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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  鏡のしかけが生み出す、驚きの三次元空間!「かがみのえほん」シリーズ わたなべちなつさんインタビュー

ねこの登場、ホットケーキの焼き加減

───『きょうのおやつは』の、ねこのクロがかわいいですよね。

ベルギーから帰国後、ちょうど実家にもどっていた私の背後を、ねこがすーっと通ったんですね。それを編集者さんがハングアウトで見て、「あっ」と。
実家のねこは三毛なんですけど、私が日ごろ見慣れていて、馴染みのある動物でもある、ねこを入れてみるのは、かがみの表現に多様性が出ていいんじゃないかと。
クロの前足が2本になり、絵本の外側にも、体が実際にそこにあるように感じることで、かがみをつかった表現としておもしろくなるように、と考えました。

───たしかに、描かれていないクロの胴体が見えそう!
「ゆげといっしょに あまいにおいが ほわほわ ほわわ」の場面では、クロの表情にひきこまれて、においが漂ってくる気がしちゃいます!


とくに議論が白熱したのは、ホットケーキの焼き具合です(笑)。「もうちょっと焦げていたほうが・・・」「いや、やっぱりなめらかな感じがあったほうが・・・」と熱く話し合い、編集者さんも私も、何度もホットケーキを焼きました(笑)。

───それで、ちょうどよいおいしそうな色が決まったのでしょうか(笑)。

はい! こんがり焦げた感じと、つるん・なめらかの間の、いちばんおいしそうなホットケーキになりました。

───絵は、どのように描いていらっしゃるのですか。

かがみのしかけの絵を描くときは、じっさいに間にかがみを立てて描いています。


原画の制作風景。アクリル絵の具と、色鉛筆と、鉛筆で描いています。

───大学院のアトリエで原画を描いているときの写真を見せていただきました。おもしろいです〜!
ひょっとして角度や面積などは計算式をつかって、科学的に描いているの!?と思っていました(笑)。

いえいえ、計算できないです〜〜(笑)。アイデア出しの段階から、すべてかがみを使ってやってみて、「あ、こうなるんだ」「意外におもしろい、いや、おもしろくない」と手元で実験を重ねることで、イメージを探っています。
原画を描くときも、最後の調整の作業まで、かがみは手放せません。左右対称にかがみにうつり込んだ状態で見て、よし、と思えるまで、描いています。
試作はかがみに直接描いていたのですが、絵本の原画はそういうわけにはいきません。原画制作のコンディションを考えると、やはりミラーペーパーではなく、より描画に適した紙に描くべきです。また、最終的に印刷する際、インキをのせずかがみの面を残す場所を判別しやすくする必要があります。なので原画は、決めた構図にしたがって、黒や灰色などの地の色を認識しやすい、かつ描画に適した紙の上に絵を描きます。
最善の手をつくしますが、最後は、カンに頼る部分も出てきます。

───カンですか!?

何度も試作をしますし、束見本を作ったり、ありとあらゆる手を尽くしてイメージを組み立てますが、特に透明感を左右する白インキによる表現など、印刷による最終的な仕上がりは実際のところ想像するしかない。


原画です!


こちらは原画ですが、試作段階で卵を描きながら、この白身とおなじように湯気の透明感も、白インキの濃淡のみで表現できるな、と思いつきました。
ふつう絵本に使われる紙は白いから、白い紙の上から白のインキの表現のみで湯気を描くことはできないんですね。かがみのような紙面に印刷されるからこそ、白の表現のみで描けて、かつ、印刷されたら、現実さながら向こうが透けているようにも見えるんじゃないかなと。

───なるほど! この半透明のような透明のような、絶妙な白身の感じ、湯気の感じは、そんな着眼点からうまれているんですね。

白インキで表現するために、最初から色がついている紙に描きました。背景との区別がはっきりするからと黒い紙に描いてみたら、色彩のバランスをつかむのがむずかしく、2枚目以降は灰色の紙に描きました。




ティーポットの取っ手やフライパンの柄の端が切れているのは、ここを指でつまむと、お茶を注いだり、ホットケーキのフライパンをもっている気分になれるからだそう!


かがみに惹かれて、かがみのえほんに結びつくまで

───制作中いちばん苦労されたところはありますか?

そうですねえ・・・。かつては、本屋さんに並べられる本が実現するなんて思わずに、かがみのしかけ絵本を作っていましたので。こんなふうにみなさんに買っていただけるいまが、信じられないくらいです。
制作をつづけていくためにもやってきたことを何とか形にできないか、とあがいていたときに、実際に出版を見据えて動いてくださった編集者さんとのすばらしい出会いがあったことが最高の幸運でした。お会いできるまでが、いちばん苦しかった。
でもお会いできてからも、お互い、「たぶんむりだろうなあ・・・」という気持ちもありつつやっていて、それがたくさんの方々の協力のおかげで形にできたので。本当に奇跡が起きたみたいだと思っています。ですから、制作に入ってからのいろんなことは苦労ではなかったです。

───最初にかがみっておもしろい、と思ったきっかけは、何だったか、覚えていらっしゃいますか。
子どもの頃、三面鏡が大好きだったとか(笑)。

いいえ、そういうわけじゃなく(笑)。うーん・・・最初にかがみに夢中になったのはいつだったかと、ふりかえったとき、思い出したのは大学生のとき美術館で見た草間彌生さんの作品展ですね。はじめて目にするすごい作品がいっぱいありましたが、いちばんおもしろい〜と思ったのが、かがみを使った作品でした。
でも美術館の帰り道、ふっと気づいたんです。あ、私が楽しんだのはかがみそのものだ、と。芸術的な教養とか草間彌生さんの作品を理解できたとかではなく、ただ、かがみをひたすら楽しんじゃった、と(笑)。
かがみを利用した表現を意識するきっかけになったのは、そのときかなと思っています。

もうひとつ、本の形態の作品制作という点で、衝撃的な体験をしたのが、大学3年生の夏。板橋区立美術館で、毎年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展の時期に、「夏のアトリエ」といって、プロ・セミプロ向けに豪華な講師がワークショップを開催するのですが、ポール・コックス(フランスの画家・絵本作家・グラフィックデザイナー)さんの5日間のワークショップに参加できたことが大きかったです。
ワークショップでは、3つの課題に取り組みました。出された課題は、3つとも本当にユニークでした。ひとつ例を上げると、ポールと通訳者のふしみみさをさん含め、26名のメンバーが車座になり、ひとり1コマずつ絵を描いてとなりの人に渡して描き継いでいくというものがありました。たった1日で、参加者全員の力を合わせて26コマ漫画を、26話作ったんです。
すべての課題がとても楽しくて、しかも自分の感覚に合う課題だったのか、ノリノリで取り組めました。憧れの方々がそろうワークショップメンバーの一員として、自分の個性や力を発揮できた、と自信になりました。同時に、メンバーにもっとちゃんと肩をならべたい、と明確な欲や目標もできました。すでにみなさん色々な仕事を国内外でされている方ばかりでしたから。
5日間のワークショップでメンバーは仲良くなり、その後も関係がつづいています。

───大学時代にいい経験をされていたのですね。

少しずついろんな経験を経て、自分の場合ちょっととんちのきいたものを、制作物としても評価されるようだと気づくようになりました。
きょうはかがみのしかけ絵本なので、かがみについてお話しましたが、他にも色々なしかけを作っているんですよ。

───かがみ以外にもわたなべさんの世界が広がっているのですね〜!

かがみの話にもどると、たとえば、こちらはかがみのページをほそお〜く、ちょっとだけすきまをあけて開いたときに、絵が反復してたくさんうつりこんでいる写真なんですけど・・・。


ビッグブック「おおきなにじ」(高さ180cmの大型作品)をほんの少しあけたところ。メルヘンハウスでの展示より。

───入っていけそう! 向こう側に空間はないはずなのに、空間があるみたい〜!

ページを開いた場所に、「本当にはない空間」ができあがるんです。平面で表現されているのに、左右のページが互いに映り込み合うことによって立体的・空間的に見えます。
かがみのしかけ作品以外で私が制作している作品にも通じることですが、私の考えたしかけの表現は、本という媒体と相性が良いと考えています。
「本」は、連続した平面のページからなる立体です。私のそもそもの専門はグラフィック、平面の表現ですが、複数の平面からなる立体性を活かしたものが多いです。今後も、本の形態の作品には、力を入れていきたいですね。

───手のひらサイズなのに、空間がずっと広がっているような気がする。大きな空間のように感じる。
そんなわたなべちなつさんの作品世界を、絵本という入口からのぞけることがうれしいです!

知識も前情報も必要なく、あかちゃんや子どもが見ても、わー、おもしろい!と感じるものや、日常的にさわれるものを作りたいと思っていたので、たくさんの方のご協力のおかげで絵本として実現できたことには、私自身も、心から感謝しています。

───これからも、わたなべちなつさんの世界から、おもしろいしかけ絵本が生まれるかもしれませんね。
まずは“かがみのえほん”を子どもとたっぷり楽しみつつ、知らない人にひらいて見せて「おぉぉっ!?」と言わせたいです(笑)。
きょうは、ありがとうございました!

インタビュー:磯崎園子(絵本ナビ編集長)
文・構成:大和田佳世(絵本ナビライター)
撮影:所靖子

<おまけ>

名古屋にある子どもの本の専門店、メルヘンハウスで行われた出版記念展「かがみの実験室」。
(2014年10月31日〜11月4日)。
その様子を写真レポート!


ビッグミラーブック「おおきなにじ」(高さ180cmの大型作品)がで〜んと登場!

あかちゃんもよろこんでページの間に入り込みます。


手をあげて、かがみにうつるじぶんをためしてみたり・・・

おにいちゃんこっちに来て〜!と呼び合ったり。楽しそう! 

大学院のアトリエで、ビッグミラーブック「おおきなにじ」の制作に取り組むわたなべちなつさん。
「かがみの実験室」は大好評で、わたなべさんにとっても子どもたちの反応がうれしかったそうです!

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わたなべ ちなつ

  • 筑波大学芸術専門学群卒業。グラフィックデザイナーとして家庭用品メーカーに勤務の後、現在は愛知県立芸術大学大学院に在籍している。「しかけの視覚伝達デザイン」をテーマに、作品を製作している。

作品紹介

ふしぎなにじ
作:わたなべ ちなつ
出版社:福音館書店
きょうのおやつは
作:わたなべ ちなつ
出版社:福音館書店
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