絵本『うし』(アリス館)は、くりかえしの言葉のリズムがなんともクセになる、楽しいナンセンス絵本です。この作品を手掛けたのは「ともだちや」シリーズ(偕成社)で人気の絵詞(えことば)作家・内田麟太郎さんと、人気絵本作家・高畠純さん。今回、内田麟太郎さん、高畠純さん、そして絵本ナビの金柿秀幸代表との鼎談が実現しました。会場は、うし柄のテーブルクロスに、大型の特製“うし”牛乳パック。そして、周りをぐるっと囲むうし……と、“うし感”あふれるインタビューをお楽しみください。
●内田麟太郎×高畠純、夢のコンビによるナンセンス絵本が誕生!
───『うし』は、「うし うしろをふりかえった うしがいた そのうしろのうしもうしろをふりかえった うしがいた……」と、どんどん続いていく牛の様子が笑いを誘う、とても楽しい絵本だと思います。金柿さんは、最初に読んだときどのように感じましたか?
金柿:そうですね。私は高校2年生の娘がいるんですが、ちょうどこの間、娘と妻と一緒にいるときにこの『うし』を読みました。娘は高畠純さんが絵を描かれた『だじゃれどうぶつえん』(文:中川ひろたか、絵本館)の大ファンで、表紙の牛のとぼけた表情を見たときから、すでにワクワクしていました。それで、読み進めていくと3人ともオチがどんなんだろう……って考えはじめるんですよね。「きっと、“うっしっし”で終わるんじゃいかな?」って思っていたんです。でも、ラストは全然違っていて……。オチが着た瞬間に「えーー!」ってのけぞって、3人で大笑いしちゃいました。
絵本ナビ 金柿秀幸代表
内田:それは嬉しいですねぇ。
金柿:ひとしきり笑って、落ち着いて考えると、絵本を囲んで、家族で大笑いできるというのは、とても価値があることだなぁって。うちの子はもう大きくなりましたが、小さいころは、絵本を読んで大笑いする瞬間がたくさんありました。ただ楽しくて笑うことで、家族のコミュニケーションが取れる、『うし』はそんな貴重な体験の出来る絵本だと思いました。
だから今日、内田さんにいろいろとお話を伺いたいと思いました。そもそも、どうしてこのおはなしを書いたのですか?
内田:この「うし」という詩は「こども文学の実験 ざわざわ」(四季の森社)という季刊誌に掲載したのが初出でした。この詩を書いたときから「これは絵本になる!」と思っていて、自分でページごとに文章を置いてみる「場面割り」までしていたんです。でも、7場面ぐらいで挫折。
内田麟太郎さん
金柿:どうしてですか?
内田:だって牛だけしか出てこない絵本を出す出版社なんていないでしょう(笑)。絵本にならないなら、場面割をしても仕方ないってあきらめたんです。そうしたら、アリス館の編集者さんから「内田さん、『うし』という詩はまだどの出版社も絵本にしていませんか?」って連絡がきました。「まだですよ」と答えたら、「では、うちで絵本にさせてください」っていうから、ビックリ! 慌てて、「これは絵本にならないから、やめなさい」って言ったんです。
───断っちゃったんですか?
内田:丑年でもない限り、売れるはずないって思っていましたから。でも、なぜかアリス館の編集会議に通ってしまったようで、正式にアリス館さんから出版されることに決まりました。
金柿:そのときから、絵は高畠純さんにお願いする予定だったんですか?
内田:そうですね。「うし」の詩を絵本にしたいと思ったときから、ぼくの中の絵のイメージは、ずっと高畠純さん。でも、お忙しい方だから、引き受けていただけるか、そのときはまだわかりませんでした。
金柿:内田麟太郎さんの詩と高畠純さんの絵。まさに夢のコンビですよね。