前著『南紀州』(2020年12月刊)に続き、南紀州の農村に生きる一家の歩みをたどる。日中戦争前夜から現代まで、親から子、子から孫へと、手渡された歴史を描き出す長編小説の完結編である。本書では孫の世代である洋子が主人公。彼女は傷つきながらも懸命に生き抜き、地方紙記者として社会の矛盾に直面した。紀伊半島の過疎を狙った原発計画、天安門事件に続きソ連の崩壊…… 洋子は向かい風に立つ。
「『南紀州』という長編小説を書こうと思い立った気持ちの底にあったのは、その時代のなかで、人はどう生き、どうたたかい、それをどう未来につないでゆくのか、それを探求してみたいというものでした。また、人として生きてゆくことは、かけがえのない価値を持っているという思いでした」(「あとがき」より)。
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