「忘れたい」思いのそばで
その人の悲しみがその人の悲しみのままで居られる場所があってもいい……
東日本大震災では、発災直後より被災地において「仮設住宅居室訪問活動」が行われきた。
本書は活動を主導してきた著者が情感豊かな文章と多彩なエピソードで語る活動記録である。
被災者のみならず、悲しみを抱えた方々に対する、新しい「支援」のかたちを提起する。
これまでに類のない震災関連書籍。
※2013年8月〜15年3月の間、浄土真宗本願寺派の月刊機関誌『大乗』に連載した「震災情景」(全20回。)、「ことばの向こうがわ」(全12回)を時系列に再構成し、加筆修正を加えたもの。
※被災者ボランティア、心理カウンセラー、医師、教師、臨床宗教師など、苦悩を抱える方と向き合う人、必読の書。
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支援とは何だろうか。
端的に言えば、苦難に直面した方を支え、援けることだ。たとえば苦難に直面したとき苦悩が生じる。その苦悩が誰にも顧みられず、ひとりで抱え込まざるを得なくなったとしたら、苦悩はますます大きなものへと膨らんでゆくだろう。しかし、解決策さえ見つけられないほどの大きな不安と孤独のなかでも、誰かのあたたかい眼差しが向けられているという、ただそれだけのことが、その人を支える力になることがある。苦悩する気持ちを丁寧に受け取る誰かがいることで、その孤独が和らぐことがある。
そのためにできる方法の一つが、仮設住宅居室訪問活動だった。(「はじめに」より)
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「私ね、ずっと死にたかったのよ」
これまで女性が抱き続けてきた思いが、そのまま声になって出てきたようだった。そして泣き笑いされる女性の表情は、最初の冗談めいたよそよそしい笑顔とは違って、どこか安らいだ笑顔のようにもみえた。……
女性との出会いは、気持ちの一つひとつを誰かに受け取ってもらうことができれば、その気持は少しずつ和らいでいくことを教えてくれた。たとえそれが「死にたい」という気持ちであったとしてもだ。女性との出会いをとおして、《死にたいほどの苦悩》に焦点をあてた活動、その人がその人のままであっていいという、そんなあたりまえなことを大切にする活動の必要性を改めて感じさせられたのだった。(本文より)
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