絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  『ヨーレのクマー』宮部みゆきさん × 佐竹美保さん 対談インタビュー

───全ページにわたり壮大な風景が広がっていますが、中でも、いちばん気に入っていらっしゃる場面はどこでしょうか。

宮部:もう、全部! 最初にコピーをもらって、足跡が出てきたとき、すごく嬉しかったですね。あ、クマーの足跡! 歩いてるー! って。本当に愛おしいですね。

KADOKAWA編集部):この足跡、裏面にも、うっすらと続いているんです。

宮部:あ、本当だ! こっちまで来てる。

佐竹:遊ばないとね。せっかくなんだから。こういうとこで遊ぶの大好き。

───佐竹さんはいかがですか?

佐竹:やっぱり表紙。

KADOKAWA編集部):クマーの顔が水面に映った絵も、とても気に入ってらっしゃると仰っていたような気が……。

佐竹:この絵もね、「うん、うまくいった!」ってところです。

宮部:この目が、もう泣いてるみたいに見えるんですよね。ショックが表れてる。

佐竹:水モノを描くときは、やっぱり状況が大切。その水が、川なのか海なのか。湖には波はないわけだし、風でこう……。

宮部:こうザーッとはなってもね、寄せて返すわけではないですもんね。

佐竹:琵琶湖とか瀬戸内海とか、静かな水面って意外と難しいんです。川の流れや荒れた海は調子でなんとか出せるけど。水モノを描くときの、ゆがみは難しい……。私、今、週六ぐらいで銭湯行ってるんです。銭湯につかりながら、みんな入ってくるとワーッて揺れるじゃないですか。それが意外とね、役に立って(笑)。水面に映ったものが、どういうふうにゆがむか。

宮部:なるほど。フィヨルドに行かなくても、大丈夫!

佐竹:そう(笑)。クマーが自分の姿を見るときも、水面が鏡のようだったらクマーのまんまだけど、ゆがみがあるからこそ、恐ろしい姿に映るというか。なので、きっとこれぐらいのゆがみ具合かなと。

宮部:本当に、心の動揺、ショックがそのままこの絵に表れてる。

佐竹:あともう一枚は……この絵ね。これ描いたときに、あ、クマーは本当にこのフィヨルドが好きなんだなって感じたんです。

宮部:寂しいですよね。本当に一人ぼっちの感じがする。

佐竹:ねえ。人間のために一生懸命、怪獣退治してきたのにね。

KADOKAWA編集部):文字の配置がだんだん下がっていて、「クマーが下りていって、岸辺に着く」様子を表しています。

宮部:うんうん。そうだね、配置がね。

佐竹:ああ。そうか、すごい。素晴らしい。

宮部:絵本だと文章も絵の要素の一つなのね。

佐竹:そうだ、私、一番気に入ったの、このタイトルロゴ。

宮部:これ素敵ですよね。

佐竹:これで、バチッと突き抜けるんです。

宮部:うん。このフォントと配置。

佐竹:そうそうそう。

宮部:フォントがほかのものだったら違ってしまうんです。もうちょっと丸みのあるフォントだと、この作品の持ってる、何ていうんだろう、厳しさみたいなものがきっと出ないと思うんですよね。

佐竹:うんうん。すごいなって思った。

宮部:鳥肌が立っちゃう。

宮部:私は、こっちの絵も。これは本当に映画のよう。クマーの悲しみが出てますよね。それに、おじいさんの顔も何気に好きなんです。凛々しいですよね。

佐竹:ここ、塗るの大変でした。

宮部:ああー! 毛の、もふもふ感ですよね。

佐竹:普通はマスキングして、それでジャーッとやっちゃうんだけど、それができなかったので。

宮部:で、この絵にも、またリスがいる(笑)。前のページでもビックリしてるし(笑)。木の葉の部分も、全部グラデーションが入ってて。

佐竹:この絵ね、私の住んでるビルの中庭――大家さんの中庭に、すごく大きな木があって。それが、窓から見えるんです。そうやって、なんとなく見えるいろんなものを参考にしながら。

宮部:孫娘もかわいい。ふっくらした、このスカートがねぇ。

KADOKAWA編集部):この孫娘が大きくなって……最後のほうでお母さんになっているんです。

宮部:このお母さんになってるのね! クマちゃんにも子どもが……。

(KADOKAWA編集部):フクロウにも子どもが(笑)。

宮部:わ、本当だ!

佐竹:よく探すと何かがいるっていうのが好きなんです。

───ぜひ、読者の方には、こうした いろいろな”遊び“も探しながらページをめくっていただきたいですね!

───最後に、この絵本にこめた思いを、お二人にお伺いします。

宮部:私はこれが生涯二冊目の絵本なんですよ。一冊目は『悪い本』(岩崎書店)という「怪談えほん」という企画の中の一冊で、そちらも吉田尚令さんという大変な腕利きの絵本作家の方が描いてくださって。だから私、すごく恵まれてるんです。二冊とも、本当に大きなご褒美をいただきました。で、二度あることは三度あるというから、三冊目も絵本を出してもらえるように、何か絵本のタネがないかなって、今、思っています。

───佐竹さんはいかがですか?

佐竹:いや、本当に楽しかった。よくぞ私に描かせてくださった、というか。やっぱり絵本作家の方ってすごいなって心から思います。でも、私も挿絵をずっとやってきたからこそ、何かできる絵を描けたらなって挑戦して、失敗しなかった(笑)。

宮部:いや、本当に素晴らしいです。嬉しい一冊ですね。幸せです。長いことやってきてよかったなと思って。

佐竹:いや、そう思わないほうがいいですよ。

宮部:そうですか?

佐竹:これからです。絵本、もっともっとおやりになったらいいんじゃないですか。

宮部:子どもたちにも読んでもらえるようにしようという意識が明確になってきたのは、二十一世紀に入ってからなんです。児童書のレーベルに既存の作品を出したりしています。まだまだこれからね、試してみたいこともあるんですけど。

佐竹:子ども用だからかわいいとか、そういうんじゃなくて。もっとつっこんで、怖いものは怖いとか、今までにない子どもへのアピールをするのが面白いと思います。

宮部:はい、そうしたいですね。結局、長く残って読まれてるものって、実は児童書というかヤングアダルト作品が多いじゃないですか。私はスタートがミステリー作家で、今でもDNAはミステリー作家だと思うんですけど、もともとすごく自分が好きなものが児童書や、ヤングアダルト――挿絵がついているものも、好きなものですから。

佐竹:私も、児童書から来たんじゃなくて、もともとはSFと怪奇。

宮部:あ、そうですか!

佐竹:児童書出身じゃないので、児童書で怖い話や、怪物が出たり、本当に気持ちの悪い話、そういうのは私、容赦しないんですよね(笑)。でも、容赦はしないけれど、怖いものにも悲しい部分があるっていうのをちょっとにじませていきたいんです。これは、児童書で学んだこと。

宮部:私も、英米の恐怖小説が好きで読み始めたのが一番最初でした。そういう部分が今でも残ってるので、江戸怪談もずっと書いてますし、『悲嘆の門』にも、かなりホラー的な部分も作ったんです。だから、もしかすると今回ご縁があったのは、そういうDNAで感応するものがあったからかもしれません。

───今日、お二人には共通点がたくさんあって、運命的ですね。

宮部:運命の出会いでした!

佐竹:嬉しかった(笑)。結局、本当に何でも引き受けてるから、いろいろけっこう引き出しにあるというか。

宮部:私、最近、「もう自分はトシだから」ってよく言うんですけど、それはね、むしろ、そういう今の自分が嬉しいからなんです。もう気分的に半分隠居のような感じ。仕事はしたいし、まだやりたいこともあるんだけど……ただもう、あんまり細かいこととか難しいことが気にならなくなってきて、「トシ取ると楽しいよ」っていう感じなんです。そうなってきて、こんな素晴らしい仕事ができると、本当にハッピーですね。

佐竹:本当に、嬉しかった!

───宮部さん、佐竹さん、長いお時間本当にありがとうございました!

佐竹さんが描いたお二人のイラストを公開!

佐竹さんの描いた貴重な似顔絵イラスト(左が佐竹さん、右が宮部さん)。

対談でのお二人の和やかな空気が伝わってくるようですね。

聞き手・構成:KADOKAWA編集部

ページ制作・デザイン:絵本ナビ編集部

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宮部みゆき(みやべみゆき)

  • 1960年東京都生まれ。東京都立墨田川高校卒業。法律事務所等に勤務の後、87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。92年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞長編部門、『本所深川ふしぎ草紙』で吉川英治文学新人賞、93年『火車』で山本周五郎賞、97年『蒲生邸事件』で日本SF大賞、99年『理由』で直木賞、2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。02年司馬遼太郎賞と芸術選奨文部科学大臣賞文学部門、07年『名もなき毒』で吉川英治文学賞、08年英語版『BRAVE STORY』でThe Batchelder Awardを受賞。

佐竹美保(さたけみほ)

  • デザイン科を卒業後、上京。SF・ファンタジーの分野で多数の作品を手がける。主な仕事に『虚空の旅人』『蒼路の旅人』『不思議を売る男』『宝島』『幽霊の恋人たち』『西遊記』『フランダースの犬』『魔法使いハウルと火の悪魔』『ローワンと魔法の地図』などがある。

作品紹介

ヨーレのクマー
ヨーレのクマーの試し読みができます!
作:宮部 みゆき
絵:佐竹 美保
出版社:KADOKAWA
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