●願いをこめて、犬をとおして人を描く
───「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズは、じんぺいが「おれにまかせろ」と、全巻とおして揺るがなく存在しつづけることに勇気づけられます。
読者の方から、20代の苦しいときにじんぺいの絵本を読んですごく救われました、今でも宝物ですって手紙をいただいたこともあります。
たとえば『こんにちは いぬ』の中で、犬をつれて散歩している人がじんぺいを見るたびに「おおきいね。ひゃくさい ぐらい? せなかに のれる?」とか、「うわあ かっこいい!」とか、「おおかみ?」「おお こわい。あっちに いこうね」とか言って、言われるたびにゆうたは困惑したり、喜んだりしょんぼりしたりしますよね。
それで最後にじんぺいがこう言うでしょう。「ゆうた ひとの いうこと なんか きにするな。おれは おれだ」って。
「ゆうた ひとの いうこと なんか きにするな。おれは おれだ。」(『こんにちは いぬ』より)
みんな褒められたりけなされたり、いろいろあると思うの。他人はいろんなこと言うけれど、だからってそのものの本質は何も変わらないんです。じんぺいはじんぺいだし、ゆうたはゆうた。ほめられたからって別にえらくなるわけじゃないし、けなされたって、何かが変わるわけじゃない。これはわたしが言いたかったことなんです。
人って、自分を知るということが、人生でいちばん大事なことだと思うのね。たとえば世間の価値観や、周囲の言葉にまどわされて、仕事を選んだり、進む道を決めたりすることもあるんじゃないかなと思うの。でも、本当は別なところにその人のたましいがいちばん喜ぶことがあるかもしれないじゃない。
結局、わたしは犬をとおして、人を描いているんです。「こうあってほしい」という願いをこめて。わたしの目線はずーっとじんぺいの目線なの。犬をとおして人を描くことで、人って何なのかがわかる。
(『別巻 じんぺいの絵日記2 ともだちがきた』より)
わたしが描いた『りっぱな犬になる方法』(理論社)という本(*)は、小学生くらいの子どもが本気で犬になろうと思ったときにちゃんと犬になれる本をつくろうね、と、編集者さんとまじめに話しあって、作った本なんです。人以外のものになろうとしたときに、はじめて「人間って何なのか」が客観的にわかるんだと思います。
*1992年に発売された『りっぱな犬になる方法』は20万部以上のロングセラーに。現在は『イスとイヌの見分け方』をプラスした厚めの絵本として、合本新装版『りっぱな犬になる方法+1』(理論社)を刊行中。
───だから「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズを読むと「友だち」って何なのか、「家族」って何なのかを考えるのかもしれませんね。
「いぬうえくんとくまざわくん」のシリーズも、くまざわくんの家にいぬうえくんが転がり込んできて、同居がはじまるでしょう。そうするとくまざわくんにとって、今までは普通だったことが、当たり前じゃなくなるんです。今までくまざわくんは当然のように魚を捕っていたけど、もしかして自分は魚を捕るのが上手なんじゃないかとくまざわくんが気づきます。
「いぬうえくんとくまざわくん」の幼年童話シリーズ
他者がいることで、自分というものが際立つ。どんなに大事なことを忘れていたって、自分1人なら忘れていることさえもわからない。自分以外の存在によって、「あ、自分は忘れっぽかったんだ」とわかる(笑)。自己認識は、他者があってはじめて成り立つのよね。
───きたやまさんの作品は、他者がいることによって自分を知るけれど、それぞれが互いを侵し合わないですね。やりとりにすごくユーモアがあって……。そんなところが魅力なんだなと思います。
他者は、自分じゃないわけだから、100%同じなんてありえないですよね。でも、誰かとちょっとだけ重なる部分があって、お互い響きあったり、理解しあう部分があって……。それは人生でいちばんの喜びだと思うの。響きあえる存在に出会えたときがいちばん嬉しいんじゃないかなと思うのね。
なぜ本を読むかって、やっぱり本を読むことで、人は響きあうものを探しているんだと思うんです。人生は限られているから……だけど本の中では、会えない人にも会えるじゃない。現実の世界以上にたくさんのものに出会える。それだけ豊かになるじゃない?
だから、ね(インタビューをしている取材チームに向かって語りかけるように)、いい本を読むのよ?(笑)
───本当にそうですね……。最後に「ゆうたくんちのいばりいぬ」のシリーズをどんなふうに楽しんでほしいか、絵本ナビ読者にメッセージをお願いします。
3歳は3歳の、20歳は20歳の、84歳は84歳の人生経験で、それぞれに絵本を楽しんでもらえたらなと思います。出会ってきたもの、感じてきたこと、考えたことを下敷きにして、ひとりひとりの方が自由に絵本をあじわってほしいです。
そして、わたしがこの本の中で描きたかったものとちょっとでも接点があれば嬉しい。ぴったり重なるなんて、あるはずないんだから、隙間があるけど少しくっついていたり、一部重なっていたり……そんなふうにして、わたしが描いたことと、読んでくださった方との間に、ちょっとでも行き来ができれば嬉しいなあと思います。
───ありがとうございました!
●【おまけ】編集後記的裏話(1)
『ゆうたのおばあちゃん』の中で、おやっ!?と発見。おばあちゃんがゆうたに読んであげている絵本は……『ねこぼうとふらわあちゃん』!?
きたやまようこさんが幼児雑誌「たのしい幼稚園」(講談社)に長年連載中の「うわさのようちえん」から生まれた、新刊絵本『ねこぼうとふらわあちゃん』(講談社)なのでした!(『ゆうたのおじいちゃん』『ゆうたのおばあちゃん』とほぼ同時期発売!)
- ねこぼうとふらわあちゃん
- 作:きたやま ようこ
- 出版社:講談社
「たのしい幼稚園」の好評連載「うわさのようちえん」が絵本になりました! ふらわあちゃんと、ねこぼうのおはなしを厳選。友だち、先生、姉妹、それぞれのかかわりで、素敵なことをみつけていく二人。みどり先生のひとことに、心が温かくなります。
「おばあちゃん ほんを よむ。」(『ゆうたのおばあちゃん』より)
インタビューの中で、「なぜ、きたやまさんは、そんなふうに子どもや犬の気持ちになれるのでしょうか?」とたずねると、「いつでも、どんなものでも、誰の気持ちにでもなれるよ」と即答。
なるほど納得、『ねこぼうとふらわあちゃん』に登場するのも、とっても自由で個性的な子ばかりなんです。水の入ったコップの顔(中にめだかがいる?)のめだかっぷくん、四角い箱形のぼっくすくん、卵形のらんらんちゃん……。眺めていると、心がのびのび、ウキウキしてきちゃいます。きたやまようこさんがつくり出すキャラクターの魅力をあらためて感じました。
●YouTube「講談社絵本通信」チャンネルに、きたやまさんがねこぼう・ふらわあちゃん・じんぺいを特別に描き下ろした様子の動画がアップされています。ぜひご覧ください!

●【おまけ】編集後記的裏話(2)
今回の取材はアトリエにお邪魔しました。きたやまようこさんの雰囲気やお話、あまりの居心地のよさに取材チーム一同うっとり。そして、りんごがたっぷり入ったシナモンの香りのするフルーツティーや、インタビュー終了後に登場した、サツマイモとりんごをフライパンで焼き、生クリームとバターのソースがかかった手作りおやつに感動!!
実はきたやまさんのお宅は、昔からお客様の多い家で、居心地がいいからといろんな方が泊まっていくのだそうです(お孫さんの友人たちも!)。
現在きたやまさんと一緒に暮らす、保護センターから引き取ったという犬のサンシロウくんにもご挨拶でき、素敵なティータイムに、お仕事で伺ったことを忘れそうになってしまう取材チーム一同でした。きたやまさん、ありがとうございました。
ぬいぐるみたちもテーブルで一緒に……麗しのおやつタイム。
いばりいぬじんぺいと、ゆうたのお人形。抱きしめたいくらい可愛い!

文・構成: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)
撮影: 所 靖子