●構想10年、制作5年。シリーズ最終作? ……かもしれない作品が完成しました。
───前回、「おしゃべりさん」シリーズのお話を聞きに伺ったとき、「たべものあいうえお」シリーズの新刊を制作しているというお話を伺っていました。それから約1年。ついに新刊が出版されるのですね!
はい。前回来ていただいたときはまだ絵を描いている途中でした(笑)。この作品は、ほかの絵本が出ている間も常に描き続けていたような気がしていたので、今全部描き終わって、出版を待つばかりになっているのがとてもふしぎです。
───常に描き続けていたというのは、どのくらい前からこの絵本の企画はスタートしていたのですか?
シリーズ2作目の『しりとりしましょ! たべものあいうえお』が出版されたのが、息子が3歳の頃でした。その頃におみせやさんにお買い物をしに行く構成で絵本を作ろうという企画は出ていたのです。息子は今年13歳なので、かれこれ10年くらい前から企画がスタートしていたことになりますね。
───10年! すごく長い間、温めてきた作品なんですね。お買い物をする絵本に決めたきっかけはなんだったのでしょうか?
その頃、よく遊びに来ていた姪っ子が『ピヨピヨスーパーマーケット』(作:工藤ノリコ、出版社:佼成出版社)が大好きで、私に「おばちゃんもこんなお店の絵本を描いて!」って言ったんです。それで、読んでみたら私も息子もはまってしまって、こんなおみせやさんが出てくる絵本を作りたいって思ったのがきっかけです。その姪っ子も今年で大学2回生になるんですよ(笑)。
───姪っ子さんも待望の絵本なんですね。今回、おみせやさんに並んでいる食べ物を探すことができるようになっていますが、この構成はすぐに決まったのですか?
いいえ。お買い物をテーマにすることは決めていたんですが、どういう形にするかがなかなか決まらなくて……。最初は、主人公を登場させて、おみせやさんでお買いものするようなことも考えたんです。でも、すぐに山のように買わなくてはいけないということに気づき、ボツになりました。その後も八百屋さんの店主は野菜にしたりとか、ふしぎなおみせやさんにしたりとか、いろいろ考えたのですが、もっと『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』のような、パッと見て楽しいと分かる内容にしたいと、編集者さんと何度もやり取りをして、今の形に固まりました。
ラフの一部を見せていただきました! 主人公が男の子で、豆腐屋さんの主人の顔がお豆腐になっています。
───何度もやり取りを重ねられている様子が伝わってきますね。
左のページにお店で売っている物が出てきて、次の見開きで探せるということが決まった後も、店主を人間にしてみたり、「木の実屋」とか「石屋」とか、ちょっとふしぎなお店を入れてみたり試行錯誤を重ねました。でも、店主を人間にすると、現実的になりすぎてしまって、キャラクターとの違和感が強くなってしまうので、動物に変えることにしました。
───この店主の動物たちがおみせやさんとすごくマッチしていますよね。「わんこ寿司」や「鹿野楽器店」、「喫茶ライオン」とか。いかにもありそうな店名だったり、ちょっと言葉遊びが入っているのも楽しいです。
動物とお店を合わせるのはイメージというか、感覚的なものもありました。ただ、肉屋さんだけはウシやブタを登場させると残酷になってしまうので他の動物に……と気を遣いました。おみせやさんに動物を当てはめる作業は楽しかったのですが、後半に行くにつれて、どんどんおみせやさんの店主になる動物が少なくなってきてしまって、そこは苦労しましたね。
にくやさん
───商店街に出てくるお店を選ぶのは大変でしたか?
そうですね、最初にお店の名前をバーッと出していって、そこから削っていく作業を行いました。いろんなお店を出したかったんですけど、ページ数は限られているので、お店を絞り込んでいく作業は思っていたより大変でした。主要なお店を入れていったら、ふしぎなお店が入らなくなってしまったのがちょっと残念でした。
───さいとうさんの描く「木の実屋さん」や「石屋さん」を見てみたかったです。お店のラインナップが決まってから、すぐに絵を描く作業に入ったのでしょうか?
下絵を描く前にお店のラインナップを決めるときから集めていた資料をまとめる作業をしました。お店の店構えや品物の陳列など、見てみないと分からないものは、実際の商店街に出かけていって、お店で撮影をさせてもらいました。これがその資料の一部です。
おみせやさんを描くための資料の一部。
───え?! こんなに山ほど資料を集めたんですか?
今はネットで検索すればいろんなお店の様子を見ることができるので、とても便利になりましたよね。『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』のときは、インターネットがそれほど普及していなかったので、食べ物を実際に買ってきて描いたりするのがとても大変でしたから……。
───それでも、この資料の量はすごいです。それぞれのお店にはモデルとなった実際のお店はあるのですか?
ひとつのお店を描くために何軒もお店を見せてもらったり、写真を撮らせてもらったりしたのですが、「これはそのまま絵本に載せられる!」というお店はめったにありませんでした。絵本に出てくるおみせやさんは、私が取材したものやネットで見たものの外観や内観、陳列棚の様子、お店の雰囲気など要素を少しずつ取り入れて、オリジナルのおみせやさんとして描いています。あ、お豆腐屋さんは、お店の雰囲気や店主のおじさんのキャラクターがイメージとピッタリだったので、取材に行ったお店をそのままモデルにさせてもらいました。
とうふやさん
───このラフが仕上がるのに、どのくらい時間がかかったのですか?
詳しくは覚えていないのですが、ラフができるまで1年くらいかかったんじゃないかと思っています。登場するおみせやさんが決まってからも、お店の順番をどうするか、お休み中のおみせやさんは何屋さんにするかなど、編集者さんと話し合いを重ねて、さらにラフをブラッシュアップしていきました。最後の展開もそのやり取りの中で生まれたんです。
───そうなんですか? すごく自然にラストの盛り上がりができていたので、最初から決まっていたのかと思いました。
最初は単純にそれぞれのお店を紹介して日が暮れるという流れだったんですけど、「臨時休業」や「いっぱいではいれない」というお店も出したくなってきて、そうすると何か理由がなければ……と考えていく中でこのラストが誕生したんです。
───前のお店にいたお客さんが別のお店にいたり、お店の店主さんが他のページでお客さんになっていたり。ページをまたいでおはなしを探すのもこの作品の楽しみ方だと思うのですが、描くのは大変ではありませんでしたか?
もう、大変で大変で……(笑)。この子は前のお店でショッピングをしていたから、このページでは買った品物の紙袋を持たせなくっちゃ……とか考えているうちに、いろいろ忘れてしまうので、最終的に表を書いて机に貼っていました。
店名と店主、お客さん、そのほか、描くものを表にまとめてあります。とっても細かい!
───この表もとても細かく書かれていて圧倒されます。