●ユーモアをひっこめるほうがよっぽど悪いと思うようになった。
───岩瀬書店八木田店(福島市)での絵本ライブ、大人も子どもも大盛り上がりでした! 長谷川さんは、以前、郡山の小学校でもイベントをされたことがあるそうですね。
震災の直後でしたね。原発事故後、外で遊べないので、子どもたちのストレスが溜まっているということで、小学校からお手紙をもらって行きました。『大阪うまいもんのうた』(佼成出版社)みたいに、「福島うまいもんのうた」をみんなで作ろか〜といって、子どもたちと一緒に作ったら、みんなえらい喜んでくれて。それがきっかけで『東北んめえもんのうた』(佼成出版社)を出版することになったんです。福島は、そういう思い入れもある場所ですね。
───今日の読み聞かせライブでも『だじゃれ日本一周』の福島県のところで、みんな大笑いでした。
「おしりをきれいにふくしまけん」って、たいがい失礼なんやけど(笑)
───やっぱり自分の住んでいる県が読まれると嬉しいですよね。2009年に『だじゃれ日本一周』が発売されてから、8年後の2017年、『だじゃれ世界一周』が発売されました。「世界一周」はどのような経緯で出版されたのですか?
『だじゃれ日本一周』が出版された当時、とても良い調子で重版を重ねたので、担当編集者と「次は世界一周やねえ」と言って、盛り上がっていたんです。でも実際は、そのあと本を作るまで7年くらいかかりました。
───7年かかったのには、どんな理由があったのでしょうか。
世界はその間ずっと、ややこしい国際紛争や戦争、対立するようないろんなことをやっていて。
まず、そういう状況で、世界の国名をだじゃれにして遊んだりしたら怒られんちゃうかと思ったことがあります。
───絵本にすることを悩まれていた…?
うん。最初は「そんなこと言ってたら出されへんで」と編集者さんと話したりしていたけど、だんだん僕も、テロやいろんな恐ろしい出来事がいっぱい起こっている中で、この絵本を出していいものか…と。
───それでも『だじゃれ世界一周』を出版しようと思ったのは、気持ちの変化があったのでしょうか。
そう。ユーモアをひっこめるほうがよっぽど悪いと思うようになった。やっぱりだじゃれにしたからって、ほかの国を馬鹿にしているわけでもないし、ユーモアを怖がって封印するほうが、よっぽど物を言わない怖い世の中になると思ったんです。
───『だじゃれ日本一周』でも制作のおはなしを伺いましたが(過去のインタビューはこちら>>)、実際に「世界一周」を作ることが決まったとき、うれしい気持ちと「また大変な作業がはじまる!」という気持ちどちらが大きかったですか?
いや、もう、これはすごく大変ですから。だじゃれ考えるのも絵を描くのも、ものすごく大変なんですよ。
───「世界一周」は49ヶ国の国名のだじゃれということで、「日本一周」の47都道府県の数以上にだじゃれを作られていますね。
日本一周では、47都道府県を網羅するのが大変でしたが、世界の国の数はたくさんあるので、僕がだじゃれにできる国名を中から選んで作っていったんだけど、最後のほうに作っただじゃれは苦労しましたね。「日本一周」のときのやり方と一緒ですが、絞り出しただじゃれを、掛け合いにするためにカップリングしていく作業がまた一苦労で……。組み合わせがなければ、新しい国名でだじゃれを考えないといけなかったり。
───世界の国名の選択肢が多い分、どの国名を選ぶのかが、かえって難しそうです。
そうそう。そうなんです。
───制作をはじめたのはいつごろからですか?
だじゃれ自体は、5~6年前に考えたものを忘れないようにダーッとメモ帳に書いて、そのまま放置してあったんです。そのノートもどこか行ったんちゃうかと思った頃に、やっとひっぱり出してみたら、ええだじゃれがいっぱい書いてありましたねえ。
───中でも長谷川さんのお気に入りのだじゃれはどれですか?
「シュート うつべきでしたん?」っていうのはね、本を作るのと関係ないときから、考えとってん。サッカーで日本代表とウズベキスタンの試合があったときに、「シュート、ウズベキでしたん?」って、ええシャレやなーと。思いついたとき、気持ち良かった(笑)。
───遠く離れたタンザニアとウズベキスタンの人が、シュートのことでやりとりしているのが面白いです。「いいかんがえ うがんだ!」(ウガンダ)や、「はらぐあい わるいんです」(パラグアイ)、など、絵本ナビスタッフの間でもお気に入りのだじゃれがそれぞれあって、読んでいて盛り上がりました。
「はらぐあい わるいんです」面白いでしょ?(笑)スパッと決まってるだじゃれより、ちょっと苦しいだじゃれのほうが人は喜ぶんです。
───「ん?」と、一瞬考えるのが面白いんですね。登場する国の順番は、どうやって決めていったのですか?
それもまた難しかったですね。どの順番にするか、野球の打順を決めるように考えていきました。一冊の中で、リズムがあるのでね。徐々に盛り上がっていって、ちょっと落ち着いたところがあったり。並べてみて、前後のページを入れ替えたりしながら決めました。
───絵本の最後へ向かう展開、「もうだじゃれ でんまーく」から「まだ あるじぇりあ」「ないじぇりあ」と続く、畳みかけるような流れがすごいですね。
そこから続く「がんばったから じゃまーいーか」(ジャマイカ)というラストは、うまいこと決まったと思います。