本書は、近年関心の高まっている東南アジアの宗教美術における、基礎研究の成果である。
偶然に導かれて、インドネシア出土の鋳造像を手にした著者は、それが密教の尊格・大日如来であることに気づいた。
現在、インドネシアは、イスラム教徒が人口の約90%を占めるが、ボロブドゥール遺跡に象徴されるように、かつては仏教(密教)とヒンドゥー教が栄えていた。しかし13世紀頃の急激なイスラム化により、その痕跡の多くは失われ、インドネシアに密教があったという認識は、現在一般にはほぼないと思われる。
それなのに、なぜこの像は存在するのか。その時に著者のインドネシア密教の研究は始まった。
自らの疑問に答えるため、著者は、スマトラ・ジャワ両島に残る寺院・遺跡・博物館・美術館・考古資料室などを自らの脚と撮影機材を使って調査・研究し、さらに欧米の博物館・美術館へ赴き、実見できないものは欧米文・現地文の著作・写真集などから資料を集め、美術史の視点から様式・形式の分析と検討を行い、その作品の時代と文化の背景を抽出していく。
収集された膨大な数の資料から、かつてインドネシアに存在した宗教の様相を描き出した、インドネシアの宗教世界、ひいては日本の密教との関係を知る上で、必備の研究書である。掲載図版200点余、資料数1600点余。
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