界中の科学者た
ちの研究によって明らかになってきました。うっかり日常生活のなかで化学物質をた
くさん浴びてしまうと、自分だけでなく、子どもや孫の世代の脳神経の発達にまで、
その影響が及ぶことを示す科学的証拠も蓄積されてきたのです。
あなたが毎日使う化粧品や生活用品、ヘアカラーや香水、殺虫剤や防水スプレー、
消臭剤や芳香剤、目に見えない化学物質のことを少しでも知っていれば、危ない化学
物質を浴びる量を減らすことができます。あなたと大切な子どもを守るために、本書
がお役に立てれば幸いです。
本書は、月刊『食べもの通信』の2013年から4年間の連載に加筆したものです。
その間に家庭栄養研究会の編集委員会にたいへんお世話になりました。また、食べもの
通信社の佐々木悦子さんには本書の作成にご尽力いただき、心より感謝申しあげます。
水野玲子 「はじめに」より
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