「つんく♂」と聞くと、大人の方はどんなイメージが浮かぶでしょうか?
ロックバンド「シャ乱Q」のボーカル? 「モーニング娘。」「ハロー!プロジェクト」などアイドルグループの名プロデューサー? 子どもと一緒にNHK Eテレの「いないいないばあっ!」を観ているパパママは、「ソラハアオイヨ」や「まる、まるっ」の作曲家というイメージを持っているかもしれませんね。
そんないろいろな顔を持つ、つんく♂さんが新しい表現の場として「絵本」を選びました。新作『ねぇ、ママ? 僕のお願い!』(双葉社)は、男の子とママの会話で進むやり取りがとても温かく、「息子の小学生時代を思い出して反省し、涙しました」「子どもの成長がかわいい! 自分の子どももいつかこんなふうになるのかな」というメッセージが寄せられています。
実はこの絵本、5月に完成していたものの、新型コロナウイルスの影響で発売が延びてしまうという憂き目に遭いました。しかし、つんく♂さんはその間に、外に出ることのできない子どもたちに向けて、「絵本動画を無料公開」「読み聞かせが気軽に楽しめるようBGM だけが入った動画を無料公開」「絵本の英語版も無料公開」と太っ腹な企画を多数実施。インターネット上でとても話題になりました。
今回のインタビューでは、絵本を作ろうと思ったきっかけをはじめ、絵本を作る中での発見や苦労、絵本動画無料公開に踏み切った心境など、いろいろお聞きしました。
- ねぇ、ママ?僕のお願い!
- 著:つんく♂
画:なかがわみさこ - 出版社:双葉社
つんく♂初のプロデュース絵本。 『シャ乱Q』や『モーニング娘。』など、歌で日本を元気づけてきたつんく♂が初めて紡いだ母と子の心温まるストーリー。イラストレーター・なかがわみさこの優しいタッチのイラストが加わり、さらなる感動を呼びます。 これまでも「歌詞」で高い共感を得てきたつんく♂。発売前に公開された絵本動画も、多くの号泣コメントが寄せられました。 「心温まり、涙が出てきました。頭ごなしに怒っちゃうこともあるけど、やっぱりなにより癒しをくれるのは子どもなんだって再確認できました」 「とっても素敵なお話。世界中が暗いニュースのなか、心がほっこりしました」 「最近怒りすぎたかな、明日は笑顔でいようと涙しました。そしたら息子が笑顔で寝る前に耳元で“僕は今日みたいなママが好き”って。ありがとう」 「絵がほんわかタッチで、うるうる。涙で心がお洗濯されちゃいました」 「僕」と「ママ」のやり取りに、自身の子育ての喜び、苦労を重ね、きっと涙するはず。子育てをするすべての人が、子どもからたくさんの勇気と笑顔をもらえる絵本です。
●手に取った人が記念として、大切に持っていたくなるような絵本を作りたい。
───絵本『ねぇ、ママ? 僕のお願い!』の出版、おめでとうございます。絵本ナビスタッフの中にも、つんく♂さんの音楽で青春時代を過ごした人が多く、とても話題になっていました。最初にお聞きしたいのは、作詞・作曲家、プロデューサーとして活躍されているつんく♂さんが、なぜ今、絵本を出版しようと思ったのかということです。
僕は今まで音楽というジャンルを通して、様々なメッセージを世の中に発信してきました。そして時には著作やインタビューという形で、自分の想いを文章にして伝えてきました。そんな僕の過去の作品を読んで、「つんく♂さんのその思いをぜひ絵本にしませんか?」と声をかけてきた人がいたんです。それが、双葉社の片桐彫会さんでした。
───絵本のオファーを受けたとき、どう思いましたか?
僕は絵が上手に描けるわけでもないし、どうしようかと考えました。僕にとって絵本は未経験のジャンルで、「小さい子の為のもの」という意味で理解していました。それでも、進めていけば何か見いだせるのではないかと、片桐さんと何度もミーティングを重ねていきました。
そして途中から、僕の著書『一番になる人』(サンマーク出版)を担当してくれた、編集者の高橋朋宏さんにも加わっていただき、絵本制作について、本格的に話を進めていきました。
───高橋朋宏さんは、『病気にならない生き方』や『人生がときめく片づけの魔法』(共にサンマーク出版)などを編集した方ですね。打ち合わせでは、どんな話をしたのですか?
お互いの子育て話も含めて雑談も多かったですね(笑)。その中で、小さな子どもが読むためだけでなく、その親や祖父母まで楽しめるメモリアルになるような絵本が良いのでは、という結論にたどり着きました。
たしかに、昨今は、製本された本を買う必要の無い時代かもしれません。新しい情報はネットにたくさん載っていますし、紙の本よりサブスクのレンタル本やYoutubeやアプリで動画を見る子の方が多いでしょう。
そんなご時世にわざわざ本にするのだから、手に取った人が記念として、大切に持っていていたくなるような、そんな絵本にしたいなって思いました。
───『ねえ、ママ? 僕のお願い!』は、男の子とママの会話でおはなしが進んでいきます。母の日のプレゼントを買いたい思いをヒミツにしながら、一緒に買い物に出かけたいとママに声をかける「僕」がとてもかわいくて、でもなかなかママに気持ちが伝わらないところが切なくて……、読み進めるほどに「がんばれ!」と応援したくなりました。このおはなしのエピソードにはモデルがあるのでしょうか?
今、僕は家族と共にハワイで生活しています。とはいえ、僕は日本での仕事もあるので、ハワイと日本を行ったり来たりしています。
そんな生活の中、昨年の話です。
僕はちょうど仕事で日本にいました。当時11歳になったばかりの僕の長男が急に思い立って母の日の直前にママへのプレゼントを買いたくなった、そんなエピソードが原案です。
ハワイでは子どもが保護者なしで出歩くことができません。
したがって、彼も単独で消しゴムひとつ、買い出しにでかけることは出来なかったわけです。
そういう状況下で僕が居ないハワイで、ママにプレゼントを買いに行きたい!
そんな気持ちがこの作品を生み出しました。
───男の子の心の声は文字の大きさやフォントが変わっていて、実際の言葉と心の声の違いがとても良く分かります。子どもって、実際に話している言葉以上に、心の中でいろいろ考えているんだろうな……と、ハッとしました。心の声を入れる表現をしようと思ったのはなぜですか?
男の子の心の中は女性にはなかなか理解してもらえないように思います。 なので、男の子の気持ちを文字にしました。
───なかがわみさこさんの繊細な線画が、男の子の心情に優しく寄り添っていて、おはなしがさらに愛おしく感じました。なかがわさんのことは以前からご存知だったのですか?
いえ、今回の作品を作るにあたってたくさんの作家さんを紹介していただきました。
そんな中で彼女の絵を見てとても気に入り、お声がけさせていただきました。快諾いただき、嬉しく思っています。これもひとえに縁だと思います。
───なかがわさんに絵を依頼するときに、事前にお願いしたことなどはありましたか?
最初は特に何も話さなかったように思います。文に合わせて絵を描いていただき、とても気に入りました。ただ単にこの文章、物語がどの国の言語に翻訳されても成立するような絵にしてほしい。ということは伝えさせていただきました。
結果的には、世界のたくさんの国すべてに対応することは無理かもしれません。
今思えば超むちゃぶりですが、最終的にはアメリカ、ヨーロッパの人が読んでも違和感ないようにお願いします。と伝えさせてもらいました。
(エプロンとか服装やテーブルに置いてありそうなものがそれですね。)
───ママの表情をあえて描かないように構図を工夫されているように感じました。表情を描かないようにつんく♂さんから依頼されたのでしょうか?
表情というか、ママの出る回数はしぼりました。少年の言葉数の方が断然多いんですが、それでもママが出てくるとママのインパクトが強くなるので、前半のママの出現率と、さらにそのときの顔(表情)はわからないように描いてもらいました。
───雲に乗っている場面の「僕」の表情がとても心地よさそうで印象的でした。このアイディアはどのように生まれたのでしょうか?
これ、イメージは「アルプスの少女ハイジ」のオープニング、空のブランコに乗ってるイメージです! 世代も似ているせいか、彼女にはすぐに理解していただけました!
───最後のページにプレゼントが描かれていて、中身がとても気になりました。「僕」はママに何をプレゼントしたのでしょうか?
これ実話を話すと、息子はママに「何を買うか」を伝えた結果、大泣きしたようです。言い出したら止まらない息子は「買い物に行きたい!」と伝えたのと同じように、何がしたいかバレた後は、「もういい」「買いたくない」という強い意識が働き、結果、何も買えませんでした。
翌日の母の日には、僕もハワイに戻っていたので、「何を買いに行きたいか?」と彼に聞いたけど、彼は「もういいんだ。バレたから」といやみとか、しょげて言ってるのではなく、本当にスイッチが切り替わって、「もういい」モードになっていて、彼と二人で夕食等の買い物にでかけた際に、俺がどんなに「何か買うの?」って誘っても「もういいんだ」ってケロっとしてました。