───恐竜を拝見して思ったのは、イラストがすごくきれい! 恐竜なのにすごくカラフル!というところでした。

そうなんです! 今回、新版にするにあたり、最新の学説にもとづいて、たくさんのイラストを新たに描き下ろしました。中でも特にこだわったのが背景。各年代に生息していた植物を古植物専門の研究者に監修をお願いして、恐竜の生きていた時代の世界を忠実に再現するように努めました。

───恐竜ってくすんだ茶色っぽい色のイメージが強かったんですが、誌面を飾る恐竜は赤や紫など個性的な色があったり、模様がついていたりと、カラフルですよね。
最新の研究で色が分かってきた恐竜も出てきたので、そこは研究結果に忠実に。それ以外は、いま生きている、は虫類や鳥を参考にしながら、復元画を担当したサイエンスイラストレーターの方にお任せした部分もありました。
───旧版と比べて、変更した部分はどのくらいあるのでしょうか?
イラストもそうですが、情報も全ページ更新されています。やはり10年以上たつと、研究が進み、新しい学説もどんどん出てくるので…。そういった意味では、旧版とはまったく別の新しい図鑑といっても良いかもしれません。
───特にこだわった部分を教えてください。
色々あるのですが…。今回は、意外と知られていない、日本で見つかっている恐竜にも注目したところです。
───私たちが暮らしているところを、恐竜が歩いていたかもしれないというのは、すごくワクワクしますね。
日本のどこで、どんな恐竜の化石が見つかっているのかがひとめでわかるように、楽しくてわかりやすい「恐竜日本地図」をヒサクニヒコ先生に描き下ろしていただきました。
───すごく貴重な原画ですね! イラストを見ると、福井県が特に恐竜王国なんですね。
日本のどこでどんな化石が見つかっているかが一目瞭然!
そうなんです。日本で発見されて、新種として認められた恐竜4種や、これから名前がつくであろう恐竜の情報などもイラストと写真を使ってたくさん紹介しています。日本で見つかっている恐竜化石をこれだけ丁寧に紹介しているのはNEOだけです!あとは、恐竜と同じ時代、同じ場所で生息していたことが確認されている、翼竜や首長竜も丁寧に取り上げているところ、さらにこの時代に生きていたほ乳類も紹介しているところもこだわりです。
───ほ乳類は恐竜が生きていた時代から生存していたんですか?

恐竜の子どもを食べていたというレペノマムス
ほ乳類は大体、恐竜と同時期くらいに地球に登場しているんです。当然、恐竜に食べられることが多かったようなのですが、中には恐竜の赤ちゃんを襲っていたほ乳類がいたりして、上手く共存関係にあるのがすごいと感心しました。
「図鑑NEO」シリーズのコンセプトに則って、進化の過程の順番に載せているのも特徴です。最初に人気者のティラノサウルスを持って来れば、インパクトは強いかもしれませんが、科学の入り口として生物の進化の醍醐味や面白さを知ってほしいので、あえて系統順に載せることにこだわりました。
───特に苦労されたところを教えてもらえますか?
貴重な写真を掲載するために、世界中の研究者に直接連絡を取るのに苦労しました。恐竜は、撮り下ろしすることがなかなかできないので、どうしてもライブラリーの写真かイラストになってしまいます。でもそれでは物足りないページもあって…。93ページの「ケティオサウルスのなかまA」の説明に載せている写真は、どうしても大きさを表現したくて、ドイツの研究者の方に連絡を取って、ブログに掲載されていた写真を使わせてもらったんです。誌面には、世界中の研究者とやり取りをして掲載した写真が何点もあります。ただ、恐竜の研究者って、1か月ぐらい発掘に出かけていたり連絡がなかなか取れないことも多くて、印刷直前のギリギリまで連絡を取り続けたことが大変でした。でもみなさん出来上がったページを見て、とても驚いていました。「NEOのクオリティーは、世界一だ!」って(笑)。
こちらが93ページ。恐竜の骨がいかに大きいかが分かりますね

───そんな苦労が実って許可してもらった写真が掲載されているんですね。 おはなしを伺うまで、恐竜は男性の方が担当されているとばかり思っていました。大藪さんは最初から恐竜の担当を希望されていたのですか?
実は、宇宙をやりたくて図鑑編集部を希望しました。ただ、入ったころは宇宙の大きい仕事がなくて、編集長から「恐竜をやってみない?」と薦められ、恐竜の担当になりました。なので最初は素人同然なところからのスタートでしたが、今ではすっかり恐竜が大好きになりました。
───知識がないところから、図鑑1冊を作り上げるのは大変ではありませんか?
すでに定年退職している旧版を担当した編集者に「恐竜の基礎」をたたき込まれてから、化石の発掘に参加したり、古生物学会に通ったりして知識を身に着けていきました。おかげさまで、2年で編集長も驚くくらいの恐竜オタクに成長しました(笑)。
───化石の発掘現場にまで行かれたなんて、すごいですね!
発掘現場には、大学で恐竜を研究している学生さんも多いんですが、彼らの中には、子どものころ「図鑑NEO」の恐竜を読んで恐竜博士を目指したという方も多いんです。
───では、読者の方と直接お会いする場所でもあるんですね。
はい。「図鑑NEO」は読者層が広く、下は幼稚園から上は大人の方にまで親しまれている図鑑です。特に恐竜は大人の読者層が厚く、間違ったことを書くと、発掘現場や学会ですぐに指摘されてしまうので、ドキドキしています (笑)。

今回は、お父さんお母さんやおじいちゃんおばあちゃん世代の読者がお子さんと一緒に楽しめる特集ページも作りたいと思って、「どんどん変わる恐竜のすがた」というテーマで、恐竜研究の進歩を追ってみました。お父さんお母さんたちが子どものころ常識だった恐竜知識が覆ると思います。
───私も、ブロントサウルスが消えてしまったと知って、すごく衝撃を受けました。新しい情報といえば、少し前にティラノサウルスに羽毛が生えていたというニュースが流れました。でも、表紙のティラノサウルスは毛が生えていないんですね。

ティラノサウルスの羽毛の有無については恐竜ファンの間でも盛り上がっています。私も雑誌だったら表紙で取り上げたかもしれません。でも、ティラノサウルスの羽毛はまだ決定的な証拠が発表されていないんです。今後、新たな研究結果が出て、確かにティラノサウルスには羽毛があったと認められたら、重版で改訂することになりますが、現段階では、複数の学説を紹介して、読者のみなさんに考えるヒントを届けることを重要視しています。
───今回の新版を手にした子どもたちの中から、新たな学説を発表する子が出てくるかもしれないんですよね。そう考えると、すごくロマンのあるお仕事だと思いました。 DVDはCGがすごく迫力とスピード感があって、魅入ってしまいました。こだわりポイント満載だと思いますが、あえてひとつあげるとしたら?
DVDをつけた理由として、文字が読めない小さいお子さんにも図鑑を楽しんでもらいたいという思いがありました。「ウォーキング WITH ダイナソー」というBBCでも一番人気のあるシリーズをDVD用の映像として使えるようになったことはすごく嬉しかったのですが、ただインパクトを重視した作りではなく、面白くてためになる、どの年代の読者が見ても楽しめる内容に編集しました。ティラノサウルスとトリケラトプスとの戦いも、傷跡から分かっている情報を科学的にわかりやすく紹介するなどリアリティを求めました。ナレーションの言い回しひとつとっても、監修の先生と話し合って「図鑑NEO」シリーズのDVDとして、恥ずかしくないものを目指しました。
───うちの息子もDVDと図鑑のセットで、恐竜博士になる日も近いと思います! そうしたら発掘現場で大藪さんに会えるかもしれないですね。
本当ですね! 私も息子さんに負けないくらい、恐竜についてもっと詳しくなりたいと思います。

───「花」は今回新刊として登場ですよね! 聞くところによると、小林さんがずっとやりたいとおっしゃっていた企画だったとか…。
図鑑編集部に所属してから7年間、ずっとコツコツと花の写真を集め続けてきました(笑)。ただ、ほとんどが新しくこの図鑑のために撮り下ろしてもらった写真なので、時間がかかり、今回、新刊を発売できる枚数が集まるまで7年間も経っていました。
───7年間も! まさに満を持してという感じですね。「花」の大きな特徴はなんですか?
今までの植物図鑑を見ていただくと分かるのですが、「昆虫」などのように「科」で分けて紹介する「分類順」ではなく、季節ごとや、生えている場所で分けられている場合が多いんです。でも、「図鑑NEO」の「花」は「APG分類体系」と呼ばれる最新のDNA解析に基づいた分類順で掲載しています。
───季節ごとの分類と、DNA分類順ではどういったところに違いが出るのでしょうか?
例えば、季節ごとに紹介する場合、5月に咲いている植物の名前を調べようとしたとき、たまたま連日暑い日が続いていたりすると、春の植物のページを見ればいいのか、夏の植物のページを見ればいいのか、悩むことがあります。地域による分類の場合、「まち」にも「野山」にも咲いている植物は、どちらのページを見ればよいのか微妙です。また、草か木かよくわからない場合、「草」と「木」でページが分かれているのも難しい。私自身、子どもの頃に植物図鑑を観ていて、そういった疑問を抱えていたので、その悩みを解消するのが分類順に紹介する方法だと思い、今回の図鑑で編集しました。
───分類順に紹介する方法はどのくらい一般的なのでしょうか?
大人の図鑑では一般的です。今回の「花」は児童向けの植物図鑑で唯一、進化の新しい植物から古い植物の順で「分類順」を採用している図鑑なんです。
───この分類で並べられているのを見ると、全く違う地域や季節に咲いている花なのに、花弁の形や色が似ていることを発見できますね。掲載している花の多くが写真を使った、正面の構図になっているのは、理由があるのでしょうか?
同じ科の植物を並べたときに一番特徴が表われるのが花の正面なんです。一見、大きい木と小さい草で姿形が全く違うように見えても、花の正面はそっくりで「同じなかまなんだ」と気付きます。自分でもこの図鑑を使いながら新たな発見がたくさんあって驚きました。
同じ科で並べると花の正面がこんなにそっくり!
───1250種類を超す花の写真を撮るのは大変な作業だと思うのですが…。
生き物なので、切るとすぐに花や葉がへなっとなってしまうので、一般的な撮影スタジオを使って撮影することはできませんでした。そのため、今回はワゴン車の後ろを撮影スタジオに改造しているカメラマンさんにお願いして、一緒に山や森に行って、そこで採集したばかりの植物を即撮影という方法を採用しました。花の写真は全部そのカメラマンさんに撮り下ろししてもらったので、7年の時間が必要でした。

まるで花火のような美しさです
───白い背景に写真が並んでいるのもとてもきれいですが、黒い背景に並んでいる写真がすごく華やかでビックリしました。
ありがとうございます。わたげを拡大したページは毛がよく見えるように黒バックにしました。あと、毒のページも黒の方がイメージに合うので。見て楽しめるようなビジュアルを目指しました。
───特に印象に残っている撮影はありますか?
ショクダイオオコンニャクという世界最大の花の撮影です。このショクダイオオコンニャクは7年に1度、2日間だけ開花する花。日本には生息していないため、つくばにある植物園で撮影をしました。開花直後に植物園の方から連絡をいただいて、カメラマンさんと植物園に猛スピードで向かった思い出深い一枚です。
───7年に1度の開花を撮影できるなんて…すごく貴重な体験ですよね。このショクダイオオコンニャク、図鑑には「猛烈に臭いにおいを放つ」と書いてありますが、やはり臭かったのでしょうか?
7年に一度の開花に興奮していたからか、ほどんど臭いを感じなかったんです…。同行していたカメラマンさんはしきりに「臭い!臭い!」と言っていました(笑)。
───ショクダイオオコンニャクは見返しにも載っていますよね?
はい。もう1つの世界最大の花と呼ばれているラフレシアとショクダイオオコンニャクの花をくらべる形式で載せています。それぞれの特徴を紹介した世界一どうしの対決です。
───特集ページでは「草花で遊ぼう」や「木の実のデザート」など、実際に親子で遊んで楽しめる内容になっているのも女性ならではの視点だと感じました。元々花がお好きだと伺いましたが、今回、新刊を作っていく中で、新たな発見や驚いたことなどはありましたか?

なつかしい花かざりの作り方も紹介されています
ツツジ科の花の中心部分に、明るく見える隙間があるんです。それはチョウがストロー状の口を挿してみつを吸うための隙間なんですが、ツツジ科の花はその隙間以外にも、チョウがとまるやすいような工夫が花びらに施されています。多くの植物が花粉を媒介してくれる相手に合わせて形を進化させてきたんだ…ということを知ったときは、改めて衝撃を受けました。
───DVDでは、リュウケツジュや食虫植物などかなりインパクトのある植物が紹介されていたり、思わず口ずさんでしまう「キクバララン」の歌など、子どもがワクワクする内容になっていると感じました。DVDのコンセプト、制作時の苦労などはありますか?
図鑑との関連づけをしっかり表現しつつも、映像ならではの迫力、情報を載せたいという思いがありました。めずらしい食虫植物やきのこの映像を入れたり、ヒガンバナ科の特徴を分かってもらうためにブルンスビギアを紹介したり、写真では伝えきれないリュウケツジュ(竜血樹)を映像で紹介したところなど、こだわりました。 面白かったのは、一緒にDVDを制作した制作会社の人と植物撮影合宿を行ったこと。植物のことをほとんど知らない方ばかりだったのですが、合宿が終わるころには、みなさん、植物に興味を持ってくれました。
───私も小林さん、カメラマンさん、DVD制作の皆さんの思いのこもった図鑑のおはなしを伺って、花が今まで以上に好きになりました。

「絵本ナビがおくる 夏の図鑑特集2014第1弾」、いかがでしたか?膨大な量の情報量の図鑑、いったいどんな風につくられているんだろう・・・取材前はまったく想像がつかなかったのですが、編集者さんの現場でのお話を聞いて、正しい知識をわかりやすく子ども達に伝えられるよう、細部までとことんこだわり抜いて作られていることを知りました・・・まさに職人魂!編集部のみなさんの熱い思いを伺って「図鑑NEO」の楽しみ方がグンと広がりました!本当にありがとうございます。それでは「絵本ナビがおくる 夏の図鑑特集2014」第2弾もお楽しみに!

インタビュー: 竹原雅子 (絵本ナビ編集部)
文・構成: 木村春子(絵本ナビライター)