
───乗り物好きの子どもたちが大喜びしそうな「動く図鑑MOVE 鉄道」がついに完成しましたね。
この表紙、今年(2015年)3月に開通したばかりの北陸新幹線ですか?

鉄道写真家・山崎友也さん山崎:中の座席が見えるのが北陸新幹線E7系。左の赤いのは秋田新幹線E6系です。
表紙の絵コンテにあわせて、二つの新幹線車両を別々に撮影しました。E7系の横にもう一本線路があってE6系とすれちがっているようなイメージデザインだったので、E7系の動きの流れにあわせ、角度や高さ、レンズを調整して撮影しました。
───冒頭でインパクト抜群だったのが、その最新の新幹線E7系の解剖図です! 開通前に制作されたものですよね?

左が「MOVE」シリーズを手がける編集者・森定泉さん森定:はい。実物の写真や図面データは入手できなかったので、新幹線車両を設計される方々にうかがった話をもとに、イラストレーターが絵を描き、何度も正確な絵になるまでチェックしてもらいました。山崎さんの写真と、イラストレーターが3Dで制作したデジタルデータを組み合わせました。

話題の北陸新幹線(E7系)解剖図。
車両写真と3Dのイラストデータを合成し再現!
森定:解剖図と表紙、写真は違うけどイラストは同じものなんですよ。3Dデータを回転させて上下角度を変え、山崎さんが撮影してくださった表紙の写真に重ねています。
───そんなことができるんですか! スケルトンになった新幹線車両写真ってはじめて見たかも……。
山崎:あまり他で見ないタイプの車両写真ですよね。かなり珍しいと思います。
───やっぱり! ところで山崎さんは鉄道の本をたくさん手がけているそうですが、「MOVE」の「鉄道」は“集大成”といっていいくらい、写真・執筆量ともにかなりのボリュームだったのではないでしょうか?
山崎:(森定さんへ向かって)……ほんとうに、申し訳ございませんでした(笑)。
───えっ!?(笑)
森定:いや〜、写真も文も差し替えにつぐ差し替えで、入稿ぎりぎりまで最新情報にこだわりましたよね(笑)。
企画当初は「のりもの」で考えていたのですが、構成を練りはじめてすぐ、これでは「鉄道」のページ数が足りないと「鉄道」一本にしぼって……、完成してみれば「動物」「昆虫」と同じ208ページの「MOVE」最大ページ数(笑)。
山崎:今までの人生でいちばん大変でしたね。執筆量も多かったですし……。
写真は半分近くが「MOVE」のための撮り下ろしです。3月のダイヤ改正で車両が変わったと聞くと急遽再撮影に行ったり、やっぱりこの写真のほうがわかりやすいんじゃないかと思うものにぎりぎりで差し替えたりしました。
京成電鉄さんの協力で撮影させてもらった「鉄道の健康診断」のページも力が入っていますよね。何度も基地に通って撮影しましたけど楽しかったです。

「京成スカイライナー」が頭上からクレーンでつりさげられ、検査される場面を撮るため、何度も足を運んでようやく撮影できたそう。DVDにもばっちり収められています!

線路上を列車が走ることで生じる線路のゆがみを、ミリ単位で線形整正を行う大型保線用機械マルチプルタイタンパー(通称マルタイ)。

「人がおこなう線路の健康診断」。通常は電車の運行が終了した夜中におこなわれるので、私たちが目にすることはほとんどありません。じつは撮影した日は寒かったそう。図鑑とDVD映像をあわせてチェック!
───「新幹線」「特急列車」「各地方のおもな路線と列車」「さまざまな鉄道のしくみ」の4つの章にわかれていますね。
それぞれ地域ごとにまとめられていますが、北から南まで順番に並ぶと壮観でした。雄大な風景写真には「こんなところを走る列車にのってみたい」とあこがれちゃいます。
山崎:「新幹線」と「特急電車」はすべて網羅しています。「各地方のおもな路線と列車」は主要なものや特徴的なものをおさえました。本を見て「この列車にのってみたい」と思ってもらえると嬉しいですね。こんな風景のなかを走っているんだよと伝えたくて、地域の特色が出ている写真を選びましたから。
森定:岡山と四国を結ぶ特急列車「しおかぜ」の写真なんて、ほとんどが海ですからね。鉄道図鑑の扉ページなのに……(笑)。「MOVE」ならではですね。

「四国・中国の特急列車」扉ページは「しおかぜ 8000系」。本州の岡山から瀬戸大橋を渡って四国へ。

どどーんと2ページぶち抜き!「旭山動物園号」は北海道の札幌〜旭川間を走る特急列車。
森定:切符マークの「レイルマンやまさきのポイント」欄は、山崎さん独自の目線で好きなことを書いてもらう場所です。「MOVE」だからこそ、「鉄道解説」としては価値が微妙な“おすすめ情報”も監修者個人の意見として入れてもらいました。だってうんちくも楽しいですからね。

山崎:しょうもないネタもね(笑)。でもこういうのが楽しいですよね。
───「これがあの“ななつ星”だよ!」と取材チームで盛り上がったのがこちら。まるでホテルみたい。
女子もそそられるページが多いのですが、女の子の読者やママ目線は意識しましたか?(笑)

九州の列車「ななつ星」山崎:いいえ、特には(笑)。車両に興味がある女の子は少ないかもしれないけど、客船の内部構造とかは女の子もけっこう好きみたいなんですよ。このページは男女問わず喜んでもらえるかな。

駅弁大集合!東と西にわかれて、駅弁がずらっ。───ところで、森定さんのおすすめはどのページですか?
森定:駅弁のページです!

弁当の写真を大きく見せるため、数は厳選。
山崎:これも「レイルマンやまさきのおすすめ」なので独断と偏見ですよね(笑)。僕が食べて単純にうまかったとか、面白いなと思う駅弁をとりあげました。まあ、おさえるところはおさえつつ。
森定:鉄道図鑑に弁当のページ?と思うでしょう。「おぉっ駅弁!」とビックリする人も多いんですよ。
見た人はみんな、このページに反応します。
───「さまざまな鉄道のしくみ」で電車・ディーゼルカー・機関車など車両の違いがはじめてわかりました! 走っているのは電車だけじゃなかったんですね(笑)。

貨物列車としても活躍。強力なパワーをそなえた電気機関車、ディーゼル機関車のしくみ。

レールは何でできているの?〜カーブをまがれるしくみ山崎:非電化区間もありますからね(笑)。いろんなしくみで動いている車両があるんですよ。
僕は、5、6歳頃から鉄道が好きで撮りはじめたけれど、「なぜ線路は2本なんだろう」「レールは何でできているんだろう」と子どものとき不思議だなと思うことがいっぱいありました。
大人になってから専門書で勉強したけれど「そういえば、子ども向けの鉄道のしくみを書いた本ってないよな」という思いから、いつか、しくみの部分を本にしたいと考えていたんです。今回の仕事では、そういった積年の思いが一部形になったのでうれしかったです。すべて盛り込むにはページ数が足りなかったですけどね(笑)。

コラムページも充実。地下鉄の線路はどうやってつくるの?
───ちなみに「じつはこれは新しい車両」という写真はどれかありますか?
森定:山手線(東京)の新デザイン車両も撮影しましたね。まだ通常のダイヤでは走っていない車両。
山崎:試運転のときに撮りにいきました。2015年秋に運行開始といわれています。
───試運転や、開通前の新幹線車内の情報なんていったいどこから仕入れるのですか?
山崎:それは……“草の者”がいて情報網をはりめぐらせているわけですよ(笑)。
───忍者ですか(笑)。鉄道写真家さんには、私たち読者にはわからない裏の苦労がありそうです(笑)。
ちなみに、鉄道少年たちがぜひ知りたい!?撮影のコツがあればおしえてください。
山崎:基本的には順光で、列車の先頭部と側面の両方に光があたる場所を選びます。車両がきれいに見える割合は、先頭部が3で、車体が7。たとえば東西に走っている線路だったら、東に向かう列車の撮影には午前中が最適かなと。
自分たちは、電柱がうつり込まない、車両だけで切り抜ける写真にこだわって撮影しています。背景や電柱などを気にしなければ楽に撮れちゃうんですが、編成写真に対する僕のポリシーとして、そこは譲れません。
───もしかしてプロの鉄道写真家さんは……危険な場所で撮ることもありますか。
山崎:いっぱいありますよ(笑)。絶景ポイントの鉄道写真を撮影したいときは特に、落ちたらこれはまずいな……とかね。
でも鉄道ってほんとうに楽しいです。奥深いですし。形のおもしろさがあったり、しくみのむずかしさがあったり、いろんなものが組み合わさって「鉄道」なんですよね。単純に車両のかっこよさだけじゃなく、もっと奥深いものを知ってもらいたいですよね。
───最後に、絵本ナビ読者へメッセージをお願いします!
山崎:鉄道に興味がある子はもちろん、ぜんぜん興味がない子にむしろ見てもらいたい。鉄道ってこんなに楽しいんだと感じてもらえれば本望です。
森定:電車好きな子でも、「MOVE」の「鉄道」を見たら「これは知らなかったな」とか「もっと知りたいな」というページがあると思います。新幹線車両をクレーンで船から下ろすようすや、雪の北海道で活躍する「ササラ電車」、トラックがレールの上を走る「軌陸車(きりくしゃ)」など、臨場感あふれるDVD映像ともリンクしているところがたくさんありますからチェックしてみてください。
山崎:あと、知ってほしいのは、結局「鉄道は人が動かしている」ということですね。ふだん乗っているだけだとわからないと思うんですよねえ。
ただ車両名を覚えるための図鑑ではなく、ちょっとむずかしいしくみについても書いてありますから、鉄道に関心をもってもらえたら。「なんだろう?」と不思議に感じたらどんどん自分で調べたり、見たり、聞いたり。子どもたちが鉄道に親しむきっかけになってもらえたらなと思います。