●見返しに隠されたヒミツとは……?
───どのページも繊細なタッチで描き込まれていて、特に光の当たっている部分と影になっている部分の差が絶妙だと思いました。絵を描くときはどんな画材を使っているのですか?
画材は主に水彩色鉛筆を使って描いています。あとは、鉛筆や墨。影の部分は、日本画用の青い墨を使って描いているんですよ。絵を描く前に毎回小さい硯で墨を摺っています。
───墨を摺ってから絵を描くなんて、なんだか厳かな気持ちになりそうです。

光の入り方や、人工の光と月の光の色の違いなどは、特に意識して色を変えています。そうするようになったのは、編集者さんとのやり取りで、物語の終わり方を相談したとき、「おやすみ前の絵本だから、子どもたちがすんなり眠れるように、最後に不安や心配を入れることはしない方が良い」と言われたことから。そのときに「あ、おやすみ前の絵本を作っているんだ」と気づき、温かい感じの色になる様に墨の使い方には気を配りました。
───よく見ると、月明かりは家の光よりも白く、場面によって光の刺す位置も少しずつ変わっているんですね。夜のおはなしで、暗い色を使っているのに、怖い雰囲気がまったくしないのは、色使いや光の照らし方の工夫によるものだなんてはじめて知りました。
眠る前にエメラルドの絵本を読んで、ぱたんとページを閉じて眠りの世界に入っていってもらえたらいいなって思います。
───最後のページで眠っているエメラルドの姿がとても幸せそうで、安心して眠っているんだなと感じました。
安心して眠れることは、実はとっても大切なんですよね。私がそれを実感したのは2011年の東日本大震災のとき。震災直後、不安で夜眠れなくなってしまって、自分を落ち着けるために1日1枚絵を描くことを決めたんです。テーマは眠っている動物の絵。観た方が、力が抜けて眠たくなるようにと思いを込めて、ネットやツイッターにも毎日アップしていました。そうしたら、周りの方から感想が返ってくるようになって、私自身描くことで気持ちがだんだんと落ち着いてきたんです。結局、3か月間毎日描いて、100枚になったときに1冊の作品集にまとめました。
───そのときの眠りに対する思いが、この絵本の根底に流れているんですね。
そうですね。震災以降、色々な方が、色々な思いを発信しているのですが、私が言えることは、「安心して眠れるといいね」と言うこと。その願いが今回、編集者さんと出会ったことでエメラルドの絵本になったんだと思います。
───穏やかに眠るために絵を描くそのださんと、大好きな本を読んでもらうエメラルドの姿が、重なっている様に感じました。絵本の中ではエメラルドは最後までおはなしを聞くことがなくて、どんなラストなのかとても気になっていました。そうしたら、本の最後の見返しに、ちゃんと物語が載っていて! すごくお得な気分になりました。
エメラルドが大好きなおはなしが見返しに載っています。
これも編集者さんのアイデアなんです。元々考えていたおはなしは、載っているものよりずっと長かったのですが、2人で相談している間に、あれよあれよとまとまって、でも、とってもおもしろいおはなしになったので、おまけとして載せることにしました。
───次の日に、ガーネットから絵本のおしまいまでのストーリーを聞いたエメラルドがこぶたのきょうだいの家に行くのだと思うと、物語がまだまだ続きそうで楽しいですね。この、お姫様のおはなしが載っている見返し、よく見るとエメラルドが隠れているんですね!

いろんなポーズのエメラルドが蔦の間からのぞいています。
そうなんです。いろいろなポーズのエメラルドが、蔦模様のデザインの中からごあいさつをしています。どのエメラルドが好きか、みんなでワイワイ話してもらえたら嬉しいです。
───絵本の中だけでなく、見返しの細かい部分までこだわられているんですね! エメラルド色の表紙も、とても目を引くと思いました。
ありがとうございます。この表紙のデザインは、私が子どもの頃に大好きだった絵本の中でも、特に大人っぽいデザインのものをイメージしています。
───クラシカルな雰囲気で、海外の洋書みたいなオシャレさを感じます。
表紙の植物はオリーブと野ばら。姪っ子が『てぶくろ』が大好きなので、すこし意識しました。